やっと目的へ
およそ三十人のミラーたちが船となり、私とポンタを沖へ連れて行ってくれる事になった。風はいよいよ緑に色づきはじめ、ソーダ玉にしたはずの風の魔力がまた溢れる。
「俺、船首飾り!」
「おい待て! 船首飾りは俺だろう! 長老を敬え!」
「いやいや、長老は我々の道しるべですから。やはり舵でしょう。じゃあ帆は俺がやりますね」
なかなか役割の決まらない彼らに、そんなに大きな船は必要ないと言ったのだけれど「これだけは譲れない」と言われてしまった。
彼らは目の前で櫂になったり、たくさんの船首飾りになったりした。そしてパッと消え、また現れる。彼ら自身は空気のような存在だからだろう。
もうすでにルルドがどこにいるのか分からない。だからこそ、彼らにとって名前は大切なのだ。
私が初めに出会ったルルド、長老のフフヂ、まとめ役のムムグ。
名前が、混ざりあいそうになる彼らを個々に分けるのだと長老は言った。
しばらくして、立派な船と三人の海の男が現れた。そのうちの一人はルルドだ。
しかし海の男とは言っても、人間というには違和感がある姿をしている。彼らの惑星にいた種族なのだろう。二本足で立ちガタイの良い体は確かに人のようなのだけれど、肌は青い鱗に覆われ、首の後ろから背中にかけて突起がいくつも並んでいる。その突起のせいで上半身は裸だ。
「よし、出航だ!」
私とポンタが乗り込むと、誰かが掛け声をかけて船が出る。
ミラーたちはその存在の在り方ゆえか、五色の魔力をそのままで見る事ができた。なので船は何もせずとも風の生まれる所へ進む。
海上には多くの風の精霊が飛び交っている。その体の大きさから、かなり魔力が濃い事が分かる。
不意に私の体を撫でるように渦を巻いた風から、青緑色の鳥が生まれた。コロンコロンと高い声で鳴きながら飛び去って行く。
「どれだけ精霊が飛んでもキリがないぐらいの魔力スポットがあるって事だよな?」
ルルドが言う。
「そう思うよ。なんて言うか、魔力と相性が良かったんだろうね」
ポンタが心なしか青い顔で答えた。
「大丈夫?」
私が心配して聞くと、ポンタが頭を撫でる。見た目は子供っぽくても、彼は樹齢千年以上なのだ。私なんかは新芽に思えるのだろう。
「大丈夫だよ。潮風が苦手なだけだから」
「ごほっ、ごほっ!」
口を開いた拍子に、魔力を大量に含んでパチパチとした空気に咽る。
「大丈夫か、嬢ちゃん? もうすぐ見えるぞ!」
そう言ったのは、海の男の一人になっている長老だ。
同じように海の男になっているルルドとムムグが、さっきから風のソーダ玉をたくさん作ってくれている。
彼らは本当に器用で、知識もなかったはずの魔法その物にもう馴染んでいて、私が作ったカバン代わりの何でも入る本さえも作ってしまったのだ。
そこへどんどんと入って行く風のソーダ玉は、どれもとても大きい。
「俺たちってさ、物を持たないんだよ」
私の背をさすりながらルルドが言う。
「持たないって、お金とか服とかって事?」
私が聞くと、ルルドは肯定してから付け加える。
「そう。あとは家も。何も持たないんだ。だからカバンなんて持つの初めてでさ」
ルルドが本を示して言う。
「邪魔になっちゃう?」
「いや。俺たちが変わっていくみたいでさ、楽しみなんだ。ありがとう」
「え? お礼なんて……」
「魔法とか魔力とか、イヌコたちも巻き込まれただけなのにさ、この惑星の事を教えてくれてこうして整えようとしてるだろう? イヌコたちのおかげだよ。だから、ありがとう」
私は少し照れ臭くて、小さく頷いた。
「あったぞ!」
その声に慌てて船首へ行くと、海の真ん中にキラキラと輝く木があった。葉は一枚もなく、花も実も付いていない。枝ばかりの木だ。色は乳白色で、光の加減によって七色に変わる。
そこに風の魔力の本流があった。
「石の木、凄い……キレイ!」
私がそう言うと、ポンタものろのろとやって来た。頭から枝を生やし、調べているようだ。
「そうか、これは別の惑星の物だ。これに乗ってやって来た誰かがいるんだろう」
ポンタの言葉に少し引っかかって、私は聞く。
「これをシェルター代わりにしたって事? どこにも隠れる場所なんてないのに?」
「これはシェルターそのものなんだよ。見えないけど防壁がある」
「それってもしかして、魔法がある惑星から来たって事?」
「そうかも知れないね。でも防壁のせいで調べきれないんだ。魔力スポットでもあるし、一度このまま持って帰ろう」
ポンタはそう言ってから、近くにいた水の精霊に『これで来た誰か』に伝言を頼んだ。
私が本のページを開くと、石の木は一ページを丸ごと使って収まった。そこに、魔力はソーダ玉に変わる、と書き足す。
ルルドたちが魔力をソーダ玉に変えると、辺りの海は凪ぐ。
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