第33話 輝ける星人たち

「隼大さん。今日は珍しい日かもしれないですよ」


 部室を出た後。廊下で並んで歩いていたアコが唐突に興奮した様子で話しかけてくる。だが、それが毎度起こる嫌な予感にしか思えない。


「もしかして……デジャブか?」


「その通りです」


 やっぱりか、途端ストレスで頭が痛くなってくる。


「でも今回のはいつもと違うんですよ」


「いつもと違うって……どうせあれだろ、ラッキースケ……下らない事に巻き込まれるんだろ?」


「違いますよ。本当に、珍しい日なんですよ。なんと、珍しい人から二回も連絡が来ます!」


「今回は随分具体的なんだな」


「もしかしたら、その人は隼大さんに近い人なのかもしれないです」


「となると……」


 一応心辺りが無いわけではない。


 だが、彼らには話していないはずだし……。


 その時は冗談半分で聞いていたのだが、その夜――。


『じゃあ、明日行くからな!』


「はいはい、おやすみなさい」


 店長から事前に話を聞いていた父親がたまたま明日休みを取れたらしく、映画を見に来ることになってしまった。


「まさか、本当にアコのデジャブが――って、マジかよ」


 電話を切って数秒後、再びスマホがバイブする。電話の主を確認し、少し震えた手で画面をタップした。


『もしもしー、隼大?』


 久しぶりに聞いたどこかあっけらかんとした女性の声。


 一か月ぶりに聞いた母、東間悠里とうまゆうり――仮面科学シリーズの脚本家、右近悠里の声だった。


「母さんが電話なんて珍しいね」


『私だって息子の声が聴きたくなる時くらいあるわよ。で、星矢から聞いたんだけど随分面白い事してるらしいじゃない』


 恐らくと言うか、絶対映画の件だろう。父親といい、母親といい興味があるものに飛びつくのはとてもよく似ている。


「って、まさか」


『私も丁度明日時間が空いてね、映画見に行こうと思って』


「だと思った……」


『息子の晴れ舞台よ? 母親として当然見に行くでしょ。それにどの子が狙いなのかも知りたいしねー』


「別に狙ってないし、あいつらはただの友達だって」


 そうかしら、と電話越で面白がるように笑われる。


「というか、父さんとは大丈夫なの?」


『父さん? あぁ……その話はしないで頭が沸騰しそうになるから』


「いや、そうじゃなくて……」


『夫婦というか、クリエイターの喧嘩に息子を巻き込むなんて情けないわね。心配しないでも、離婚はしないから大丈夫よ』


「いや、だから……」


『ともかく明日行くから! その時に三人でいつ家族会議をするかの相談をしましょう。それじゃあ、おやすみ!』


 一方的に電話を切られてしまう。子供二人と話していた気分で、途端にどっと深いため息が出た。


「この様子じゃ、明日父さんが見に来る事知らないんだろうな……」


 もう一度掛け直そうかと思ったが、何も言わなければ家族会議が明日にでも設けられそうなのでやめておいた。


 ◇


 土曜日。午前十二時三十分、第三講堂。


 ステージには既に銀幕が降りており、中央にはプロジェクターとパソコンが置かれ、その周りでは映画研究会の部員数人がセッティングしてくれている。


「悪いな、何だか手伝ってもらっちゃって」


 改めて、隣で指示出しをしていた大和に礼を言う。


「ここにお前一人しかここにはいないのでは、仕方ないだろう。一体他の部員は何をやってるんだ?」


「それは、後のお楽しみだ」


 そう言って席の方を見る。百人以上収容できる第三講堂だが、席は映画研究会を含め、二十席も埋まっていない。


 前列に座っていた四天王寺と目が合い、軽く頭を下げて挨拶をする。周りに座っているのは雰囲気的に生徒会役員だろうか。


 他に知り合いは……以前ポスターを破った男子二人を発見。俺と目が合うと深々と何度も頭を下げてきた。


「やはり、見に来る人間は少ないようだな」


「いや、まだ上映まで三十分もある。これからまだまだ来るさ」


「そうか」


 それ以上は俺に何も言わず、大和は指示出しを続ける。


 一旦、ステージ横から離れ、左耳に付けていたイヤホンマイクに声を当てる。


「こちら第二講堂。こっちは時間通りに上映できそうだ。そっちはもう準備出来てるか?」


『こちら放送室。こっちも準備万端、ラン達の方は?』


『こちら屋上。アタシ達もいつでもやれるわ』


 舞台は整った。力図良い隊員の返事によし、と気合を入れる。


「――地球防衛部、作戦開始だ!」


 それぞれの役割を持ったそれぞれの闘いが、今幕を開けたのだった。


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