第30話 まとうは強さ
その感動的な結束シーンから三十分後……。
「大切なポスターを破ってしまい、申し訳ありませんでしたぁ!!」
土下座で入室というダイナミックな挨拶をしたのは、廊下ですれ違った男子生徒二人組だった。
「う、うん……」
まぁ、その状況を見て皆当然呆気に取られてしまう訳で……。
その後ろから、引率しに来たと言う様に四天王寺が姿を現した。
「お忙しいところ失礼するよ、地球防衛部諸君」
「あ、どうも……それで、四天王寺さんこれってどういう事ですか?」
「何、私はポスターを破った主犯格を見つけたのでそれを報告しに来ただけだよ」
「ポスターを破った主犯格……よくこんな短時間で見つけましたね」
「私はこの学園の生徒会長だからね。大体の学園の事情なら、普通の学生より把握しているつもりだよ」
平然と四天王寺は言っているが、この生徒数二千人から見つけるなんて糸を針穴に通すとか言うレベルじゃない。やっぱり、この人ただ者じゃないような……。
「そ、それでこの二人は大丈夫なんですか?」
「私は報告しにここを訪れただけだ。この二人が勝手に謝っているのは、心を入れ替えたという事だろう」
「は、はぁ……」
未だ視界より遥か下にいる男子学生は、何か恐ろしいものを見てしまったという様に顔を歪ませ、何度も地面に頭を接触させている。視線も定まってないし、一体何があったのだろうか……。
だが今危惧するポイントはそこじゃない、まだ目の周りが少し赤い彼女に視線を向ける。
「ラン……」
他の部員達も彼女に視線を向け、それ以上は何も言わなかった。桜とアコに関しては、ランに答を委ねているようにも見える。
するとランは一度大きく息を吐いて、男子生徒に視線を向けた。
「アタシは、アンタ達を許す気はない」
その答えを聞いて、唖然とする男子生徒達。まさか頭を下げれば、許してもらえると思っていたのだろうか。
「アンタ達がどういうつもりでやったのかは知らないけど、それによってアタシも……アタシの大切な人が傷ついたのよ」
「ラン……」
アコの目にいつの間にか溜まっていた何かが揺れる。
彼女もまた傷ついた人の一人だった。
「だからアタシは絶対に許さない。悪意を持って仲間を貶す連中は最低よ」
ランは誰しも同意が出来るような当然の正論で彼らを突き放した。
「答えは出たようだな」
四天王寺の冷たい言葉に男子生徒は無理を悟るも、もう一度頭を下げる。
「何をやってるんだ、もう彼らは許す事は無いみたいだぞ。ここに居ても無駄だと分かった今、君らの処遇について生徒会室で一刻も早く話し合いたいのだが」
「で、でも……」
男子生徒が処分を気にして謝っているのか、それとも本意なのかそれは分からない。
しかし、それでも目の前の俺達に頭を下げ続けた。
「もういい加減に――」
四天王寺が珍しく言葉に怒りを込めた瞬間、アコはゆっくり首を横に振り、机にあった一枚の紙を彼らに差し出した。
「こ、これは……?」
「アンタ達が散々破いてきたポスターよ。ていうかよく破って触ってるくせに、全く読んでなかったのね」
「す、すみません!」
「確かにアタシはアンタ達を許す気はない」
でも、と続け彼女は睨みつけるではなく、真っすぐと人一人に向き合うような視線を彼らに向けた。
「許す機会位は与えてあげてもいい。本気で許して欲しいって思ってるんだったら、これを見に来なさい。それでアタシ達のやってることがアンタ達に届かなかったら、好きなだけバカにすればいい」
その答えに四天王寺を含めた地球防衛部の隊員達の頬が緩む。
彼女は早くも俺との約束を果たしたのだ。
どんな人間だとしても、正面と向き合うという――。
「ま、うちの隊長もこう言ってる事だから、当日見に来てみろ。本当にすげーから」
「そうですね、それがワタシ達にとっての一番の証明になりますから」
「きっとウチらのプロフェッショナルな演出に度肝抜かれる」
「うん、わたし達が……この学園を変えるって所目の前で見せてあげるよ」
あーあ……隊員一同ここまで啖呵きっちゃって。自分達で完成する前からハードルを上げてしまった。まぁ、それなんとも俺達らしいけど。
「それは大いに期待しておこう。では、彼らの処遇はその後に決めるとするよ」
「あ、ありがとうございます!」
「それは私じゃなくて、彼らに言うべき言葉だな」
「す、すみません……あ、ありがとうございます! 俺達絶対に見に行きます!」
「じゃあ、もう帰った帰った。こっちは撮影だったり、動画の編集だったりで忙しいのよ。アンタ達にこれ以上構ってられないの」
まぁその動画の編集をするのは俺と桜なんだけどな、というのはここでは伏せておこう。折角いい感じにまとまったし。
それから、男子生徒は何度も頭を下げながら四天王寺の後を付いて退出した。
「それじゃ……やるわよ」
「やるって何をだよ」
「休憩! もう今日は色々と疲れたから! あ、ハヤタと桜はちゃんと編集終わらせてからにしてよね」
「ラン、鬼畜」
隣に居た桜に強く同意するが、あえて何も言わずにパソコンに向かう。黒画面に映ったランの噛み締める表情を見てそれが正解だと悟った。
きっと今日は、彼女にとって特別な日になったのは多分言うまでもないだろうから……。
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