鶏肉はヘルシー


 深夜の小屋に私の絶叫が響く。

 襲われるのだろうか? 美味しくお食事されてしまうのだろうか? そんな事しか思い浮かばなくて、もつれる足で無理やり小屋の外に出た。

「大丈夫か⁉」

 サッと飛び起きて守ろうとしてくれるルルド。私の顔をしたルルドが男らしくてドキッとしてしまう。

 それとは反対に、ポンタは落ち着いている。のそのそと私の後から外に出てきて聞く。


「イヌコ、落ち着いてよ。小さかったでしょ?」

「そんな事わからないよ。ただ……何かモフモフしてた」

「モフモフ?」

「うん。それと、ツンツンって突かれた」

「それってそんなに怖い?」

「だって突然だったし……寝込みを襲われたのかと思って……」

 何と言っても、この新しい惑星では私の培ってきた常識は通用しないのだ。小さなモフモフだって、私をぺろりと平らげてしまうかもしれない。

 そんな私の恐怖を知ってか知らずか、ポンタは寝ぼけ顔でフフッと笑う。


「そろそろかな?」

 ポンタがそう言ってからすぐに、中からルルドの声がした。

「捕まえたぞ!」

 ルルドが抱えて出てきたのは、鳥らしい魔獣だった。


 琉金というごく一般的な金魚を思い浮かべて欲しい。尾ひれの部分が尾羽で、口の所から短くて横長の嘴が生えていて、鶏のような足がある。そんな青い鳥だ。もちろん、鱗に当たる部分は羽なのでモフモフだ。


「どうも、すいやせんです。暖かそうだったんで、つい潜り込んじまって……」

 その金魚鳥が言った。

 ルルドにがっしりと抱えられても身じろぎ一つしないところを見ると、一応は反省しているように思える。

「そういう事なら、まぁ許すけど……。本当に食べるつもりは無かったの?」

「へぇ。ええっと、食べるってぇと、お嬢さんを? まさか! アッシはこの通り幸福鳥なもんで、食うもんは木の実ばっかりで。飲むもんと言えばいっつも温泉水なんで。ご存じでしょ? 幸福鳥」


 他所の惑星でも青い鳥は幸せなのだな、なんて考えられるくらいには落ち着いた。

 それより、どうもこの鳥は他の惑星に来た事に気付いていないらしい。

 なので私たちは星明りの下、川のせせらぎを聞きながらこの鳥に状況を説明した。この際、暖かそうだったからと言う彼の言い分は信じる事にする。


 鳥はビョォォ! と何とも聞き覚えのある声で鳴くと、案外すっと落ち着いた。

「なるほど、新しい惑星ですか。いやぁ、通りで恐ろしい化け物に遭うわけだ」

「化け物? 危ない生き物がいたの?」

 私は慌てて聞く。すると鳥はブルりと身震いをする。

「へぇ。あれは化け物としか言いようがねぇですよ。さっきアッシは食べられそうになったんですから」

「そ、そっか。無事に逃げられて良かったね。で、見た目は?」

「ありゃあ口だけお化けってぇところですかね」

 あぁ、と私たちは思った。食べるなら人参だとか言っていたけれど、鶏肉ならヘルシーだと思ったのかもしれない。

 私も、こうして話が通じるようでなければどうしていたか分からない。


「お前はなにでこの惑星に来たの?」

 ポンタの質問に、鳥が首を捻る。

「何ってぇ言われましても、いつも通り巣で毛づくろいしてただけなんで」

「巣はどんな物なの?」

 今度はポンタが首を捻りながら聞いた。

「そりゃあ、いい所ですよ! 小さな山の洞窟でしてね。山には温泉も湧いてまして、木の実は豊富で、もうどこにも行かずにあの山だけで生活できるってもんで」

 鳥が得意げに話す。それを聞いていたルルドが、あれ? と声を漏らした。


「その山に川ってあるか?」

「へぇ、もちろんです」

「山頂には俺たちよりも大きな、黄色の花が咲いているか?」

「眠り花ですね? ありやす、ありやす」

「そこの山だろ?」

「へぇ。この川の上流にある、あの山で間違いありやせんよ」

 ルルドと鳥の話が交わった。

 ルルドたちが来た時にいた山頂は、この鳥の棲み処の山だったのだ。この鳥はおそらく、棲み処にしている洞窟のある山ごと移動してきたのだ。


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