第14話「姉と姉とは気負いない!?」
結局あのあと、父さんの
僕も何度も姉たちと訪れてる墓には、今日も花が絶えなかった。いつもそうだけど、生前の父を
初めて墓参りを果たした
でも、
そんなこんなで、昼過ぎに帰宅してみんなでそうめんを食べたら、時間が過ぎるのはあっという間だった。
「嘘ですぅ、
「いやだから、さっきから説明してるじゃん? あたしちゃん、ロボでした! はい、以上終わり!」
「えぇ、本当にぃ? だって、華凛ちゃんはずっと華凛ちゃんだったしぃ」
「ニシシ、あたしはロボな自分を隠し通せてたってことですよな? な? なぁ?」
遅めのお昼ごはんを食べて、後片付けをしているうちに日は
時計を見れば、まだまだ三時を回ったばかりだ。
そして、放課後をくりあげてきた姉たちが家に戻ってきている。
華凛姉さんは、ロボットだった。
もはや、人間ですらない。
僕の姉ではないかというと、それは僕が決めることだ。
問われるまでもなく、華凛姉さんは僕の姉の一人だ。
「そんなのおかしいですぅ! だって、ロボなのに、ロボなのに!」
「ロボなのに?」
「どうしてロボが、わざわざ
「それな! ってか、そこかー……まあ、うん、そうかなあ。でも、このメガネはあたしちゃんには大事なマストアイテムなんだよねー」
今、リビングで楓夜お姉ちゃんは華凛姉さんを問い詰めている。普段は帰宅後は、自室に戻って着替えてくるのが普通なんだけど……楓夜お姉ちゃんは
僕はといえば、夕食の準備中だ。
買っておいた豚肉があるので、冷しゃぶなんかがいいかなと思って。
二人の姉はヒートアップしてるようだが、僕は気にせず作業を続ける。すぐ近くに
姉がロボでも僕は構わないし、姉は姉でいてくれるならどんな存在でもありがたい。
「あー、この眼鏡ね、うん……まあ、チャームポイント? 的な?」
「全然説明になってないよぉ~」
「……この眼鏡、博士の……パッパの
「えっ? そうなの!? ちょ、ちょっと待ってぇ、エモみがエモ過ぎるよぅ」
不意に華凛姉さんは、眼鏡を外して遠い目をした。
そういえば、いつも華凛姉さんは眼鏡をしてる。物凄く服装やアクセサリにこだわる割に、眼鏡はいつも同じもの、ずっと
その秘密が今、初めて語られる。
「これは、博士の開発したマルチ携帯端末の一種だよん? これをかけてるだけで、常時ネットに接続されてるし、必要な情報は思考で念じるだけでゲットできるンゴ!」
「えっ……嘘ぉ、嘘だよぉ。そんなの、メチャクチャ便利じゃないですかぁ」
「あとまあ、あたしちゃんの必殺技、目からビーム! ……の、リミッターも兼ねてるかなあ。ぶっちゃけ、フルパワーで直接浴びせたら、大変なことになるから。たかがメインカメラといえど、防弾使用のこの眼鏡で守るってやつでさあ!」
「オプテッブラアアアアッ! ……的な?」
華凛姉さんはロボットだから、目からビームが出る
あれ、危ない光線だったんだ……眼鏡かけてないと、本当にヤバいレベルだったんだ。気軽にブッ放してたけど、そうだったのか。
僕が付け合せの野菜を用意している間、物騒な話が続いた。
けど、意外にも翠子姉様が思い出したように静かに笑う。
「天才科学者にして、無数の異能力を持つ超人……
珍しく
自分でグラスに麦茶を足しつつ、彼女は懐かしむように言葉を続けた。
「研究のテーマ、その一つは人間への探求、追求……人間より優れた、人間の
カーボノイド、アーキテクトヒューマン、そして人間としか思えぬ華凛姉さんというロボット。父さんにとって、人間とはなにかという疑問は、永遠のテーマだったのかもしれない。人間に並ぶ存在として無数の方向性を探りつつ、様々な成果を生み出した。
自分の死後、それらが息子に災難をもたらすとは思っていなかっただろう。
それは当然だし、今の僕なら理解できた。
僕の想いをなぞるように、翠子姉様の言葉がしっとりと優しく湿る。
「もう一つは、人間をサポートする機械……人間同士をネットワークで繋ぎ、物理的にも精神的にも補佐するシステムを作ってた。それは今も、一部分だけ社会に浸透してるわ」
「つまり、りんりー! 例えば昨今普及したスマホとかSNSとか、ああいうのは全部大なり小なり博士が関わってたッスよ!」
「え……父さんが? そんなことにも」
父さんは、人間に代わるものを探して求めた。人間とはなにかを探る中で、自分が学んだ人間を作って、再現しようとしたのかもしれない。それがカーボノイドであり、アーキテクトヒューマンなのだろう。
同時に、人間そのものの力を増幅し、人間にとって有益な道具を生み出そうとした。
スマートフォンや華凛姉さんの眼鏡の、その延長線上へと視線を滑らせる。
今、庭では父さんの発明品の一つが力を発揮しようとしていた。
見やれば、季央ねえは帰ったばかりの
「へえ、凄いね。これだけ? この、腕時計みたいなので変身できるんだ」
「変身じゃないけど……それ、ボクの予備なんだぞ? 一応、千奈の音声を登録しておいたから、装着できるけど。でも、やめたほうがいいと思う」
「そう? だって、ええと……
庭に出た千奈の姉貴が、手首の小型端末を触って感触を確かめる。
詳しくは知らないが、例の季央ねえの特殊スーツの話だ。これも言ってみれば、人間の身体能力を助けるもの……父さんの研究が生み出した道具の一つだ。
E.R.O.スーツは、装着者の感情を増幅して力に変える特殊な装備だ。
季央ねえは、予備に持ってきたものを千奈の姉貴に渡したようだ。
「じゃあ、やってみるよ」
「……本当に? やめたほうがいいよ、千奈。ボクは正直、オススメしない。何故って……ボクは思い知ってるんだ。死ぬほど恥ずかしいってのを」
「そうかい? でも、季央はスタイル抜群だし、見た目も中身も理想の女の子じゃないか。私はまあ、男だけど……でも、こう見えて身体能力には自身があるし、麟児を守りたいし」
「ま、いいんじゃない? 一度装着すればわかると思うわ」
千奈の姉貴がスポーツ万能、武芸百般なのは僕も知ってる。
頭脳明晰で常に学年トップの学力なのに、スポーツ万能であらゆる武道に精通している。肉体的には男性だからと言っても、同世代の男児とは比べ物にならないスペックの持ち主なのである。
美貌と学力、そして身体能力……学園のマドンナなのも頷ける話だ。
その姉貴が、手首の端末を操作して身構えた。
「よしっ、やってみるよ。――
『
あっという間に、千奈の姉貴が光に包まれた。
それと同時に、季央ねえは何故か背を向ける。
そして、周囲が輪郭を取り戻した時……千奈の姉貴はまるで、神々の加護を得たかの
そう、雄々しい姿だ。
自身たっぷりで立つ千奈の姉貴は……うん、確かに雄々しかった。
すぐに言葉を投げかけたのは、楓夜お姉ちゃんだった。
「千奈ちゃん! それ駄目! 駄目ですぅ~!」
「えっ、そう? なんか、今……身体が軽い。凄いね、このナントカスーツ」
「でも、駄目ですよぉ! そ、その、えっと、あの、んと」
うん、駄目だ。
完全にアウトだと思う。
季央ねえが装着した時もそうだけど、ぶっちゃけE.R.O.スーツは全裸も同然だ。首から下に露出はないけど、ぴったりと身体に張り付いてフィットした薄布の集合体なのである。
だから、その……まあ、千奈の姉貴は兄貴だからね。
そのことをギャハハと笑いつつ、華凛姉さんが突っ込んだ。
「千奈っち、それアウトー! めっちゃアウトじゃん! もっこりしてるし!」
「あ……そっか。うん、これはまずい、かな」
「まずいどころかスリーアウトだじぇ! ……りんりー、元気出せよ? いいか、世の中大きさだけじゃない、
慰めてくれる華凛姉さんの言葉が、イマイチよくわからない。
けどまあ、ちょっと目のやりどころに困るな。
千奈の姉貴はスタイルバツグンの美人で、兄貴として見ても中性的な美男子だから。そういうジェンダーの曖昧な姿が、全身のシルエットを見せつけてくると、ドキドキする。
けど、変身を解除する姉貴もとい兄貴を見て、翠子姉様は
どこか懐かしむように、その表情は温かく柔らかい。
「あのスーツも、人間というものを知るために造られましてよ? あの人は……ずっと、人間を追求していた。人が持つ道具としてのネットワーク機器を開発し、人そのものに代わるモノ、人のパートナーたる存在を探していた」
「姉様、それは」
「麟児、覚えていてほしいの。父様は……あの人は、人間の可能性を高めるため、その高みに
「……優しんだね、僕の父さんって」
静かに「ええ」と笑って姉様は
だから、その言葉が全てなんだと信じられる。
僕には四人の姉がいて、最近一人増えた。実は男だとか、本当はロボットだとかは関係ない。大事なのは、僕が姉と思って慕ってることと、姉たちが僕を大切にしてくれること。
家族をやってる以上は、全てが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます