第25話 ヒアウィーゴー!!

 翌朝。朝一でランが尻尾を振って持って来た大量の紙束を前に深く嘆息を吐く。


「どうよ、アタシが書いた最高傑作!」


「却下だ」


「ど、どうしてよ! まだ読んでもないじゃない!」


「あのなぁ、十分程度の短編にこんな量のシナリオは入る訳ないだろ」


 案の定心配していた通り、ランはそれについて何も考えてなかったらしい。早いうちに確認できてよかった。


「うぐっ……。で、でも、せっかく考えてきたんだから読んでみてよ」


「読んではみる。だが、絶対に削るからな」


 こうして一時間、その大容量のシナリオを数学の時間を削り、読んでみた結果……。


「ダメだ。コンセプトもはっきりしてないし、並行世界たら時間移動やら、無駄な設定が盛り込ますぎてよく分からなすぎる」


 一言でいえば、積み込みすぎ。自分の世界を主観的に描き過ぎて、暴走してしまっている。第一、CGや舞台設定など明らかに高校生の素人が作るレベルの範疇を越えてしまっている。


「で、でもこれくらいしないと面白くならないじゃない! あっと言わせる作品じゃないと!」


「インパクトが重要なのは分かるが、それが伝わらなかったら何も意味ないだろ」


「分かってる。分かってるけど……難しいのよ」


 確かに素人が脚本を書くなんて容易じゃない。本人自身もそれをやって初めて理解していたらしく、しょんぼりと尻尾と同時にうなだれてしまう。


「こういうのはトライ&エラーの繰り返しだ……と言いたいところだがそんな時間は俺達にはない。撮影と同時進行で書くとしても、何かだけははっきりさせてくれ」


「伝えたい……想い?」


「そうだ。この映画を通してランは何を見る人に伝えたいか。それさえ分かれば、作品の方向性も自ずと見えてくるんじゃないか」


 顎に手を置いて、どこかを見るラン。


 そして、ノートを取り出すと何やら文字を書き始めた。


「とりあえず頑張ってみる。ありがとう」


 ノートに目線を向けたまま、ランは礼を伝える。

 後はもう何も言わずとも大丈夫だろう、心の中で頑張れよと呟いたのだった。


 ◇


 その後、ランの脚本を確認し、修正箇所はまだまだあったが、何とかゴールまでのプロットはカタチにする事は出来た。


 しかしまだ課題として残した伝えたい想いの答えは見つからず、未だなおランは時折難しそうに考え事をしている様だった。


「ほら、ランいつまでぼーっとしてんだ。早くこっち来い」


「わ、分かってるわよ!」


 そして今は、初のクランクインの直前である。


 最初のシーンは屋上、雲一つない位に澄んだ青空、肌に当たると心地よい程の風が吹いており、まるでこの空の上にいる誰かが、俺たちの撮影を祝福している様な気がした。


「準備は大丈夫か?」


 カメラの目の前に立った演者二人が頷き、後ろで長いガンマイクを持つ星七と、レフ板を持つ桜が親指を立てる。


「よし、じゃあテイクワン――スタート!」


 こうして、俺達地球防衛部の新たなミッションが幕を開けた――




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