ユーコとヨーコ

魔王軍が圧倒的な

勢力を持つ異世界。


生き残った人間や亜人、

他の種族達は反乱軍を結成し

今尚これに抗い続けている。


しかし敵の勢いの前に

戦局は常に不利な状況。


反乱軍の唯一の希望は

この異世界に転移して来た勇者だけだが、

勇者もまた理由があって

常にここに存在している訳ではない。



現実世界での景山陽子ことヨーコは

その反乱軍の中にいる。


彼女もまた反乱軍として

銃を手に取り戦場で戦っているのだ。


ここでヨーコでいる時、

人間世界での陽子としての

記憶は一切ない、

逆に陽子でいる時は

ヨーコの時のことは覚えていない。



積まれた土嚢どのうに身を隠し

向かって来る魔物や魔族達を

銃撃するヨーコ。


前衛の魔物は銃弾に倒れるが

後続が次から次へと現れ

進撃して来る為、ヨーコには

終わりがない地獄のように思えてならない。


-


人間世界では勝ち気で

活動的であるヨーコも

この地獄絵図の中では

メンタルを維持出来ずに

臆病であったり弱き者であったり、

時には泣き虫であったりもする。


「なんでっ、なんで

来てくれないのよっ」


ヨーコはこの

いつ終わるとも分からない戦闘の中で、

ずっと待っている。


もう手に持つマシンガンを

どれぐらい撃ち続けたか分からない、

いつまでこんなことが続くのか、

ヨーコは次第に泣きべそをかきはじめ、

目からポロポロと涙をこぼし

しまいには泣きじゃくる。



「どうして泣いているんだいっ?

僕の可愛い仔猫ちゃんは」


後方からの声に

ヨーコは希望の光を見る。


「ユ、ユーコッ!!」


それはこの戦場において

ヨーコの唯一の心の支え、

ユーコ。


ショートカットの髪をなびかせ、

まるで美少年のような麗人、

しかしその体のラインが

ハッキリわかるライダーススーツ、

そのシルエットを見る限り

間違いなく女である。


「なんでもっと早く

来てくれないのよっ!」


「まったく、仔猫ちゃんは

随分と甘えん坊だねぇ、

そんなに僕に会いたかったのかい?」


この世界でヨーコは

完全にユーコを

心の支えにしていた、

というよりも

もはや依存症に近かった。


-


その後、勇者の出現により

魔王軍は撤退を余儀なくされる。


勇者はユーコとヨーコが

二人一緒にいる時にしか

姿を見せることはない。


しかし敵はまたすぐに

やって来るだろう。


もうここ最近ずっと

こうした戦いが続いている。



戦闘が終わった後、

ヨーコはユーコに

壁ドンされ迫られていた。


これも戦闘後に毎回行われる

お約束と言える。


「……僕達は二人で一人じゃないか、

もっとヨーコのことが

深く知りたいんだ……」


ユーコはヨーコの顎を

クイっと上に向けて

熱くヨーコの目を見つめる。


「だ、だめよ、

あたし達、女同士じゃない……」


ヨーコもユーコに

惹かれているのに、

つい抵抗してしまう

女心の複雑さ。


「この時代に、

まだ性別なんてものに

囚われているのかい?

ヨーコは」


ヨーコの耳元で、

ユーコの熱い吐息が囁く。


耳と顔を真っ赤にするヨーコ、

体が熱く火照って来る。


「そ、そういうわけじゃ

ないけど……」


「肉体なんて

ただの器に過ぎず、

大切なのはお互いの魂が

惹かれ合うこと、

そのことを僕達が一番よく

知っているじゃないか」


ユーコの細くしなやかな指先が

ヨーコの体を撫でるように

滑っていく。


「そ、そうだけど……」


そのまま唇を奪われ、

体が蕩けそうになって

ユーコに身を委ねて行く。



そこで陽子は目を覚ます。


『何か夢を見ていた、

ような気がする……』


だがそれも

おそらく五秒もすれば

忘れてしまっているだろう、

夢を見たような気がしたことは。


本当はそれは夢ではないのだが。





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