祭りだ、祭りだ

 朝になるのを待ってから山に向かうと、確かに山の裾野が不自然に見える。片方は紅葉する実りの山、片方は岩肌に囲まれた川。

 そこでぶつりと途切れ、繋ぎ合わせたようだ。

 川の本流は山を迂回するように細く伸びている。元は小さな川だったのだろう。そこへ山の上から、新たな川が交わった事で、下流では水量が増えた。

 山からの川の交わり方も、小さな滝のように落ちている。


「てことは、花の香りで眠っているかもしれないって事が?」

「へぇ。けど、そんなに強い効果はないんで、もう起きてると思いやすよ?」

 ルルドを慰めるように鳥が答える。

「眠ったままなら、やっぱり海まで流れちゃったかな?」

 私が海まで戻ろうかと提案すると、ルルドは山に行こうと言った。

「眠ったのなら、酒から元の姿に戻っているはずなんだ。つまり、姿の見えない空気の状態に。きっと今も山にいる」

 そう言ってズンズンと進むルルドの後について、私たちは山に登った。

 その間にも、お祭り騒ぎの好きなミラーたちの為に歌を歌いながら。

 一つ残念な事は、鳥の歌が下手なことだ。本人は上手かったのだど主張しているけれど、今はとても不安になる不気味な歌だ。

 ポンタは、進化がいつもいい方向へ向かうとは限らないと言った。

 幸福鳥がビヨォォと嘆く。


「まったく反応ないな。移動したのか?」

 ルルドが焦ったように言う。

「とにかく山頂に行ってみようよ。もうすぐだよ」

 ほら、と言いながら私は指をさす。

 坂道の上に青い空。それこそが彼らかもしれないのだ。


 山頂で、積み上がった岩の間からサラサラと湧き出る水。そこが小さな泉のようになっており、川となって流れだす。

 その積み上がった岩の横に黄色い大きな花が咲いている。地面にべたっと広がった花は、私がその上で昼寝できそうなほど。

「おぉい! 長老! ルルドだ!」

 ルルドが叫ぶが、誰も答えない。

 すると、目の前にもう一つ山がある事に気付いた。同じように紅葉した山だ。この惑星の気候は五月ごろの雰囲気で、この山以外では紅葉した葉なんて見なかった。

 私はポンタに聞く。

「ねぇ、紅葉って何となく季節が違うように思えるんだけど。どう?」

「うん。気候的にはズレてるね。でも、おかしいな……」

 ポンタが首を傾げる。

「どうしたの?」

「確かに、この辺りにたくさんのミラーがいるんだよ」

「それ本当か⁉」

 ポンタの言葉にルルドが目を輝かせ、また呼びかける。


 寝ている可能性も考えて、私たちは初めの予定通りに酒宴を始める。

 近くにいた風と空の精霊も呼んで、酒を飲み、歌って騒ぐ。

 すると初めに地震が起きた。下から少し突き上げるような、弱い揺れだ。

それでも酒を飲み歌っていると、木々が揺れた。風に葉が戦ぐなんてもんじゃない。幹ごとグワングワンと揺れるのだ。

それから「ふわぁぁ」と誰かの欠伸が聞こえたと思うと、途端に地面が消えてしまった。

「なにこれ⁉」

 そこにあったはずの山が消え、私たちははるか下の地面へと落下する。


 魔法で助けてくれたのは風の精霊たちとポンタだ。

 おかげでゆっくりと降りるように落ちていく地面で、叩く人のいない太鼓が鳴っている。おおきなのから小さなのまで。

 笛も宙に浮いて楽し気に音を奏でる。

 幸福鳥は二羽に増えているし、私とポンタも増えていく。

「これって……!」

 私はもう二度と見られないと思っていた祭りの雰囲気に嬉しくなり、そこへ交ざっていく。

「長老たち! やっぱりいたんじゃないか!」

 ルルドも叫びながら、嬉しそうに笛に姿を変える。

 呼ばれた私は、ルルドの作った酒を持って『私』にお酌をする。


「山に化けていたんですね」

 私がその『私』に聞くとその人は楽しそうに頷いた。

「長老が山その物に、他の奴らは木々や花なんかになってな。そのうち気持ちよくて寝ちまったよ」

「それじゃあ、さっきの顔のある岩も皆さんが?」

「顔のある岩? なんだそりゃ。俺たちゃ、ずっと山だったぞ」

 そんな事より酒を飲もうと、たくさんの『私』や『ポンタ』が酒瓶を囲む。


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