第12話「救いの姉が人じゃない!?」
自分の肉体が光になった人間なんて、そうそういないと思う。
だとすれば、今の僕はズバリそのものだ。
そう、そうそういないどころじゃない。本当に世界からいなくなってゆくような感覚だ。全身の細胞が粒子レベルで分解され、際限なく加速してゆく感覚がある。
永遠にも思える一瞬が終わると、僕は
「ここは……? とりあえず、異世界とかじゃないみたいだけど」
瞬時に判断した材料は、複数ある。
どういう訳か、以前より洞察力が向上している僕がいた。思考はクリアで、観察眼は意識している以上の情報を集めてくれる。単純な筋力以外も、特殊な状態であるらしい。
まず、周囲は
その証拠に、停止したショベルカーやブルドーザーがある。
今の時間は恐らく、作業の合間の一服休憩とかだろう。
そして、高笑いが響いた。
「ハッハッハ! 素晴らしい……そうか、わかったぞ! 完全に理解した!」
例の、
元助手、か。
どっちにしろ、今の僕や姉たちには関係のない人物である。
そして、僕は自然と事件の元凶から眼を背け、一人の少女を探す。だが、
どうやら、ここに飛ばされたのは僕と愁だけらしい。
「とにかく、帰らないと……まいったな、スマホも
「フッ、なにを言う。貴様の、いや……
「誰か大人はいないかな。おーい、誰かいませんかー」
「おいっ! 私を無視するんじゃない! い、いや、無視しないでください」
不意に愁が、気持ちの悪い猫なで声を放った。
だが、残念ながらこの場には二人しかいないようだ。
そして、愁は僕へと詰め寄り両肩に手を置く。
「は、放してください」
「いえ、もう片時もお側を離れません……ようやく私は、
「……は?」
「数々の特許や発明、カーボノイドやアーキテクトヒューマンなど、これに比べればゴミみたいなものだ!」
僕は反射的に、愁の手を振り払った。
心底腹がたった。
愁のせいで、突然季央ねえは混乱の中に叩き落された。彼女がアーキテクトヒューマンとかいう、いわゆる人造人間かはわからない。けど、彼女の記憶が断片的なことには理由がある
それを、この男は無神経に
そして今、アーキテクトヒューマンをゴミだと言ったんだ。
アーキテクトヒューマンかもしれない季央ねえをゴミと言うなら、許せない。
「少年、確か……そう、
「それがなにか? もう、心底迷惑です。これで失礼します! 歩いて少しでも市街地に出れば――」
僕はとりあえず、山中にあるらしい工事現場を歩き出す。
早く帰って、季央ねえを安心させたい。
せっかく家族をやってるんだから、邪魔しないでほしいんだ。
けど、僕に先回りするようにして、愁が行く手を遮る。
彼の顔には、気味が悪いほどの
「高定の遺産、それは……貴様だ。そう、貴方こそが」
「確かに僕は父の子です! けど、誰のものでもないし、僕は物じゃない!」
「ああ、やはりまだ
なにを言ってるんだ?
僕は少し、不気味になってきた。
どうしてこの人は、僕の話を聞いてくれないのだろう。
それに、なんで父さんはこの人を助手にしていたんだろうか。
だが、突然僕は以外なことを言われて言葉を失った。
「……は? 今、なんて」
思わず聞き返してしまう。
「貴方は、高定だ! 私の尊敬する、
「なにが……なにがご安心だっ! 僕は父じゃない!」
「先程の瞬間移動、テレポーテーション能力がそうです。高定、貴方の非凡なる力の一つだった筈ですね?」
なんてこった、僕の父は人間じゃなかったのか?
悪い冗談だし、たちの悪い大人だと思った。この愁とかいう人は、なにもかもが最悪だった。
でも、ふと考える。
僕は父を、あまり知らない。
そして、父がもし愁の言うように超人で、超能力も使える天才科学者だったとしたら……僕は、父の新しい肉体として造られた人間だというのか? やっぱりじゃあ、僕は例のアーキテクトヒューマンとかいうものなんだろうか。
最近の不思議な力の
「さあ、一緒に行きましょう! 高定、貴方は私を必要とする! 共に、今度こそ世界に復讐してやりましょう!」
「は、放してください! 僕は……僕は、僕だ!」
叫んだが、自信がない。
なんだこれ、これじゃあ
普通でいいし、なんなら普通以下でもいい。
いつもの姉たちとの、平和な日常を返してくれ!
思わず泣きそうになった、その時だった。
「待て待てぇーい!
突然、長ったらしい決め
それで僕は、振り返る愁の視線を追う。
なんと、切り立った崖の上に人影があった。
しかも、知ってる顔だ。
思わず僕は、その名を呼んでしまった。
「え……? な、なんで……なんで華凛姉さんが!?」
「りんりーのピンチじゃけんのう! わっはっは! あたしちゃん、参上っ! 待ってろ悪党、今すぐそっちに行くからなー!」
そう、姉の華凛が腕組みふんぞり返っていた。
彼女はそーっと、脚から崖を降りようとする。
それは、愁がスーツの内側へと手を入れたのと同時だった。
「くっ、何故ここが」
「りんりーのオトウトロン反応を追ったまで! 高まれ、あたしの姉ヂカラ! ……とっとっと、あっぶねー! 落ちたら死ぬってばよ!」
「その前に、死ねぇ! 高定との
愁が取り出したのは、拳銃だ。
即座に僕が、持てる瞬発力の全てを総動員させる。
だが、手にした銃を叩き落とした時には、最初の弾丸が銃声を歌っていた。
華凛姉さんは「ぐえっ!」と、ちょっと美少女な見た目が台無しな声とともに崖から落ちる。それを見た瞬間、僕は逆上してしまった。
「お前っ、姉さんを!」
「ち、違います、高定。あれは」
「僕は父じゃないと言ってるんだ! お前は、僕はともかく姉さんを! 姉たちを!」
思い切り僕は、握った拳に怒りを込める。
そのままフルスイングで叩きつけようとしたが、その手がピタリと止まった。
手首を握られた感触が、柔らかく温かい体温を伝えてくる。
振り返ると、姉の腕があった。
そう……姉の腕だけが、その一部分だけが僕を握って止めてくれていた。
「え……華凛姉さん?」
「
姉の声がした。
よく見れば腕は
あの場所から、姉さんは腕だけを飛ばした?
え、それって……つまり?
次の瞬間、華凛姉さんはわかりやすく行動で真実を物語ってくれた。
「おうこら、そこのキモいおっさん! あたしのりんりーをいじめるな……あと、コンティクショー! メカバレしちまったじゃねーか、ドララァ!」
華凛姉さんは、両足からジェットの炎を吹いて飛び上がった。
そのまま、電光石火の突進力で低く飛ぶ。あっという間に飛ばした腕と合体するや、そのまま目から
うん、目からビーム出てる。
わかった、姉さん……ロボだ。
衝撃の事実というか、華凛姉さんはロボットだったのだ。
「貴様は! ……思い出したぞ、高定が造った
「にゃはは、今はりんりーの姉やってまーす。ってことで、ブッ飛ばす!」
「ぐぬぬ、最高の遺産を目の前にして……愛する高定を目の前にして!」
「それな! 多分勘違いだと思うぞい? とりま、あっちいけっ!」
姉さんのビームに、逃げ惑う愁が遠ざかる。
それを見送る僕は、腰が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。姉は姉じゃなくて、
けど、気絶するほどメンタリティが弱ってない自覚がある。
変な話だけど、僕は
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