女会議

「愛斗!千代間さんから聞いて…。大丈夫なの!?」

ただ、愛斗以上に芽衣の登場に反応したのは、女性陣の2人だった。

美咲は少し嬉しそうだったが、芽衣を見る茜に表情は無い。


「うん、貧血だったっぽい。心配かけてごめん」


「昨日のあのことがあったからだよね…」


「昨日のあのこと?」

愛斗の彼女である茜が、芽衣を問いただす。


「あぁ…。実は…」

愛斗と芽衣は、茜に昨日の夜にあった信じられないようなことを話した。

その間、茜は2人の不可思議な話を真剣に聞いた。


「愛斗、昨日は本当に大変だったのね」


「否定はできませんね」


「愛斗に昨日、私も色々言っちゃったの」


「そうだったんですね…。じゃあ、愛斗にはゆっくりしてもらいませんか?」


「そうね。そうしたいわよね、愛斗」

昨日、愛斗に負担を掛けた2人が、愛斗に休むことを勧める。

愛斗は確かに疲れていた。

意識を失ったのは朝、今は夕方の5時過ぎ。

かなりの時間眠っていたわけだが、だるさはかなりある。

頭が重く、軽いめまいは常にしていた。


「…はい」


「じゃあ私たちは外に出ましょうか」

茜がそう言うと、女子3人は病室から出ていく。


「愛斗、お大事に」


「じゃあね、お兄ちゃん」


愛斗は病室に1人残された。



「芽衣さん、昨日あったことってどういうことなんだろうね」


「本当に信じられません。今でも」


茜、芽衣、美咲の3人は、愛斗の病室を去った後、病院の一角にあるソファーに座って話していた。


「お兄ちゃんの記憶と何か関係あるのかなぁ」


「良い方だったらいいのだけど。どうなのかしら」


彼女たちがいくら考えても、その現象の真相に辿り着くことは無いだろう。

今、彼女たちはこうやって話すことによって、罪悪感や不安や疑問を紛らわしているだけに過ぎない。

だが、愛斗も気づいていない彼を取り巻く渦も、彼女たちはなんとなく気づいていた。

愛斗には何かがある。もしかしたら近い将来に何かが起こる。

それが愛斗にとって良い方に進むことを3人は願っている。


「何話してるんだい?」

その時、3人の死角から現れたのは、茜を散々な目に遭わせた須崎だった。

美咲が茜の心情を察して彼女の顔を見ると、すでにその顔は凍っていた。

そんな茜を須崎は見て、

「そんな顔しないでくれよ」

と、空気も乙女の怯えた心も何も読めていない口調で言った。

もはやその存在は、茜にとってトラウマとなった。

何があったか知らない芽衣は俯瞰で見ることしかできなかった。


「まあ、色々あったのかもしれないけど、あまり愛斗くんを振り回さないであげてくれ」


「それは分かっています。ただあの子、良い子過ぎるんです」


「そんな感じはするよ。断れなそうな性格だからね。妹さんから見てお兄さんはどう見える?」


「だいぶ性格が変わりました。一番に感じるのは、以前より優しくなったってことです」

喜んではいけないことだと分かっていても、どこか美咲は嬉しそうにそう話した。


「幼馴染の君から見てどう?」


「そうですね。性格はあまり変わったようには思いません。ただ、ちょっと不器用になりましたね」

芽衣は、愛斗を思い浮かべながら微笑み、面白そうに話した。


「不器用か。今西さん、君はどう?」


「…え、えっと。私にもあまり変わっていないように思えます」


茜は嫌々須崎の質問に答えた。

須崎は、茜が話した時だけ険しい表情をした。

そして言った。

「嘘はよくないよ。彼女さん」

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