第6話 小さな星人、そして地球人
放課後、帰りのホームルームを終え、まばらになった教室に一人で戻ってくる。
すると予想通り、俺の席の右隣の星人は落ち着かない様子で窓の外を眺めていた。
こちらに気がついたアコにアイコンタクトをし、自分の席に着いた。
「あー全く散々だったよ。まさか誰かさんの料理で三途の川を渡るところだったぜ」
「う、うるさいわね。悪いと思ってるわよ」
こちらを見ずに答える金髪ロリデビル。相当先ほどの惨劇が応えているらしく、その背中には覇気がない。
「ま、もうあんなのは散々だけどな。ちゃんと料理位作れないと結婚できないぞ」
「余計なお世話よ、ふん」
数秒間の沈黙。俺は彼女が話してくれるまでその場で待つ。
「――もう迷惑だったら迷惑ってはっきり言って、もう近づかないから」
本当に分かりやすいなこいつ、尻尾まで俯いてるし。
「そうか……じゃあはっきり言わせてもらうが迷惑だ」
すると、涙交じりの小さな声で――。
「そう、ごめんね」
「だが――もう近づくなとは言ってないぞ」
「えっ――」
なんだよ、やっぱり泣いてたんじゃないか。赤み目とる涙の跡が何よりの証拠だ。
「実は、俺はお前と同じでこの学園に友達と呼べる存在が一人しかいない。実は、ちょうど友達が欲しいと思っていたところだ」
「えー、そうなんですかー」
隣に座っていたアコが明らかな棒読みで驚く演技をする。ナイスアシスト。
「あぁだが、俺の友達になる条件として、特撮好きってなければいけないっていう絶対条件がある。やっぱり趣味の合う方が楽しいからな」
そして、俺は困ったように頭を抱え。
「でも、特撮好きなんて中々いないし……。はぁ……流石にそんな都合のいい人間はいないよなぁ」
「だ、だったら――」
金髪ロリデビルに強く袖を引っ張られ。
「特撮好きだったら、友達になれるの?」
「あぁ、それが男でも女でも、星人でも誰でも大歓迎だ」
「あ、アタシ特撮好き、大好きなの!」
よし、ここでようやく本音が引き出せた。
後は――。
「口だけでは何とでも言えるしな……。もし、俺が作った特撮の特別問題に全て答えられた認めてやるよ」
「の、望むところよ! もし、全問正解したら友達に……なってくれるんでしょうね」
「あぁ、友達になってやるよ。しかも、何でも言う事聞いてやる! なんせ友達の頼みだからな!」
「じゃあ、アタシが正解したら友達にもなって――地球防衛部にも入ってもらう! だって友達だもん!」
出会った時からと同じ彼女のらしい態度に思わず口角が上がる。
舞台は整った、後は彼女が好きなものを証明するだけだ。
◇
誰もいなくなった放課後の教室で教卓の前に立ち、先ほど印刷してきたプリントを配る。
「これを受ける奴は三人でいいんだな?」
星人トリオが真剣な顔で頷く。それを確認し、時計を見る。
「テスト時間は今から三十分。カンニングや不正は即退出だ、特撮を冒とくしたとして、再度テストを受ける事も許さんから覚悟しとけ」
時間は四時二十九分、半から始めれば五時終わりで丁度いいだろう。
そして、時計が一周回ったのを確認し――。
「では、始め!」
紙をめくる音が重なり、問題に向かう三人。
答えを事前に教えたアコは問題ないと思うのだが、心配はやはり金髪ロリデビルと紫ゼンマイポニテ。
紫ゼンマイポニテに関してはそもそも特撮という文化を知っているのか疑問なのだが、さっきアコに尋ねた時――。
「――桜は、AIなので自動でネットワークにアクセスし答えるので問題ないです。まぁ、かなりの反則技ですが……」
もはやカンニングの領域を超えてチートだ。授業とか退屈過ぎてサボりたくならないのだろうか。
しかも、普通の椅子にゼンマイが邪魔で座れないらしく、今は丸椅子を利用して座っていた。
となると、やはり心配は金髪ロリデビルだが、先ほどのアコとの会話で。
「確認なんだが、あいつの特撮好きっていうのは、仮面ヒーローに変身したり、戦隊ものとかじゃないんだよな?」
「えっと、ワタシが知っている限りではランが好きなのは、かがくとくさつシリーズ? 星人が地球人と共に、悪の侵略者を倒すドラマだけですね」
「なるほど、了解した」
という事は、彼女は科学特撮シリーズオタという事だろう。発言から、ある程度予想はしていたが、その方向性で問題を作る事にした。
「…………」
真剣に問題に向かい合い、何度も書き直す。この様子だけを見れば、彼女が特撮好きな事が理解できた。
だが……この問題ははっきり言って、相当に難しい。その辺はぬかりなくやらせてもらった。
やはり特撮好きを名乗る限りは、このくらいの問題を解いてもらわなければ胸を張ることは出来ないだろう。
シャーペンの音だけが聞える教室で、彼女達三人が必死に問題を解く姿を眺める。
机に向かい問題を解く彼女達は、見た目は異彩を放っているが、それ以外は普通の学生とほとんど同じだ。
その姿がテスト前の自分と重なり、思わず小さくエールを送ったのであった。
◇
テストが十分前に終わり、覗き込む三人の視線を浴びながら、アコと紫ゼンマイポニテの採点を終える。
アコは事前に答を教えたため満点。あれだけの問題をしっかりと細かい説明まで書かれており、暗記力は人並み以上にいいらしい。
紫ゼンマイポニテに関しては機械的な字で全て書かれており、一文字も直した様子もなく満点だった。
「残るは――」
胸の前でがっしりと祈るように手を握り、難しい顔で採点されていく答案用紙を凝視する金髪ロリデビル。
今のところ書き直した様で見えづらい部分もあるが、間違いはない。どうやら特撮好きを名乗るのは本当らしい。
そして……最後の設問の一つ前の問題に丸を付ける。
残るは最終問題、他の二人も固唾を飲んで答案用紙に目を向けている。
だが――。
「――答えが、ワタシたちのと違いますっ……」
アコが思わず声を漏らす。そう、最後の設問だが他の二人と答えが違うのだ。
「『戻ってきたシリーズで登場したギャラクシーマンジャックはどのような存在か答よ』」
紫ゼンマイポニテが改めて読み直す。
この問題は、ギャラクシーマンジャックがどのような立ち位置にいるか答える問題である。
これは科学特撮シリーズを少しでもかじっていれば誰でも正解できるサービス問題。
もちろん俺もそのつもりで最後にその設問を残した。
アコと紫ゼンマイポニテの解答は、「ギャラクシーセブンの次のギャラクシーマン」と書いており当然正解なのだが、金髪ロリデビルの解答には――。
「――ギャラクシーマン、か」
そして、その横に小さな文字が書かれていた。
アコが悲痛の顔を浮かべ、言葉にしなくてもやってしまったという内心が見てるこちらまで伝わってくる。
俺は小さくため息を吐くと、赤ペンを強く握り――。
「残念だが――正解だ」
その解答に力強く大きな丸を書いてやった、お疲れさまとでも気持ちを込めて。
「えっ? えっ?」
「ホワイ? 何で?」
ありえないと目を見開く他の二人。
しかし、金髪ロリデビルは当然という様に満足げにツインテールを仰ぐ。だが、額に脂汗が出ている当たり内心相当焦っていたのだろう。
「この問題がギャラクシーマンジャックがどのような存在か、っていうのが求められているんだよ。つまり、ギャラクシーマンジャックが何であるか説明できればいい」
解答の横に書かれた小さな文に目を移す。そこには、その解答の補足説明が書かれていた。
「――ギャラクシーマンジャックで使われたのは、初代ギャラクシーマンの着ぐるみで、シリーズ的な立ち位置で言えばギャラクシーナインの次のギャラクシーマン、と」
つまり、この金髪ロリデビルは答えを二つ書いたのだ。
しかも、どちらも正解である答えを。
「この問題は別にどういう存在かを聞いているだけで指定はしてない。この着ぐるみっていう解答も正解だ」
「ふんっ、当然よ」
最後のサービス問題のつもりで作った設問が、まさかこんな解答をしてくるとは思わなかった。この金髪ロリデビル、昭和のシリーズから触れているという事は相当のオタクの様だな。
「じゃ、じゃあ――」
金髪ロリデビルの表情がパッと明るくなり、尻尾が揺れる。
そして俺は――彼女達に向き直り、右手を差し出し深く頭を下げた。
「俺と――東間隼大と友達になってください!」
もう、きっかけと機会は整った。
後は、この手を握ってくれればもう友達になれる。
しかし――。
「…………」
何秒経ってもその手が握られる事はない。
もしかして、やり方を間違ったのではという考えが横切り、顔が挙げられなかった。
「うっ……うっつ……」
だが聞こえてきたのは声の高い泣き声。
目の前に見える床を水滴がぽつぽつと濡らしていく。
「うれし、うれしいよぉ……。まさか、本当に夢がかなうなんでぇ……」
彼女らしくない弱音を吐いた涙。
もうここまで来たら自分が正しかったことがよく分かった。
そして――ゆっくりと差し出した手は握られ、俺はゆっくりと顔を上げた。
「アタシの名前はザグリア・ラン・フリース! よろしくね、ハヤタ!」
そこにいたのは涙を流し、ただ友達が出来た事を喜ぶ一人の女の子の姿だった。
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