【5】お姫様は花の女子高生

これは神様の悪戯ですか。

58

 ―フローラ大学附属高校・合格発表当日―


「やったぁー! 創ちゃん、見て見て、合格したよ!」


 大学に行く前に、礼奈と二人で構内に貼り出された合格発表の前に立つ。


 大勢の受験生が合格発表に見入る中、一目も憚らず俺に抱き着いた礼奈。


 ま、ま、さ、か、礼奈がこの難関校に合格するとは!?


 神様も……魔が差すことがあるのか?

 それとも、神様の手違い。

 運命の悪戯、いや、痛恨のミス。

 神様、けたのか?


「礼奈、お、おめでとう。体調最悪だったのに、合格するなんて凄いな」


「憧れのフローラ大学附属高校に合格できたのは、全部創ちゃんのおかげだよ」


 俺って、もしかして家庭教師の才能があるのかな? これは奇跡だよ。


「南! おめでとう! 俺も合格したよ!」


「きゃあ、桐生君おめでとう! よかった!」


 礼奈は駆け寄った桐生と、飛び上がってハイタッチを交わし、歓喜の雄叫びを上げた。


 俺の顔面はピクピクとひきつる。


「あっ、お兄さんおはようございます。南、今から中学校に報告に行くだろ?」


「うん」


「一緒に行こう。担任に報告しないとな。きっと先生も驚くよ。超難関校のフローラ大学附属高校に俺達が合格したんだから」


「うん」


 礼奈が俺をチラッと見上げた。俺は口をへの字に曲げたままコクンと頷く。


 俺は一体いつまで、礼奈のお兄さんでいるわけ? 礼奈に変な噂がたってもいけないから、渋々兄を演じているが、れっきとした彼氏なんだよ。


「じゃあ、お兄さん失礼します。南、行こう」


「……うん。行ってきます」


 高校受験という、人生の大きなイベントをひとつ終えた二人は、ルンルンで最寄り駅に向かった。


 俺は校庭の隅に置いたバイクに跨がり、小さくなる二人の後ろ姿を見つめながら、嫉妬で発狂寸前だ。


 礼奈の合格は勿論嬉しい。

 家庭教師という大任を果たせたという達成感もある。


 ――が、しかし!

 俺の予想を越えた展開が、合格発表から数分後に生じてしまったわけで。


 俺の可愛い姫が、盗賊に奪われてしまったような、危機に直面しているわけで。


 これはなんとしても、阻止しなければいけない非常事態だ。


 いつまでも家庭教師をやってる場合じゃない。家庭教師なんて仮の姿はもう脱ぎ捨てて、俺は彼氏に復活するぞ。


 バイクのエンジンをブンブン吹かし、俺は自分自信を煽る。


 桐生に、俺の礼奈は渡さないからな。

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