姫の周りを彷徨く狼がいます。

62

「創ちゃん、創ちゃん、創ちゃん」


「はいはい、そんなに連呼しなくても聞こえてますってば」


 俺は逃げも隠れもしないよ。


「見て、見て、見て」


「だからぁ、見えてますってば」


 礼奈は真新しい高校の制服に身を包み、俺の目の前で一回転して見せた。


 空色のブラウスに赤いリボン。ブレザーは白で衿や袖口に紺色のラインが入っている。紺地に赤や黄色のタータンチェックのプリーツスカート。


 制服のブラウスや胸元のリボンは数種類のカラーが選べて、スカートも数種類のデザインがある。制服の組み合わせは自由だ。


 礼奈がくるりと回転すると、膝上のスカートがふわりと広がり、チラッと……みえた。


「うわっ、エッチ。創ちゃん、今見たでしょう?」


 ていうか、見せたのは礼奈だよ。


「み、見てないよ。全然、見てません」


 はい、見ました。

 今日はピンクです。


「高校の制服姿を一番最初に創ちゃんに見て欲しくて着てみたの。どうかな、制服すっごく可愛いでしょう?」


 新調されたばかりの制服を身に纏い、何度もくるくる回って見せる礼奈。桜の花びらが風に舞うように、チラチラとピンク色の下着が見えてますけど。


 これは計画的犯行でしょうか。


「スカートが短すぎるよ。スカート丈は膝が隠れた方がいい」


「膝が隠れる長さ? そんなのダサくてやだ」


「ダサくていい。可愛くなくていい。うんと、ダサくしろ」


 『あっかんべー』って、舌を出しながら礼奈はさらにスカート丈を短くした。


 俺を挑発してるのか?

 そんなに短くしたら襲うぞ。


「明日、入学式だよな」


「うん、そうだよ。中学の友達と同じクラスになれたらいいな」


「友達って女子?」


「当たり前でしょう。他に誰がいるの?」


「桐生とかさ」


「桐生君? そっか、桐生君もいたね」


 白々しいな。

 わざとらしい演技だ。


「中学の先輩もいっぱいいるんだよ」


「中学の先輩? まさか、元生徒会長とか?」


「うん……。そうだった、元生徒会長もいたね」


 ぐっ……。

 さらにわざとらしい。


「もしかして、礼奈に告った男子?」


「うん……。そうだったかも」


 俺は礼奈が引き上げたスカート丈を、ズリズリと引き下げ膝を隠す。


 そんなこと俺は聞いてないよ。礼奈に告った男子が、どんだけフローラ大学附属高校に蔓延ってるんだよ。

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