第2章 ミッションスタート!
第8話 試・練
翌朝。教室に入ると早々、もう既に噂が始まっているのかクラスメイト達は奇異な視線を浴びる。特に親しかったわけでもなく、人を話題に出来るとは案外人間は暇な生き物なのかもしれない。
机に到着するもまだ星人二人はおらず、目線を無視してスマホをいじる。
が、ここで突然朝の時間には珍しく、放送のアナウンスコールが流れ――。
『――二年十四組東間隼大君。二年十四組の東間隼大君、大至急生徒会室に来てください』
どこかで聞いたような女子の声。聞き流そうにしても、明らかに当人に向けたもので顔を上げてしまう。
「……俺、か」
思わず声が漏れる。何故早朝に生徒が、しかも俺が呼び出されたのか。
「間違いなく地球防衛部の事だよなぁ……」
重い腰を上げて、教室を出る。生徒会室に向かう間の廊下、指を指されては話題の種にされていたのはもう慣れてしまった。
◇
で、やってまいりましたよ生徒会室。と言ってもまだドア前だけど。
ここは職員室以上に待遇がいいのが、校長室の様な木製の長扉からは無言の圧力が伝わってくる。
「よしっ」
一旦、大きく息を吐き、その木製の扉を叩いた。
「どうぞ」
「失礼します――」
その返事にドアノブを強く握り――そして、ゆっくりとその扉を開けた。
その先あったのは、社長室の様な木目の壁と革張りのソファと大理石の様な机。
そして、正面の社長机には長い黒髪で、どこか引き込まれそうな雰囲気を持ち、目鼻立ちが完璧に整った美人が正面奥の椅子に座っていた。
そして俺は、この人を何度も学園で見たことがあった。
だってこの人は――。
「初めまして。高等部三年で生徒会長の
四天王寺麗――生徒数二千人の星雲学園のトップに君臨する生徒会長。圧倒的なカリスマ性と人気があり、この学園でこの人を知らない人はない。
と言っても、俺は学年集会や学期集会でしか見たことはないため、そこまで知っているとは言えないが……。
「えっと、二年の東間隼大です」
「あぁ、知っているよ。立っていては何だから掛けてくれ。今お茶を出す」
四天王寺は席を立ち、急須に沸かしてあったポットからお湯を入れ、丁寧に回してから茶碗に注いだ。
「どうぞ」
俺の前に出すと、微笑んで飲むように勧めてきた
口を付けると、風味が一気に口の中に広がる。飲んだ後もすっきりし、また口を
付けたくなる。
「美味しいですね」
「そうだろう。お茶を入れるのには自信があるんだ」
こんなに美味しいお茶初めて飲んだかもしれない。思わず心がリラックスしていく……。
……って、違う違う。何で呼び出されたのかという疑問を忘れるな。
「えっと……どうして俺は呼び出されたんでしょう?」
「私が君と個人的に話してみたかったからだよ。それに一応、君たちの顧問という立場なわけだしね」
「はぁ……」
優しい笑みを浮かべている四天王寺だが、その瞳の奥に内心何を考えているか分からない。
「東間君は、特撮が好きか?」
「まぁ、好きですけど……」
いきなりなんだと思ったが、ここは正直に答えた。
「ほう、それであのラン嬢と仲良くなったわけだ」
思わずせき込んでしまう。
ほら、やっぱりそれだ。
「話はやっぱりそれですか、俺なんかに興味はないでしょう」
「いやいや、君がどういう人間か知りたくてね。彼女達とも随分仲がいいようだし、ラン嬢は機嫌良く尻尾を振って、私の前に君の入部届を持ってきたよ」
そう言えばラン達が俺のクラスメイトになったのも、部活を作ったのもこの人が糸を引いていたからと聞く。
「えっと、生徒会長とあいつらは仲いいんですか?」
「彼女たちは私の大切な友人だよ。君だってそうだろう」
「まぁ……」
この人の笑顔はいまいち掴めない。本当の事を言ってるのか、それがまるで分からなかった。
「私も君と同じく人でないものが好きでね。彼女たちは私の理想形ともいえる」
「そうなんですか」
「あぁ、彼女達は見ていて面白い。飽きないというか、私達の予想をはるかに超えた行動をする、流石は星人だ。君だってそう思うだろう」
「さあ、どうでしょうね」
「君だってそう思うから彼女達に接触したのだろう。特撮で見ていた宇宙人が目の前に現れたんだ、心が高鳴っても仕方ない」
彼女は面白おかしく、まるで動物でも見た子供ようにそれを語る。その態度、視線はまさにこの学園の連中と同じ顔をしていた。
だから、
「俺は彼女達は別に珍しいとか、空想の中の宇宙人と同じ様には見れません。確かに初めて会った時は、正直頭のおかしい連中かと思いました。けれど、実際彼女達と正面から向き合って、彼女達はどこまでも真っすぐで、それでいて愛情表現が苦手で、誰にも負けないひたむきな思いがあって。そんな彼女は俺達人間なんかより、人間らしいんです」
だから、と続け目の前にいる四天王寺を睨みつける。
「そんな彼女達だから友達になりたいと思ったんです。別に人間とか、星人とか関係ない。ただ俺が一緒にいたいと思えた、それだけです」
「なるほど」
表情を一変させ、真顔に戻る四天王寺。
そして――。
「合格だ、君なら彼女たちを任してもいいだろう」
出会った時とは違う、四天王寺は人間らしい生気のある表情で笑った。
「……えっと、合格?」
「先に謝っておくが試してしまったこと申し訳ない。彼女達に近づいた人間がいると知って心配になったんだ。もしかしたら、彼女達を傷つけようとしているのかもしれないってね」
でも、と彼女は続ける。
「君はどうやら違うようだ。彼女たちを本気で好きになって、近づいてくれた」
「まぁ、あいつらがしつこく来なかったら気がつかなかったですけど……」
思わず拍子抜けして、全身から力が抜けるとともにため息まで漏れた。
まさか、彼女達に相応しい人間かを判断する為にプレッシャーを与えていたなんて……。
「彼女達は、私にない魅力的なものを沢山持っている。それを多くの人間が理解できないのはとても悲しいことだよ。だが、君の様な人間がいるのも事実だ。これからも、仲良くしてやってくれ」
「ちょ、やめてくださいよ。生徒会長である人が俺みたいのに頭を下げるなんて……。それに俺は言われなくてもあいつらと付き合いを辞める気はないですから」
「ありがとう。やはり君は普通の人間とは違うな。流石、東間の姓を名乗るだけはある」
「まぁ、うちは昔から物事に対して偏見は持つなって言われてますから。何より親がそういう職業というか、性分の人間ですからね」
その意味を知っている四天王寺と笑い合う。
そして、彼女はゆっくりと右手を差し出した。
「こんな事を言うのは少し恥ずかしいが……私とも、友人になってほしい。私も君の事がどうやら好きになってしまった様だ」
その言葉に思わずドキリとするが、それは人間的に好きという意味だろう。
俺はその手を左手で強く握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。それに友達の友達は――もう友達ですからね」
こうしてまた、俺の日常はゆっくりと面白い形で移り変わっていく。
その日常を壊したのは彼女達で――もしかしたら、侵略しにきた宇宙人は星人ではなく、物語のヒロインなんじゃないか……なんてね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます