第31話 おれたちはなぁに?

 一波乱はあったが昨日ようやく撮影が終わり、残すは広報活動と編集のみとなった。

 放課後、桜と二人きりの部室でパソコンに向かっていた。


 因みに他の三人はポスターの見回りと、広報活動に行っており、編集作業がある俺たちは部室に残される形になったのだ。


「それにしても、ランはもう本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫。隼大だって見たはず」


 あの後、ショックな光景を目の前にして心が折れてしまう直前だったランだったが、何事もなく、というか以前に増して彼女らしくなったような気がする。


 今日も尻尾とツインテールを振り乱しながら、率先して校内のポスターの張替えとチラシ配りに向かっていった。


「ランは隼大と出会って変わった。ずっと彼女を見てきたウチが言うから間違いない」


「ずっと見てきたって言っても、地球に来てからだろ?」]


「ノー。言い忘れていたが、ザグリア星とエキスマキナ星は古くから親交があり、ウチは幼い頃から彼女を知っている」


 そう言えば、ランもセキス星とザグリア星も友好関係を築いていると言っていた。もしかしたら、思った以上にザグリア星はかなり大きな権力を持った惑星なのかもしれない。


「ザグリア星にいる時、彼女が笑った顔は見た事が無かった。だけど、この星に来てから毎日が楽しそう。勿論、それはウチもアコも同じ」


 そして、彼女は今まで見たどんな表情よりも幸せな笑みを向けた。


「ありがとう、ウチらを好きになってくれて。ウチも隼大と出会えて本当に良かった」


 普段、桜はあまり感情を露わにしないせいか、その言葉はとても意外で胸によく響いた。思わずどう反応していいか分からないまま、顔が熱くなっていく。


「ちょっと休憩でもしようか。俺なんか飲み物買ってくるよ」


 逃げ出す様に部室を出て行く。正直これ以上あの場に居たら、変に意識して喋れなくなってしまいそうだった。


「桜って感情表現は苦手だけど、言いたいことは恥ずかし気もなくストレートにぶつけてくるんだよなぁ……」


 そんな事をぼやきながら、自販機のある一階に向かったのだった。


 ◇


 一階の自動販売機コーナーに向かうと、そこには見知った男子が出口から、不釣り合いな紙パックのイチゴ牛乳を取り出している所だった。


「大和、お前意外に甘党だったんだな」


「別にいいだろう、昔から好きなんだ」


 何か見られてはマズいものを見られてしまったという様に、目線を合わせずに答える。ただ表情を崩さないあたりが大和らしい。


 その横を通り過ぎ、お金を入れて紙パックのコーヒーのボタンをプッシュする。エレベーターの仕組みに少しだけ似た機械がコーヒーを取り出し、受取口へ落とす。


 その作業を二回行い、横を向くと、既にその場を離れていると思っていた大和が、どこか遠くを見ながらその場に立ち尽くしていた。


「進捗はどうだ?」


 どうやらそれが聞きたくて残っていたらしい。大和は機材を貸してくれた恩もあるので、正直に答えた。


「シーンは全部撮り終わって今は編集してるよ。後は、見に来て貰えるかっていうのが問題だな」


 中々チラシが受け取ってもらえず、ポスターがあの状態では正直あまり期待はできない。


 何か、別の宣伝方法があればいいんだが……。


「だが、映画自体は悪い出来ではないんだろう」


「あぁ、少なくとも、俺達だから作れる最高の映画だ」


「そうか」


 そう言って大和は、俺に背中を向けて行ってしまう。


 しかし、十メートル程度離れた所で突然振り返り――。


「一つ俺からの戯言だ。もし、注目を浴びたいならお前たちは。後は、それをどう上手く利用するかだ」


 そう言い残し、大和は再び踵を返した。


「上手く……利用する、か」


 ただ、それがどんな意味を指しているのか。対外の人間に言われたからこそ、今更気がつく事が出来た。


 そして、俺の頭に浮かんだ一つの広告方法を導くことになったのであった。


 まぁ、それは後のお楽しみって事で。

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