第2話 無骨な男と笑わない女

中学生時代のⅠ子の印象は物静かな性格だと記憶している。

今の私の身長は、正確に言うと173センチ。

彼女はヒールを履くと180センチに達する、モデル並みの高身体とスタイルを兼ね備えていた。


私も身長だけは追いついたが、精神年齢はⅠ子の方が凄く大人びて感じた。

そして、I子の美貌に男は心奪われるであろう存在だった。

しかし、私は彼女の見た目よりも大人びた性格が気に入った。


中学生時代に彼女が好きだった男のことを知っていた。

当時、私はⅠ子のことを異性と意識することもなく、ただのクラスメイトでしか無い存在だった。

それは彼女も私を異性として捉えていなかったから同じ境遇だろう。


『今でもA男のことが好きなの?』

無骨な男は何も考えずストレートに物事を聞く習性がある。


『もうそれは中学までのことだよ(笑)』

彼女は少し戸惑いながら、私の無意味な質問を笑い飛ばした。

言葉では言わなかったが私の誘いを断らない彼女は、私ことを嫌いでは無いと理解していた。

いや!むしろ好意に思っているに決まっていると思い込みたかった。


そして物静かでどちらかと言えば無表情で笑わない彼女。

そんな彼女を会う度、笑顔にすることが私の喜びとなっていた。


『ご馳走様でした!』

ある飲食店で食後に手を合わせて彼女はそう言った。


『それを言うなら作った人に言ったら?』

私はそう言うと彼女は口を押えながら静かに笑ってくれた!

今、考えると面白みに欠ける会話だが、彼女はそんな小さな笑いに飢えていたのかもしれない。


食事が終わると私と彼女はドライブに出かけた。

彼女に行きたい場所のリクエストを聞いても特になかったからだ。

かと言って彼女は無趣味とか物事に無関心とかではなく、乗馬をしたりテニスをしたりすることが趣味のお嬢様だった。


そして彼女は名古屋でも有名な女子大学生で、私の様な無骨で知識の浅い男には似合わない女性だと感じていた。

それでも私のどこを気に入ってくれたのか?

星の数ほど居る彼氏候補の中から、私を選んでくれたのだ。


『これ、この前に約束してた私の写真ね♪』

前回のデートの時にⅠ子の写真をお願いしていた。

撮影されるのが苦手な彼女だったので、自分が気に入った写真を持ってきて欲しいとお願いをした。


恋は盲目って言うけど彼女のその写真は本当に眩しかった。

それは高原のペンションで撮影した時のものが二枚であった。

一枚目は白樺にもたれた姿勢で白いロングスカートとピンクのカーデガン姿の清楚な写真だった。

そして二枚目は湖に浮かぶデッキの上で、大きめの帽子を被り、夕日に照らされた彼女の姿だった。


私はその二枚の写真を眺めて、声にならないニヤついた顔をしていたことだろう。

そしてこの写真を自慢げに誰かに見せたいと心の中で思った(笑)

男と言う生き物は自分の彼女を、まるで勲章のように胸に付けて、そして将軍になった気分で誇らしげに自慢したい衝動があると思った瞬間だ!


『誰にも見せないでね!恥ずかしいから』

彼女はそう言ったがその約束を守る訳がないと心の中で思った!


『うん!これは俺だけの大切な写真にするね』

そして美しいものは皆で共有すべきだとも心の中で思った!


『代わりにコレをあげるよ!』

それは私の写真がプリントされたテレホンカードだった。

当時は芸能人のテレカが流行っていて、自作する人も少なくなかった。


『ありがとう、一応もらっておくね』

彼女のリアクションはいつもながらに薄い。

でもプレゼントなんて自己満足だから、そのテレカを彼女が所持しているだけで嬉しかった。


それから、お互い現在の境遇を話し合い、幼馴染から大人の男女の仲へとなれる様に願った。


そして、彼女を少しづつ理解しようとした自分がそこには居た。


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