* * *
目を覚ました時、と言っていいのか分からない。
とにかく私は目を開けて、そして目の前には宇宙が広がっているのだ。
足元も頭の上も、右も左も星雲の渦巻く宇宙だ。
これが現実か夢かと聞かれれば間違いなく夢だろう。
それでもそこには半田部長もリスくんもいて、私は少しだけ安心する。
そして、さらにもう一人。真っ白い髪と髭を蓄えた、白に金色の刺繍の着物を着た知らないお爺さんがいる。
私たちと同じようにこの宇宙の中にいて、目を閉じて漂っている。
「あ、あの……どちら様ですか?」
私は意を決して声を掛けた。部長とリスくんが息を呑む。
「ん? おぉ、起きたか!」
お爺さんはパチっと目を開けて私たちを見る。
「すまなかったな。あぁ、何から話そうかのぉ。ん……つまりな、天災じゃ」
「天災?」
白いお爺さんは頷いて話を続ける。
「宇宙で大きな爆発が起きた。それは宇宙全体に及ぶ大きなものじゃった。それによって多くの惑星が塵と消えた」
お爺さんは悲しそうに目を伏せる。
「それじゃあ、私たちは死んでしまったという事でしょうか?」
半田部長が聞く。その言葉にお爺さんは、首を横に振った。
「全員にシェルターへ入れと訴えたのじゃが、ワシらの声が聞こえん者、行動が間に合わんかった者など様々でな。ワシが守れたのは小さな冷凍室を一つだけじゃ。地球だけを贔屓するわけにも行かず、すまなかったのぉ」
その後たくさん話を聞いたけれど、お爺さんの話をまとめると、つまり私たちは生きているらしい。
宇宙規模の天災によって地球を含めた多くの惑星が粉々になり、そこから助け出されたのが私たちである、という話だった。
つまりこのお爺さんは神様だ。神様は他にもたくさんいるらしい。
「これから俺たちはどうしたらいいんですか?」
不安そうに聞くのはリスくんだ。
「それについてなんじゃがな、新しく惑星を一つ作った。急ごしらえじゃが、まぁ暮らしていけるじゃろう。問題は……」
神様の言葉が不気味に止まる。
「問題は?」
「急いで作ったので、ワシら神々が使う力が惑星内に流れ込んでしまったのじゃ。想像力に形を与える力なんじゃがな、それを整えん事には住むに苦労するじゃろう」
「整えてくれるって事ですか?」
私は何の気なしに聞いた。
「いいや?」
軽い返事が返ってくる。そして神様は続けた。
「ワシらは百年分くらい一気に働いたでな、百年ほど寝る。起きるまで連絡が取れんので、すまんが頑張ってくれ。まぁ命があっただけ儲けもんと思って。な?」
な? という声に怒りが湧く。
「どんな力かもよく分からないのに、整えようがありませんよ!」
私が怒りに任せて叫ぶと、神様は私の頭の中に似たような知識があるという。
それは疲れた時に読み漁る、ラノベ原作の漫画だ。
神様が言うには新しい惑星内に満ちている力というのは魔力に酷似していて、それを参考にしたらいいだろうという事だった。
「それならリスくんと二人で何とか出来るかも」
「え? 俺、子供の頃にやったゲームくらいしか知識ありませんよ」
私の希望はあっさりと砕け散る。
半田部長もファンタジー物は小説も漫画も読まないと言うし、頼りは私の頭の中の漫画知識だけ。
その漫画知識だって怪しいものだ。別に詳しい訳ではない。気楽に読めるから疲れた時に適当に読み漁っているだけなのだ。いわゆる、にわか。
「他にも助けられた人たちが惑星に住むんですよね? その人たちは……?」
「地球からはお前たち三人だけじゃ。他の惑星からの者たちも……無理じゃろうな。漫画という文化自体がない。それどころか、お前たちでいう所の人の姿さえしておらんぞ」
私たち三人は、一斉に神様に詰め寄る。
それを意にも介さず、神様はコクン、コクンと眠り始めてしまった。
「ちょっと! 起きて!」
「もう無理じゃ。寝る。じゃあのぉ」
その言葉を最後に、神様の姿が宇宙に溶ける。
そしてサラサラと宇宙の景色が消えて行き、目の前が真っ暗になった。
次に目を開けた時、私たちは広大な自然の中にいた。
寝転がった体の下にはふかふかの土と草の感触。見上げる空は青く、どこまでも高い。
一枚が人の顔ほどもあろうかという葉を茂らせた巨木があり、その枝に赤い花を咲かせる蔦が絡まっている。
ビョォォという聞き慣れない鳴き声が切なく響き、さわやかな香りを連れた風が胸を撫でて吹き過ぎる。
体を起こすと、私たちの後ろには冷凍室があった。
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