再び砂浜へ

 あの砂浜ではない近くの岸に船をつけた。

 ミラーたちは私やポンタの姿に変わり、たくさんの私たちは小道から回って砂浜の様子を窺う。

 道にはリップサービスたちのものと思われるヌラヌラとした這い跡が二本あった。


「二人とも来てるみたいだね」

「うん、そうだね。追い出されなかったって事かもね」

 ポンタはそう言って、這い跡を辿る。

 その先の砂浜では、想像もしなかった光景が繰り広げられていた。

「ちょっとぉ! しっかりしなさいよ!」

「そうよ、そうよ! 諦めちゃダメよ! 私たち知り合ったばかりじゃない!」

 リップサービスの二人が、盛り上がってはサラサラと流れていく砂浜に向かって叫んでいる。一見すると何もない所に叫んでいる危ない二人だ。


 その異様な見た目に完全に引いてしまっているミラーたちと共に、私とポンタは砂浜に足を踏み入れる。

 砂浜は拒絶なんてしなくて、私たちは容易くその砂を踏みしめる事ができた。

「二人とも、来てたんですね」

 私が声を掛けると、二人はブルンとした唇をブルンブルン揺らしながら私に絡みつこうとする。


「私たちが悪かったから、助けて頂戴!」

「そうよ! この砂浜だって悪気があったわけじゃないのよ! 突然生まれて戸惑っていたの」

 二人が交互に訴える。

「自分の美しさにも気付かず、ただ守ろうと……怯えていただけなのよぉ!」

 この二人に目はない、と思う。見えてはいるようだけれど。とにかく、涙は流れないけれど泣いているのだという事は分かった。

 私たちに口を挟む隙を与えずに、二人は尚も続ける。


「この砂浜さんは寂しいのよ。お別れが怖いから人を寄せ付けなかっただけなの」

「それに、褒めたらとっても喜んでくれたわ」

 そこで砂浜が、ズズズッと小さな手の形に盛り上がる。その小さな手が、バイバイと言う風に振られる。

「待って、砂浜さん!」

「死んじゃ駄目よ! 頑張りなさい! 私たち、これからじゃないのよ!」

「そうよ! 私たちの為に畑を耕してくれるんでしょ!」

「一緒に夕焼けに染まる海を見ようって言ったじゃないのよ!」

 おぅおぅと二人が泣く。


 私は本の中から風のソーダ玉を一つ取り出し、砂浜に置いた。

 すぅっと沈み込んでいくソーダ玉。

 次の瞬間、パァっと砂浜が緑色に光り輝いた。

 私たちよりも大きな砂の手が現れ、グッと親指を立てる。


「砂浜さん!」

「良かったわねぇ! 本当に良かったわぁ……」

 二人が喜びを隠しきれずキラキラと輝く砂に塗れる。


「あんた、いい人ね」

「そうね。見直しちゃったわ」

 騒動が落ち着いて、皆で砂浜に座りながら夕焼けに染まる海を眺めている。

 どれだけ水魔法で体を洗っても、リップサービスのヌラヌラは完全には落ちない。けれど、もういいのだ。諦めも肝心だ。後でお風呂にでも入ろう。

 そうしている間にも砂浜の一部は着々と畑になっていく。種類の違う土をどうやって用意したのかとか、こんな場所で作物は育たないんじゃないかとか、色々な疑問はある。

 けれど、それらよりも私が問いたいのは一つ。


「沖まで行く必要なかったって事?」

 私がそう言ってうな垂れると、ミラーたちが腹を抱えて笑う。

 ポンタが答えた。

「どの道、魔力スポットは何とかしないといけないからね。今回はハッピーエンドって事でいいんじゃない?」

「まぁ……うん」

 私は納得しきれないまま頷く。


「ルルドたちは、これからどうするの?」

 私が聞くと、ミラーたちの長老であるフフヂが言う。

「お前たちに付いて行くぞ。どこかにネグラがあるのだろう?」

「それじゃあ早いですけど、一度戻ろうか?」

 私がポンタに聞くと「そうだね」と答える。


 そういう訳で私たちは、たくさんの仲間と一本の魔力スポットを得て地下迷宮に戻る事になった。


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