第20話 オヤジが電話!
喉も頭も枯れたその日の夜。特撮フィギュアが立ち並び、壁には映画のボスターが張った最も落ち着く自室で寝ようとベッドに潜る。
「誰だろ……」
枕元にあったスマホがバイブする。確認すると、父親のようだった。
「はい、隼大です」
『おぉ、隼大か。元気にしてたか』
この声を聞いたのも一カ月ぶり位だ。もうここの所、両親は家にさえ帰ってこない。
「元気だよ、父さんの方は?」
『俺はまだまだ撮影が長引きそうだ。映画の話もあって、当分帰れなくなった』
「もしかして、それを連絡しに来たの?」
『もちろん息子の声を聞きたいからっていうのもあるぞ、それに今日電話で星矢から面白い話を聞いてな。何でも、うちの息子が可愛い女の子の星人たちと交流してるとか』
面白おかしく尋ねてくるあたり……やはりこの人は俺の親だ。
「そうだよ。そいつらと一緒に部活をやってるんだ」
『部活……それは何とも興味深いな、今度是非取材させてくれ』
「お断りです」
この人なら本気で取材されかねない、作品の題材にされてもおかしくないだろう。
『ま、でも今度顔は見に行かせてくれよ。俺も隼大の友達が見たい』
「はいはい」
それは好奇心とかではなく、本心だろう。父親なりに友達のいるのかいないかも分からない学生生活を心配してくれているのだ。
ふと、部屋半分に置かれた仮面特撮シリーズのグッズを見る。
「母さんとは仲直りのしたの?」
『な、母さんの事はいいだろう!』
「よくないだろ。二人が仲良くしてもらわなきゃ東間家は崩壊する、というかもうしかけてる」
両親共々、仕事に夢中になって息子を放って置いているのが何よりの証拠だ。普通に育児放棄だぞ。
『か、母さんとは、作品の方向性が違うんだ。宇宙ロマンを捨てるなど言語だ!』
「またそんな事言って……本当に二人は方向性が全く違った似た者同士なんだからさ」
『分かってはいるんだがな……』
今うちの父親と母親は制作しているシリーズが違く、多忙のせいで意図してない別居状態が続いている。それに拍車をかけて、雑誌の居酒屋での対談企画でお互いの批評をしてしまったらしく、喧嘩してしまったらしい。
それをきっかけに本当に離婚とかにはならなければいいのだが、作品に向き合っているうちは多分大丈夫だろうが、これで向き合ってなかったらマジの離婚前別居だ。
「まぁ、近いうちに父さんと母さんと俺で話し合う機会を作ろう。なんとか、母さんにも説得してみるからさ」
『た、頼む……』
別に父親だって本気で母親の事を嫌っているわけではない。お互いがお互いの事を尊重し、同じ土俵に上がっているせいで戦うしかない環境にいる為仕方ないのだ。
『うぅ……何故か隼大に大人の威厳を見せようとしたのにこっちが気を遣われてしまうなんて……』
「分かったら早く寝てよ。明日だって撮影でしょ」
『うん……隼大、おやすみ』
「はい、おやすみ」
そう言って電話を切られてしまう。
全く……本当に子供みたいだな。
俺ももう寝よう、今日は本当に疲れた。
ベッドに潜って五秒後、もう意識ははるか彼方にあった。
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