第11話 決意-トング-
放課後。地球防衛部の部室で、ビニール袋の置かれた机を部員全員で囲む。
「四天王寺さんにはさっき許可は貰ったから、後はやるだけなのだが……」
ずっと座り込み、どうしても頑なに席から動かない奴が一人。
さっきから目の前のそれらを見ようともせず、わざとらしく腕を組みながら考え事の様なフリをしているのがあからさま過ぎだ。
「おいラン、お前今朝ちゃんとやるって言ったよな」
「言ったけど、やっぱり気に食わないのよ。なんで王女のアタシが劣等な地球人の為に手を尽くさないといけないのか納得いかないわ」
「ラン、そんな事を言ってはいけませんよ。ワタシ達は彼らと同じ机で勉強してるんです。見下すような事を言っていれば一生仲良くなんかなれませんよ」
アコが人差し指を立てて母親の様に言い聞かせるが、それでもランは動こうとしない。
「なぁ、ちょっと聞いていいか」
隣でただ茫然と机を見ていた桜に耳打ちする。
「ランって本当に王女なのか。いくらなんでも、ワガママというか威厳もクソもないだろ」
「イエス。ランは正真正銘ザグリア星の第二王女。ただ、彼女は第二王女という立場からかなり甘やかされて育てられた。命令される事を何より嫌がる」
「なるほどな」
きっとこいつが何をやらかしても叱る人間はいなかったのだろう。今の態度が正にそれだ。
「ほらラン。地球人と上手くやらなければお母様が悲しみますよ」
「か、母様は関係ないでしょ。それに母様だって、アタシがこんな扱いを知っていると知ればきっと従わなくていいことに納得……というか、怒ってザグリアの軍隊で日本なんか秒で滅ぼしちゃうはずよ」
「確かにそうかもしれませんが、そんな事したらワタシ達の立場もなくなります。だから、ほら!」
今こいつらさらっととんでもないこと言わなかったか?
アコは必死に立ち上がらせようとするが、ランは意地でも吸盤の様に張り付き、頑なに動こうとしない。
「仕方ないですね――えいっ」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
お、おぉ……あの尻尾って弱点だったのか。てか、めっちゃ狂ったように笑ってるけど大丈夫か?
「やめっ、やめなさいっ、やめてっ!」
「ザグリア星人はここが弱点なのは知ってるんですよ。ほらほらっ!」
「ひひっ、あひゃ、ふひひひっ、うひゅふっ……!」
面白がってくすぐりを続けるアコ。それ以上やると――。
「あひゅ、ひゃ、やめなっ、さいよ!」
バチンッ!!
「あぶっ!!」
あぁもう、言わんこっちゃない。お得意の尻尾で叩かれて……今のはかなり効いたな。
「はぁ……」
仕方ない、このまま動かないのもまずいし、くすぐって無理やり連れて行ってもこいつは動かないだろう。現状何とかこのバカ王女を説得するしかない訳だ。
「ラン。お前、特撮が好きなんだろ」
「当り前じゃない。アタシは特撮が大好きよ」
「その特撮ヒーローたちは、他の星の宇宙人を馬鹿にするような事はしたか?」
「そんな事するわけないじゃない。だって、彼らはどんな時でも事情のある宇宙人や怪獣は受け入れて救おうとしたわ」
その言葉に肯定の意味を込めて強く頷いてやる。
そう、彼らはどんな時でも悪者を悪者と決めつけるような事はしなかった。
「正に今がそうだと思わないか。俺達が守るべき存在に受け入れられるようにアクションを起こす。そして、やがて認められて本物のヒーローになる」
「それは……」
「勝手に決めつけて自分のエゴで動こうとするなんて、それこそギャラクシーマンにでてくる悪い宇宙人と一緒じゃないか。お前は違うだろ?」
「アタシは……そう、悪い宇宙人じゃなくて皆に認められるヒーローになりたい」
あれだけ重かったランの腰がようやく上がる。
「じゃあ、やる事は分かってるな?」
「ま、致し方ないけどやってやるわよ。逆境があった方がカッコいいしね」
目の前の掃除セットを奪い取るようにつかみ取りドアへと向かっていく。その後ろで、俺は桜と小さくハイタッチした。床に倒れてるやつはとりあえず今はほっとく。
「ほら、早く行くわよ。見えない敵はすぐそこにいるのだから!」
「おうよ」
トングを掲げ、目を輝かせる彼女はまるでヒーローになり切ろうとする子供の様で。
それが、幼かった自分と重なって笑ってしまったのだった。
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