第18話 第三惑星の小さな奇跡

 いつもの清掃に星七を加え、その後星七の実家である玩具天国に向かった。


 そして、目の前の光景を見るに俺の思惑に通りなったらしい。


「ねぇ、これ! ネクロス星人の初代ソフビじゃない!」


「それは二代目、初代は超プレミアで業者も引き取る事が難しいの。それとその塗装が二代目と初代の見分け方で――」


 ランは目の前のショーケースの前でずっと弾んだ声でソフビを眺めており、隣で星七も創作物の怪獣や宇宙人について熱く語っている。


 結局、心配していたランと星七だったが、百万光年どころか半日も経たずに仲良くなってしまった。


 俺とアコと桜は、そんないつの間にか友達になってしまった二人の背中見る。


「上手くいきましたね、やっぱり隼大さんは凄いです」


「いや、自分の事に置き換えただけだよ」


「ランかなり喜んでいる。また趣味を共有できる友達が出来たから」


 俺は二人の事を知っていたから、それに気づかせる手助けをしただけだ。友達になったのは彼女達で俺は特に何をした訳ではない。


「ま、特撮好きは宇宙さえも超えるって事だよ」


「深い」


 桜が無表情で頷く。何となくだが、こいつの内心も理解できるようになってきたのかもしれない。


「それにしてもここ凄いですね。怪獣や宇宙人のフィギュアがいっぱいです」


「ここはマニアでも、相当なマニアが通う店だからな。中には百万を超える商品もある」


「ひゃ、百万……。学食には一生困らないですね……」


 そう考えてしまうあたり、アコにはオタク特性はないらしい。


「隼大、あれは?」


 桜が指した先、そこには見た事のない怪獣の着ぐるみとヒーロースーツが置かれている。


「――あれは、俺が手製したオリジナルのスーツだ」


 俺の代わりに答えたのは、ピチピチのエプロン姿にスキンヘッドの体格のいい四十代位の男性。いきなり登場したせいか、アコが小さな悲鳴を上げた。


「どうも、店長」


「おう、元気にしてたか隼大」


「て、店長?」


 目を丸くする二人。当然だが二人はこの人が誰か理解してないので、説明してやる。


「ここ、玩具天国の店長で細田星七の親父さん、細田ほそだ星矢せいやさんだ」


「星七さんの……お父様?」


「…………」


 桜が口を開けて呆然とするのは無理もない。そのビジュアルは、明らかにそっち系の人で娘の星七とは似ても似つかない。店長だと知らなければ、ただの怖い人が店の奥から出てきたと思うだろう。


 俺の両親が店長と同級生という事もあり、幼い頃からよく面倒を見てもらっており、見た目は怖いが中身は優しく、俺にとってのもう一人の保護者でもあった。


「おう、よろしくな嬢ちゃんたち」


「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」


「ヨロシクオネガイシマス……」


 すると店長は肩を回し、二人とは少し離れた所に連れていかれる。


「随分面白いお客さんを連れてくるじゃねーか」


 小声で聞いてくる店長に対し、同じトーンで返す。


「あはは……、まぁ成り行きで」


「聞いてはいたが、まさかお前が星人と仲良くなるとはな……。やっぱり血は争えないか」


「まぁ、そうかもしれないです。でも、別に好奇心とかで仲良くなった訳じゃないですよ」


「だからこそ厄介というか……。はぁ……うちの娘にライバル登場かぁ……」


「ライバル? 何ですかそれ」


 何でもない、と切り捨てられ再び二人の元へ。


「嬢ちゃんたち、ここには地球の創作物の賜物が置いてある。是非、社会、じゃなくて地球勉強だと思ってゆっくり見ていってくれ」


「はい、ありがとうございます!」


「アリガトウゴザイマス……」


 店長は、納品の確認があると言って店の奥に戻って行ってしまった。


 結局、ライバルって何だったんだ?


「見た目は怖い方でしたけど、とてもいい人でしたね。流石、星七さんのお父様です」


「…………」


 店長を理解出来て胸を撫でおろすアコに対し、何故かずっとさっきから棒読みの桜。


「ぷしゅー……」


「なっ、煙!?」


 これは、いつかの状況で見た動力切れ。それが何故今、起きる?!


「ちゃんと朝回さなかったのか、アコ!」


「さ、桜は自分の理解を超える様な状況に遭遇すると、それを処理する為に必要以上のエネルギーを使ってしまうんです! もしかしたら店長さんが……」


 どうやら先ほどの見た目からのギャップは桜にとって相当ショックな出来事だったらしい。


「ねぇ、見てハヤタこれギャラクシーマンライトの三話の「滅亡の予知」に登場したキリエルロイドよ! まさか、平成の時代のフィギュアに出会えるなんて!」


 飛び跳ねて子供の様に見せてくるラン。そして、星七も……。


「よぉーし盛り上がってきたところで! これから皆でカラオケだぁー!!」


 興奮状態の星七とラン、そして煙を頭から出している桜と慌てふためくアコ。

 こんなカオスな状態を見て、どう盛り上がっていると思ったのか……。


 ◇


 そして、桜のゼンマイを回し終わった後。


 もうよく分からないまま全員で、本当にカラオケに来ていた。


「「ギリギリのー、ファイトをーー!!」」


 目の前では星七とランが叫び声に近い熱唱シンクロを起こしており、何故かタンバリンを叩かされている俺。一体何をやってるんだろう……。


「……お前らは歌わないのか?」


 隣で先ほどから不思議そうに、デンモクを眺めていた桜とアコに尋ねる。


「もしかして、宇宙にはカラオケってないのか?」


「い、いえありますよ! ですが、曲を入れる際こんな機械を使うんですね」


「これは実に興味深い。赤外線を利用して、画面に送っているとは……是非中を見て見なければ!」


「ちょ、バカバカ!」


 分解する手前だった桜を止め、アコにとデンモクを渡す。


「ほ、ほら何か曲でも入れてくれ。そうしないと、ルーム料金以外に別の料金が発生する」


「先ほど、人気曲の一覧は見たのですが全く地球の歌が分からなくて……。ミライアの曲ぐらいはあると思ったのですが……」


「みらいあ? 誰だそりゃ?」


「ミライア・ベルベティーン・カックス。F7星雲第七惑星ガックス星出身の銀河アイドル。宇宙では、かなり人気のある女性アイドル。恐らく彼女を知らないのは辺境の惑星位」


 という事は、地球は宇宙から見たら田舎なのか……。


 それに桜がサーチも使わず説明したという事は、余程有名な銀河アイドルらしい。


「ま、無いもんは無いし、ここは地球なんだから、地球の歌を一つくらい覚えて帰れよ」


「そうですね。えぇーと……」


 アコが操作し、曲を送信。画面の上に表示された曲は……。


「きらきら星か」


「はい、地球に来る前に一番最初に聞いた日本のメジャーソングなので」


 童謡をメジャーソングと言っていいのか分からないが、地球から見た宇宙を唄う

星人というシチュエーションが、かなり斬新な気がして思わず笑ってしまった。


「よし、じゃあ俺も一緒に歌うよ。メロディーラインとか分からないだろ?」


「はい、じゃあよろしくお願いしますね」


 そう言って歌い終わった二人からマイクを受け取り、イントロが流れ始める。


「きらきら星かー」


「あ、これアタシも知ってる!」


 懐かしむ星七に対し、何故か知っているラン。


 もしかして、きらきら星って本当に日本のメジャーソングなのか?


「じゃあ、せっかくだし皆で歌おうか。桜はこの歌分かるか?」


「ノー。しかし、ネットワークにアクセスし、インプットすれば一緒に歌う事が出来る」


「そうか、じゃあ――」


 こうして、地球防衛部皆できらきら星を唄う。


「きーらきーらーひーかーるー」


 地球の歌を星を越えた存在と共に歌う。そんな小さな奇跡がそこにあった。

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