第3話「姉と姉とが一触即発!?」
その日、我が家で夕食前に家族会議が行われた。
因みに今日のメインディッシュは、
そんな訳で僕は、ひき肉をボウルでこねていたんだけど。
「
「ん? ああ、これ。平気だよ。最近ちょっとね」
「そ、そう」
彼女が心配してくれたのは、僕の手。いや、ボウルの底を冷水に浸して冷やす、これで肉汁たっぷりのハンバーグが作れるんだ。
でも、人間の手には体温があるからね。
氷で手を時々冷やしつつ、って感じで調理中。
まあこれ、今日は少し急いでるからドライアイスなんだけど。
「姉様、休んでて。というか……あの空気をなんとかして」
「私が? ん、まあ、年長者の務めですわね」
服装も相まって、今は小学生にしか見えないんだけど。それでも、一番上の姉はリビングに戻っていった。
その先では、重々しい険悪さが滞留していた。
姉様がいつもの
ソファには、姉さんとお姉ちゃんが一緒だ。
姉貴はと言えば、部屋の隅で腕組み壁に寄りかかっている。
みんなの視線は、一人の少女に注がれていた。
「繰り返すようだけど、いいかな? ボクはこれでも
彼女は四人の姉たちをぐるりと睨めつけ、先程の言葉を繰り返した。
「パパの遺産と麟児クンを、姉のフリをした不届き者が狙ってるんだ!」
姉たちはやっぱり、もう一度互いに顔を見合わせる。
そして『お前が言うな、お前が』という視線を季央ねえに集中させた。
「な、なに? なんなのさ、その目!」
「いやー、あたしちゃん思うに……
「それって、君のことだよね? 私たちは前からずっと麟児の姉貴だし」
「っていうか、誰? ……あ、そっか……
「まあ、落ち着きなさいな。まずはお互いを知ることからじゃなくて?」
当然だ。
皆が皆、季央ねえとは初対面である。
だが、勝ち気で強気な笑みを浮かべて、季央ねえは堂々と名乗りをあげた。
「ボクは季央・ツェントルム。弟の麟児クンを守るためドイツから来たの。ママは眠りにつく前に言ってた……パパの国に弟がいて、狙われてるって!」
フンスと鼻息も荒く、季央ねえはどうだと言わんばかりに胸を張る。
だが、姉たちの反応は微妙だ。
それでも、やれやれと姉さんが立ち上がる。彼女は
「そこまで言われちゃ、無視できないぞい? んじゃま、まずは長女の
「ちょっと? 意味がわからないのだけど。でも、ここは私以外は未成年ね」
立ち上がった姉様は、改めて小さく一礼した。
真っ白な肌に黒い長髪、普段はフリルとレースでフル武装な
今では見た目は、成長した僕が追い越しちゃったけどね。
「んで、次女の
「いやそれ、伝わってなくない? ま、よろしくね」
千奈の姉貴もそっと手をあげる。
どうやら季央ねえは、自分以外の姉に……その四方八方に
無理もない。
ラジカルでポジティブな千奈の姉貴も、初めて翠子姉様と会った時ははそうだった。
すらりとスレンダーな長身に、長い長い髪を幕末の
「そして、あたしちゃんっ! そう、
姉さん、ポーズ決め過ぎ。
まあでも、華凛姉さんは年中この調子だから、誰も気にしない。快活で
いつもどこでも、無敵に元気なんだ。
この段階でもう、季央ねえは硬直したまま目元をヒクヒクさせている。
「あと、四女の
「ちょっと、なんでぇ? どうしてわたしだけ、雑なのぉ?」
「わはは、メンゴメンゴ! オタサーの姫っぽさに驚け、世界よこれが楓夜っちだ!」
「もぉ、いいですー! それはそれとして……季央ちゃん、だっけ? 麟ちゃんに近付いたら対応するからよろしくねぇ? 強く強く、つっよーく、対応するから……!」
楓夜お姉ちゃんは、一番最近の姉。長い
以上、四人の僕の姉だ。
季央は少し
それで、ようやく翠子姉様が口火を切る。
「さて、季央さん……だったかしら?
「え、えっと、ボクは、っていうか! ボクが、ボクだけが姉なんだけどっ!」
「や・る・の・ね? どうなのかしら」
翠子姉様は、ちょっと
僕も小さい頃は、よく翠子姉様に怒られたものだ。
その時のオシオキは……ちょっと思い出したくない。
そんな訳で、季央ねえも気圧され言葉に詰まった。
そこで千奈の姉貴が助け舟を出す。
「まあまあ、えっと、季央? 季央の言うことが本当なら、半分は私たちと血が繋がってることになる。父さんがアチコチで子供を作ったのも、私たち四人には周知の事実だし」
そう、僕も含めてこの場にいる五人は、父親が同じだと思われる。
僕が一番父親と、
そんな父が死んで、一人ぼっちになった。けど、最初に来てくれたのは翠子姉様だった。あの頃は本当に、小さな姉様が大きく見えたっけ。で、順に千奈の姉貴、華凛姉さん、楓夜お姉ちゃんがやってきた。
僕たちはこうして今も、一緒に家族をやっている。
そんなこんなで、今日は五人分のハンバーグを作っているのだ。
季央ねえは一度こちらとちらりと見て、それから言葉を選んだ。
「ボ、ボクは麟児クンを守るわ。そのために来たんだし……だから、姉をやるもなにもないもん。ボクが誰よりも一番、麟児クンの姉なんだ」
「あら、そう。どうかしら、千奈。華凛も楓夜も」
安楽椅子を小さくギシリと鳴らして、翠子姉様は周囲を見渡した。
僕は僕で、熱したフライパンでハンバーグを焼き始める。ご飯は炊けてるし、付け合せの野菜も大丈夫。あとはサラダと、
いい匂いが漂ってきたところで、どうやら話の結論は夕食後に持ち越しとなるみたいだ。
「えっと、とりあえずさ。みんなも季央も、ご飯にしない?」
「千奈ねきに激しく同意ッス! 翠子ねきも楓夜っちも、いいよねん?」
僕は五人分の夕食を、そろそろ準備し終える頃だ。
季央は言葉に詰まったが、不快感を示すことはしない。小さく
「とりあえず、休戦ね。パッと見た感じ、今は悪い人たちには見えないもの」
「たっは、
「えっと、華凛。キミはとりあえず、一番怪しいわ」
「よせやい、照れる」
「褒めてないっての! でも、麟児クンを見ててわかった。キミたち、悪い人じゃなさそう……今は、ね」
季央ねえの言う意味、察した実感が僕にもよくわかる。
姉たちは皆、ちょっと普通じゃないけど……善意と厚意で僕を守ってくれる。時々やりすぎることもあるけど、僕のかけがえのない家族だ。
だから、心配はかけたくない。
みんな、学校へ行かなくなった僕になにも
そう、僕は
それは――
「そういえば、季央ちゃん……って、呼ぶねぇ? あ、わたしのことも楓夜お姉ちゃんでいいから」
「……ボク、キミたちを姉とは認めてないけどね。でも、なにかな?」
「ホテルかなんか、取ってる? 夜に寝る場所を確保してるかなあって思ってぇ」
「そんなの決まってるさ。ここだよ、ここ。ここはボクのパパの家、弟の麟児クンの家なんだから」
なら、お客様用のお布団を出さなきゃいけない。客間もあとで軽く掃除機をかけておこうかな。そう思いつつ、皆が歩み寄るダイニングのテーブルにメインディッシュを並べる。
だが、その時
そして
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