嘘つき狼にも純情があります。

110

 ―フローラ大学附属高校―


 早朝にも拘わらず、運動部はすでに登校し朝練を始めている。


「おはよう。南」


「桐生君……おはよう。早いね」


 下駄箱で偶然桐生君と出会い、戸惑いを隠せない。


「桐生君、話があるの……。ちょっといい?」


「なに?」


 私達は一緒に教室に入る。早朝のため、生徒は誰もいない。私は学生鞄からブルーの封筒を取り出した。


「これ、返します」


「なにこれ?」


「もう誤魔化さないで。今朝、花沢君に会ったんだ。花沢君ね、桐生君と中学の卒業パーティーしてないって。桐生君、私の家をどうやって知ったの」


「それは……。偶然ショップのメンバーズカードの申込書を整理していて、南の名前を見つけたんだ。俺、時間がある時はショップでバイトしてるから」


「アクセサリーショップのメンバーズカードで? それって……個人情報だよね」


「ごめん。南にどうしても会いたくて、メンバーズカードの住所を頼りに探した。偶然、花沢の家を見つけたから、南に嘘をついてしまったんだ」


「桐生君、これ以上そんなことをされたら……迷惑なの」


「もしかして昨日のことを言ってるのか? これ……」


 桐生君はブレザーのポケットから、ピンクのケースを取り出した。


「昨日はお兄さんや彼氏がいて受け取って貰えなかったから。今日こそ受け取ってよ」


「だから……それは……」


 教室のドアが開き、百合野が飛び込んで来た。


「ヤバい、ヤバい、朝練始まってるよ。礼奈、桐生君おはよう。鈴木先輩が辞めちゃうから、てんてこ舞いだよ」


「おはよう、百合野。大変そうだね」


 百合野のお陰で、重苦しい空気が一変した。


 桐生君はピンクのケースを前に差し出したまま、引っ込めることができず固まっている。


「わあ、桐生君、それもしかして? きゃあ嬉しい!」


「「はぁ??」」


「覚えていてくれたんだね。私の誕生日! やだな。二人がサプライズで待ち伏せして、プレゼントだなんて」


 百合野は満面の笑みで、一人で盛り上がっている。


「「誕生日!?」」


「嬉しい! 持つべきものは友達だね。山本百合野、サッカー部が部内恋愛禁止でも、校内恋愛禁止じゃないから。喜んで頂きます。桐生君、ありがとう!」


 今日は百合野の誕生日?

 完全に忘れていた……。


 百合野は桐生君の手から、ピンクのケースを奪い取る。


 こんなオチで……いいのかな?


 桐生君は口をポカンと開けたまま、呆気に取られてる。

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