第4話 お揃いのマグカップ

彼女との買い物デートで一番印象的だったのは、岐阜駅前にある雑貨屋でのことだった。

一緒に居ると分かるようになるのだが、彼女のセンスは凄く好きだと気付いた。


『ねえ?このマグカップ素敵じゃない?』

それは寸胴のシルエットに英語で文字が記載されているものだ。

そして、形が同じでグリーンとピンクのペアカップだった。


『これお揃いだから一緒に使わない?』

当時、マグカップなんてお洒落なものは使ってなかった。


『I子が気に入ったなら一緒に使うよ』

だいたい自分はコーヒーとか飲む習慣がなかったし、ボトルや牛乳パックの飲料水を、そのまま直飲みするタイプだったから(笑)


『じゃあ、ずっと一緒だね♪』

私はマグカップなどどうでも良かったが、彼女の嬉しそうな表情が好きだった。

出会った頃から彼女は笑わないタイプだったから、好きな人が嬉しそうな笑顔をするのは自分も嬉しいに決まっている!


買い物を済ませると、いつもの様にディナーへ出掛けた。

今日は古い西洋風の店構えをした、ドリアが美味しい店をチョイスしていた。

以前にもこの店には行ったことがあったが、そこへは男同士でしか行ったことが無かったのだ。

いつか彼女と呼べる人が出来たら、一緒に行きたいと思っていたから念願叶った瞬間でもあったのだ!


お店の床は木目になっており、女性がヒールで歩くとコツコツと音が響く店内だった。

そして、テーブルの上にはキャンドルが灯されており、お店の照明は各テーブルのキャンドルライトのみなのだ。

彼女とはテーブルを挟んで向かい合わせに座り、料理が来るまで何気ない会話を楽しんだ。


『素敵な雰囲気のお店ね(笑)』

彼女もそのお店のチョイスを喜んでくれた。

素敵なことを素敵と共有できることって、一緒に居ると大切なことだと実感する。

いわゆる価値観って男女の違いはあるけど、その価値観が近い人といると嬉しいことだと思った。


『いつか綺麗な人と一緒に来るのが夢だった店だよ(笑)』

少し意味深に会話をするのが私は好きだった!

そして、その会話に彼女も嬉しそうに反応してくれた。


『いつもそうやって誰かを口説いてるの?』

確かに私はリップサービスを言うことがあるが、本当に好きになった人には上手く伝えられない自分も居た。

彼女もまだ私の本心を探っているようにも思えた。


『I子にしか言ったことがないセルフだよ(笑)』

キャンドルライトに照らされた彼女の潤んだ瞳が写し出されていた。

そしてその瞳を見つめて、嘘偽りの無い気持ちでI子とは接したいと強く思った。


『じゃあ、ずっと一緒に居ようね♪』

彼女が私にそう囁いた。


それから彼女とお揃いのマグカップを大切にした。

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