第24話 作戦会議!(後編)
「――で、玩具天国に来て、着てみたわけだが……」
「こりゃ、嬢ちゃん達に合うサイズなんて中々ねーぞ」
頭を抱える俺と店長、その目の前にはぶかぶかのスーツを着たランと、ピチピチのスーツを着たアコが立っている。
「な、なにこれ。全然ピチっとしないじゃない!」
「き、きついです……」
ランの場合は身長が足りず、アコの場合は胸が大きすぎてまともに合うスーツが無く、着せ替えを始めてもう十着目だ。
「何とか手直しとかって出来ないんですか?」
「できない事もねぇが、時間が足りねーな。最低でも一か月以上は掛かる」
それじゃダメだ。この少ない時間で、一週間も撮影そのものができない事になる。
二人で頭を悩ませていると、桜が奥から何かを持って来る。
「――隼大、これ」
持ってきたそれは日曜朝の特撮の一つ前の物語の衣装だった。
何故、こんなものが……?
「その服可愛いですね。全体的にフリフリしてて、こっちにはステッキみたいな様なものもありますよ」
アコが高々とそれを上げる。その横で星七が笑っているが、目は全く笑っていない。
「お父さん、これ何?」
「そ、それはその……。た、たまたまというか……」
「へー。お父さんには女の子の衣装を作る趣味があるんだ。わたし、知らなかったなー」
「ち、違う! 父親だってなぁ、いや男の子だって魔法少女に一度はなりたいと思うんだよぉ!」
唐突なカミングアウトに場が凍る。何言ってるんだよこの人は……。
「隼大もそう思うだろぉ!」
「い、いや……」
憧れない事もないが、ここで俺に振らないでくれ……。
「でも、これならちゃんと着れそう」
見た目だけのサイズを見るに、今のランとアコがちょうど着れそうなサイズだ。布生地なので、圧迫感もなさそうに見える。
「まぁ、その……趣旨としては間違ってないんだよな。一応、ヒーローだし」
ただ実写でやるだけの話だ。後はこの二人の了承だが……。
「じー……」
ランはそれを食い入るようにそれを見ている。アコは興味津々で鏡の前で合わせている辺りを見て、大丈夫だろうと判断した。
「ねぇハヤタ。これも一応ヒーローなのよね」
「あぁ、女の子なら一度は憧れる存在だ。ちなみに……男の子もな」
「そ、そうなの……。でもなぁ……」
ビジュアルが気に入らないらしく、何度も何度も首をひねらせ唸っている。
「……分かった。仕方ないわよね。これしかないんだし」
どうやら了承してくれたらしい。後は、どれを着るかだが……。
「ワタシはこれがいいです!」
アコが掲げたのは、初代魔法少女の白い方によく似た衣装。確かに彼女のイメージにとてもよく似合っている。
「ノー。アコは悪役。その衣装は着れない」
「そんなぁ……」
まぁ、そうなる。対してランはというと……。
「アタシはこれね!」
「ダメだ。それは悪役の衣装だ」
「カッコいいのに……」
その黒いマントのついた衣装をしょんぼりと戻すラン。
もはやビジュアル的にも性格的にも配役を逆にした方がいいんじゃないか?
「それに……使うならオリジナルの衣装じゃないとダメだろ。既存のやつだとコスプレになって、映画のクオリティが自然に下がる」
「それなら――」
そう言って店長が別の棚から持ってきたのは、全身ピンクのフリフリに不思議の国のアリスが魔法少女になったような衣装。確かにこれなら違和感はないし、普通に可愛い。
「で、もう一人の嬢ちゃんは――」
胸をかなり露出した衣装で全身黒を基調とした、魔女スタイルの衣装。赤いマントが付いていて、とても悪役として映えている。
「これは俺の最高傑作だ。一度着ようと試みたんだがダメだった。是非嬢ちゃん達が着てくれればこいつも救われるだろう」
今、さらっととんでもない事を言ったような気がするが……掘り返すのは絶対にやめよう。俺まで巻き込まれたら、たまったもんじゃない。
「よし、じゃあ早速衣装合わせだ。着てみてくれ」
再び衣装を持って、奥の居間に向かう二人。
すると隣から侮蔑な視線が……。
「……隼大。目がエロい」
「な、俺は別にアコの胸が直に見れるからなんて思ってないぞ」
「別にウチはそんな事言ってない」
「うぐ……」
そんな気まずい空気のまま数分後――ようやく二人が戻ってくる。
「おぉ……」
思わず声が漏れる。それくらい二人の格好は板についていたのだ。
「ちょ、ジロジロ見ないでよ。恥ずかしいんだから……」
まずランだが、髪を降ろし頭にカチューシャを付け、そしてハートとピンクを基調としたそのデザインは彼女の為に作られたのかと思うくらい似合っている。
危惧していた尻尾も上手く衣装に作用し、ラン自身のキャラクターが相まって、彼女の可愛さをポテンシャル以上に引き上げていた。
「うぅ……胸がスース―します……」
そして、アコだが……これはやばいな。簡単に言えば魔女ではなく、ドエロサキュバスだ。発育が良すぎる胸が強調され、身体のラインもまたぴっちりと安産型の彼女の魅力を最大限に引き出していた。
更に小さなアクセントとして触覚が角の様に見え、これはたまらない。最高にえっちです。
「二人とも……最高だ!」
「そ、そう。ならいいんだけど……」
「はい。少し恥ずかしいですけど、褒めて頂いて嬉しいです」
何故か俺の横で涙を流し拝む店長。
彼も目の前の光景を見て少しは救われたのだろうか……。
こうして無事完璧すぎる衣装を手に入れ、明日から撮影に入る事が出来る。
手をパーにして、前に突き出す。それを理解した星七が同じように手を重ねた。
「それは何?」
その行為を初めて見たのであろう彼女らを代表してランが尋ねる。
「人間なりの決起みたいなものだよ。これは一人じゃできない、みんなでやる決起だ」
「ふーん、そうなのね。じゃあ――」
小さな手が星七の手の甲に重ねられる。
「ほら、お前らも」
「は、はい」
「イエス」
アコ、桜が重ねたのを確認、そして――。
「明日から一か月、このメンバーで絶対学園の連中に面白いって言わせるような作品を完成させよう!」
一度小さく押し込み――そして空中へ跳ねるように全員で手を空中へとかざす。
こうして俺たちはスタートラインからようやく小さな一歩を踏み出すことになった。
「あ、後でお父さんは話あるから」
「はい……」
細田家の家族問題のスタートラインも同時に踏み出された様だった……。
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