第37話 ようこそ地球防衛部へ!

 帰りのSHRが終わると、あっという間に俺の両隣にサークルが出来た。


 どこか遊びに行こうとか、何が食べたいとか、放課後の学生達のどこにでもあるような光景だ。


 慣れてしまったその光景に目を向けることなく、教室を出て行く。


 廊下に出ても誰に話しかけられるわけでもなく、ただ多くの生徒達の向かう昇降口へと続いた。


 まるで、彼女達がいなかった頃の学生生活に戻った様だった。


 いや、元々これが正しいのかもしれない。


 彼女達が普通の学生になった今、俺はもうそこにいなくてもいい。


 昇降口を出て、一瞬学園を振り返る。


「じゃあな、楽しかったよ」


 そう言い、再び前を向き、足を踏み出す――でも、一歩が重かった。


 思い浮かんだのは、数多の彼女達との思い出。


 楽しかった。


 辛いことも、泣きたい事だってあった。


 でも、彼女達と一緒にいると笑っていられた。


 もうそれがなくなると思うと、胸が痛かった。


「俺ってこんなに弱い人間だったんだな」


 それを知れたからこそ、俺はまた受け入れて前に進まなければいけない。


 だから何か溢れ出しそうなものを抑え、前に――。


「――何勝手に帰ろうとしてるのよ!」


 久しぶりに聞いた高い声、思わず振り返ると。


「お前ら……」


 そこにいたのは――トングとゴミ袋を持った地球防衛部の隊員達だった。


「隼大さん、サボりはよくないですよ」


「隼大、今日は強制ゴミ出し」


 そして星七がゆっくりとこちらに来て、俺にトングとゴミ袋を渡す。


「皆、隼大君の事待ってたんだよ。部室にも来ないし、心配したんだから」


「そうよ。教室でも全く話しかけてこないし、何か悪いものでも食べたんじゃないかって」


「それはランの料理。あれは、宇宙共通の殺人料理」


「さ、桜……アンタねぇ……」


「け、喧嘩はやめてください!」


 その懐かしい雰囲気に思わず、吹き出してしまう。


 そうだ……こいつらはだった。


「それに約束、ちゃんと守ってよ」


「約束? そんなのあったか?」


「ちょ、地球上のどこにいてもアタシに付き合ってもらうって話よ! 言わせんなバカ!」


「もちろん覚えてるよ。お前らの力になってやるって話だろ」


「そうよ、勝手に破ろうとするなんて絶対に許さないんだから」


「でもさ……もう俺がお前らの力になれる事なんてないぞ」


「ありますよ。ワタシ達には隼大さんが必要です」


「イエス。隼大はウチらにとって大切な友達」


「二人の言う通りよ。それにまだアタシの約束は果たされてないわ」


 その言葉に俺以外の三人も目を丸くする。


 だって、ちゃんと彼女達は学園に受け入れられたはずじゃ……。


「アタシ、言ったわよね。世界を変えてやるって」


 確かに言ったけど……あれは学園の事じゃなかったのか。


「え、あれって地球の事ですよね?」


 おいこっちも想像以上に中々スケールがでかいな。


「違うわよ。アタシが言ってるのはこの銀河系、いや全ての宇宙の話よ!」


「ラン、それは……」


 星七が言葉に詰まる。桜に関しては、もう何も言うまいとため息をついていた。


「な、何よ。ちゃんと向き合えば皆友達になれるって事をアタシが証明するのよ」


 良い事を言っているのは分かるのだが、何故かランが言っているせいか、バカを語っている様にしか聞こえない。


「それにアタシはザグリア星の王女なのよ。やろうと思えば難しくないはず!」


 そう言えばこいつ王女だった。風格も品位も無いから普通に忘れてた。


「まぁ、でも……簡単にいかない事は分かってる。それにアタシは当分の間、地球に居なきゃいけない」


 だから、と続けるラン。


「この地球……学園にいる間は、アタシ達と似たような境遇にいる人を助けたい。それは勿論、地球人、星人関係なく」


「それなら、手伝ってやれるな」


 流石に宇宙規模なら無理だが、日本でしかもこの学園での範囲内だったらいくらだって協力してやれる。


「だからハヤタ、アンタの力をアタシ達地球防衛部に貸して欲しいの」


「ワタシもです、隼大さん」


「お願い、隼大」


「隼大君」


 真っすぐなその想いを向ける彼女達。


 そして俺が、それにどう答える何かもう決まっている――。


「――東間隼大、短期休暇を終えて、本日から地球防衛部に復職します。よろしくお願いします!」


 右手の人差し指と親指を立てて、左胸を強く打つ。


 すると、彼女達も同じようにグットを返す。


 それはギャラクシーマンでの防衛隊のお約束のポーズ。


 それは彼女達とかつて交わした仲間のポーズだった。


 そして、凛々しく向かい合っていた隊員達は優しく破顔した。


「おかえりなさい、ハヤタ」


「あぁ、ただいまっ……」


 ランの言葉に、抑えていた感情が溢れ出していく。


「ほら、行くわよ。早速ゴミ拾いっていう任務があるんだから」


「おうっ……」


 俺の歩幅に合わせ、ゆっくりと中庭に足を向ける隊員達。


 地面を濡らしながら一歩、一歩と進む。


「ありがとう、ヒーロー」


 本当の意味で俺は、居場所を手に入れる事が出来た。


 彼女達が求め続けてくれる限り、俺も彼女達を求め続けようと思う。


 そして、俺達が向かうこの先の未来にはどんな物語が待っているのか。


 それは地球人でも、神様でも、はたまた星人でも分からないだろう。


 ただこの地球防衛部の隊員たちならきっと、どうしようもないくらい面白い結末を迎えてしまう様な、そんな気がした。


 ◇


 それから、地球防衛部は今後の活動方針を変えて再スタートする事になった。


 受け入れられない悩みを持った人の悩みを解決する部活。これが地球防衛部の活動内容だ。


 きっと一度経験した俺達なら力になれると思ったのだが……。


「誰も来ないわね……」


 そうなのだ。この学園の生徒達に悩みがないのか、三日経ってもこの部室を訪れたのは、心配して見に来た四天王寺だけ。


「もしかして、実は部室の外で入ろうかとためらってたりするんじゃないですかね?」


「そうだとしたら、こちらから確認しないと――」


 ドアを開けようと立ち上がる桜を星七が再び座らせる。


「だ、ダメダメ桜。そうしたら、逃げちゃうでしょ」


「じゃあ、待つのみか……」


 ため息をついたその瞬間、部室のドアがノックされる。


「き、来たわ!」


 まさか来ると思ってなかったのか、てんやわんやで部室の中を走り回る一同。


 最終的に、横並びに落ち着き……。


「ど、どうぞ」


 ランの少し上ずった声で、ゆっくりと扉が開いていく。


「ようこそ地球防衛部へ!」


 かつて俺に向けられた言葉が、この小さな部室に響いたのだった。

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ようこそ地球防衛部へ! 神喜 @shinki8888

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