第3章 異星人ヒーローフィルム

第21話 善人と良人

 星七が入部してから一週間後。


 地球防衛部は、星七が家から特撮グッズを大量に持ってきたせいか、四方八方には銀色の巨人や、宇宙人たちのポスターやフィギュアが設置されており、もはやもう何部か分からなくなっていた。


 ランはこの環境が大層お気に召したらしく、毎日来ては星七と共に熱い談義や、テレビで過去の再放送を見たり、優雅な特撮ライフを送っていた。


「ねぇ、セナ。なんでアドバンスって、四期やらずに終わっちゃったの? 普通一年間は放送するでしょ?」


「あれは一期のストーリーが重すぎて、テレビ局にかなりの苦情が来て修正したんだけど、結局打ち切りなっちゃったの。わたしは前衛的で凄く好きなヒーローだったけどな」


「アタシも! 今までもシリーズとは違って、変身する契約者が次の契約者に引き継ぐシーンとか最高だったわ!」


 アコが入れてくれたお茶を飲み、前に座る二人を眺める。本当に仲いいなこいつら……。


「ねぇ、ハヤタはどう思う?」


「ん? まぁ、シナリオは悪くなかったけど朝八時からやる内容ではなかっただろうな。深夜にやるべきだったと思うよ。元々その予定だったみたいだし」


「スポンサーの意向でそうなっちゃったんだよね。でも、放送された後に最も再評価された作品だから、その良さが理解されてよかったけど」


「そうなのね……。地球にも複雑な事情があるのね……」


 感心するランにその横に来て、アコはお茶を入れ直す。最近日本茶の入れ方を覚えたらしく、余すことなく部室で披露していた。


「平和だね……」


 星七がそう呟く。そう、平和だ。平和だけど何か大切な事を忘れているような……。


「隼大」


 ここでずっとタブレット端末をいじっていた桜が口を開く。


「今後の方針は決まったの?」


「「「「あ」」」」


 全員がそれを聞いて思い出したように、口を開く。というか普通に忘れていた。


「ま、まぁアタシは覚えてたけど! 隊長だしね!」


 嘘つけ、さっきまでそんな素振りさえなかったじゃないか。


「ワタシは普通に忘れていました」


「わたしも。というか、そもそも何をする部活なんだろうって思ってたけど」


 それもそうだ、星七が来てからまともな活動は清掃活動以外何もしていない。


「い、意識の低い隊員たちね! ハヤタは当然覚えてたわよね?」


「あ、あぁ……覚えてたよ」


 覚えてないと正直に吐露したら、尻尾のそれで殴られそうなので適当に嘘をついた。


「それで、方針は決まったの?」


 隊員全員の視線を一気に浴びる。

 さて、ここでなんと答えるべきか。答えなんて何も持ち合わせていない。


「そ、そうだなぁ……」


 とりあえず今は目の前にあるものから何か考えろ。言葉に詰まり、何も考えてなかったと思われるのが一番まずい。


 部室を見渡す。広がるのは数多の特撮グッズ……ここから何を導き出せと言うのか。だが今与えられたヒントはこれしかない訳で。


「え、えーと……」


 さらに目線が強くなった気がする。もう一度見渡してみるがそこにはヒーローと宇宙人と怪獣しかいない。


「ハヤタ?」


「隼大さん?」


「隼大?」


「隼大君?」


「…………」


 絞り出せ……このまま黙っているのが一番よくない。


 何でも……何でもいいのだ!


「あっ」


 ここで一つの考えが浮かぶ。これはいつか俺がやりたかった事――まさにこの部屋に広がるそれだった。


「皆で……地球防衛部で特撮ドラマを取らないか?」


 これは俺がずっとやりたかった事。両親の背中を見て育った俺の一つの夢だ。それが、今思い起こされた。


 だが、答えに対し、返ってきたのは数秒間の沈黙。そして――。


「いいじゃない特撮! 面白そう!」


「ドラマですか、いいですね!」


「妙案」


 どうやら星人トリオは喜んで納得してくれたらしい。


 ただ……一人真っすぐと表情を変えない


「隼大君、それ本当にやろうと思ってるの?」


「あぁ、思ってるよ」


 咄嗟に思い付いたわけではない、かつて――一年前の俺がずっと願っていた事だ。


「でも、ここに機材はないよ。どうするの?」


「それは……映画研究会に借りる」


?」


「今の部長は大和やまとだろ。なら問題ない」


「でも、その大和君と最近話してないじゃない」


「それは……」


「セナ、それってどういう事?」


 事情を把握していないランが不安そうに尋ねる。

 俺の方を星七は一度確認し、話していいと頷いて返事をした。


「隼大君はね。一年生の時映画研究会に入ってたの。でも、辞めさせられた」


「それは、どうしてですか? 隼大さんが問題を起こすようには思えませんが……」


「その時の映画研究会はね。カメラを握らないどころか、毎日遊んでばっかりだったの。それこそ映画さえ見ない、名前だけのお遊びサークル」


「で、納得いかない俺は先輩と衝突して、それでおじゃんだ」


 俺はそんな部活にしてしまった先輩達に嫌気がさし、反論したのだ。その結果、規律を乱したとして魔女裁判と言う名の部内会議が開かれ、投票で退部する事になってしまった。

 そして、その中で唯一味方してくれたのが今の部長である大和やまと大悟だいごだった。彼もフィルムを埋めないこの部活を良しとせず、不満を持っていた。

 しかし、最後の部内会議で彼は俺を退部にする事に投票し立場を守ることで、部活に残ることを選んだ。


 だからと言って俺は彼を恨むことはない、彼はその環境に耐えてやがて自分が上に立った時に、正しい形へ変えることを選んだのだ。

 俺は現状に我慢が出来なかっただけ、ただそれだけの話なのだ。

 その後、遊んでいた三年生は引退し、一緒になって遊んでいた二年もトラブルを起こし、いなくなってしまったらしい。

 その結果進級し、望んでいた機会が早く訪れ、二年で大和が部長になった。

 今更、映画研究会に戻る気はない。

 だって俺の居場所は、もう既にあるのだから……。


「――ま、という訳だ」


 適当に省略して、こいつらに説明した。

 別に同情してほしいわけではない、ただ経緯について理解してほしいだけだ。だが……。


「何それ、ふざけてるでしょ。ハヤタは何も悪い事なんてしてないじゃない」


 両手で大きく机を叩くラン。更にそれが伝播し。


「しかも辞めさせるなんて、そんなの違います」


「イエス。隼大は正面から向き合った、その結果排除されるのはおかしい」


「いや、だから――」


「アタシ、今からその大和って奴に文句言ってくるわ。そいつも気に食わないし」


「ワタシもです」


「イエス」


 三人同時に立ち上がり、強くドアを閉め、部室から出て行ってしまう。


「ちょ、待てって!」


 彼女達を追って、廊下に出るもそこには遠い足音と見えない背中。

 こういう時に、デジャブが発揮してほしいと心底思う……。




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