第16話 地球人(星七)は侵略者


「ハヤタ今日どうしたの?」


「今日の授業中からずっとあんな感じでしたよね……」


 部室で、不思議そうに生気を失った俺を見るランとアコ。


「桜は知ってる?」


「シラナイ、お腹でも空いてるのでは?」


 桜にうめー棒状の駄菓子で、頬を突かれるが抵抗する気もない。


 俺は昨日、数少ない友達を失った。しかも、趣味と時間を最も共有した幼馴染、その衝撃は予想以上に心に傷をつけているらしく昨日は一睡もできなかった。


「しっかりしてよハヤタ。アンタが今後どうするか色々決めくれるんでしょ?」


「あぁ……」


「そうですよ、隼大さん! ワタシ達困った事があれば何でも力になりますから!」


「隼大は友達、嫌な思いをさせた奴はウチが許さない」


 あなた達……主に後者二人のせいでこうなってるわけですが……。もう突っ込むのも、面倒だ。


「生まれ変わったら星になりたいな……」


「何バカな事言ってるのよ、ほらシャキッとしなさい!」


 尻尾で往復ビンタを食らう。しかし、それでも抵抗も反抗もしない。


「す、凄い忍耐力です。ランのこれを耐えるなんて……」


「だ、だったらこれならどうよ!」


 尻尾の往復ビンタと同時に、ランが首を横に振りツインテールが顔面に打ち付けられる。


「こ、これはランの秘儀、デステールオーバー! 受けたものは、今後一切ツインテールを見るだけで失神する位のトラウマを植え付ける禁じられた技です!」


「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」


 繰り出される隙のない攻撃に息が出来ない、頬めっちゃ痛い。

 俺、ツインテールに殴られたのが死因で死ぬのか……。

 奇天烈な人生だったな……。


「――やめて!!」


 突然部室の扉が大きく開き、声が反響する。


 攻撃が止まったお陰で、一斉にそこに注目すると――。


「やっぱり、隼大君は星人に洗脳されてたんだね。そんなにまでなって……」


 そこにいたのは俺が昨日失ったはずの親友だった。


 そう、細田星七だった。


「あ? 何よアンタ」


「星人ツインテール! 今すぐわたしの親友から洗脳を解きなさい!」


「アタシはザグリア・ラン・フリースよ! それにハヤタは別に洗脳何かされてないわよ!」


「嘘よ! そこのゼンマイ星人と、おっぱい星人にエッチな事させられているのわたし見たんだから!」


「ウチはそんな事はしてない。あれはゼンマイを巻いてもらっただけ」


「わっ、ワタシは特に心辺りはないですよ。それと、おっぱい星人はやめてください!」


「うるさいエロス星人! 隼大君をたぶらかす侵略者め!」


「な、あんな変態惑星の住民と一緒にしないでくれる!?」


「あ、あの方たちの文化は否定も出来ませんが許容も出来ませんよ……」


「あんな淫乱星人と同一視されるのは侵害極まりない」


 エロス星人って本当にいるのかよ。しかも名前の通りの星人らしく、散々言われている。


「…………」


「て、撤回しなさい! アタシはザグリア星の第二王女様なのよ! 地球人ごときが、冗談でからかえるような立場じゃないんだから!」


「そんなの知らないよ! わたし達から見たら、あなた達はただの星人なの! 王女だか何だか知らないけど偉そうな事言わないでよ、ロリツインテ!」


「い、今アタシの事ロリツインテって言ったわね!」


「そーよロリツインテ星人! ロリロリ小学生!」


「しょ、小学生? アタシが小学生ですって!? それはアタシにとって最大の侮辱用語よ! もう許さないわ……アンタ諸共、ザグリア星の兵器でぶっ飛ばしてやる!」


「お、落ち着いてくださいアコ。そんな事したらこの街どころか地球が無くなっちゃいますよ!」


「下手したらこの銀河系も九秒で無くなる」


 ますますあらぬ方向へ言い合いが始まっていく。いつの間にか宇宙規模の話になってるし……。

 そしてどうやら様子を見るに星七は、先日のあれらを俺が洗脳されているせいだと思い込んでるらしい。


「星七」


「あ、復活した」


「だ、大丈夫? 早くこんな部活やめよう! もうこれ以上こんな所にいたらおかしくなっちゃうよ」


「いや……俺は辞める気はないよ」


「えっ……」


 星七の顔が冷める。しかし、これだけは言わなければいけない。


「俺にとってこいつらは大切な友達なんだ。そんな友達が理由もなく虐げられて困ってるのにそれを放って置くなんてできないよ」


「で、でもそれはこの星人達が洗脳したりして――それにこの前の事だって!」


「洗脳もしてないし、この前のは本当に誤解だ。それに俺はこいつらが星七と同じくらい好きなんだよ。まぁたまに呆れることも、本気で怒りたくなる時もあるけど」


 理由もなく友達を選ぶなんて事は俺には出来ない。それに困っていたら手を差し伸べてあげたい、それは勿論星七だって同じだ。


「それでも……」


 星七はそのまま顔を伏せてしまう。まだ納得していない様で、何も言うことなくただ床を見つめている。


 そして数秒後、顔を上げたと思えば彼女の表情はどこか決意に満ちていた。


「――入る」


「へ?」


「わたしもこの地球防衛部に入る」


 星人三人と俺は目を丸くする。いや、本当に何言ってるの?


「それで、隼大君が洗脳されてないかこの目でちゃんと確かめる」


 そして星七はランの方を向き直り、何故か宣戦布告するように指を指した。


「だから覚悟しなさい! エロス星人!」


 だから違うって! と声が綺麗に重なり、小さな部室に反響したのだった。

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