第3話 怪しい隣星人

「ふぁ……」


 朝。いつも通りの平日の朝。


 まだ惰眠を貪りたいが、今この家には俺しかいない為、無理やり体を起こし、パジャマを脱ぎ捨てる。


 掛けていた制服に袖を通し、鏡の前に立ち赤いネクタイを締めた。毎度毎度、この作業だけは朝のルーティンだ。


 因みに制服について説明しておくと、星雲学園の男子の制服は上下橙色のブレザーで、ネクタイは学年別に分かれている。女子の場合も上は橙色のブレザーで、下は橙色のスカートになる。


 ……って誰に説明してるんだろうな俺。


「この制服、科学特捜隊の制服みたいだよなぁ」


 きっとこの制服を着てそう思うのは、星雲学園の学生では俺と星七くらいだろう。後は、五十代の世代ぶち当たり男性教員位か。


「よし」


 適当に一人で朝食を済ませ、家を出る。俺の家から星雲学園までの距離は歩いて十分。


 いつものようにイヤホンで特撮シリーズソングを聞きながら足を進ませていると。


「はぁはぁ……」


 途中信号待ちをしていると、いつの間にか隣に星七が並ぶ。


 息を切らしているあたり、視界に入り追いかけてきたのだろう。


 会話を交わすためイヤホンをとった。


「おはよう星七」


「お、おはよう隼大君」


 落ち着いて深呼吸をしているのを待っていると、信号が青に。


 俺は星七の歩幅に合わせて、歩き始めた。


「隼大君、昨日のグリードマン見た?」


「あぁ、見たよ。最高だったな」


 どうやら深夜帯にやっている特撮アニメの話がしたかったらしい。俺もそれを視聴する為に起きていたので、朝一番にこうして友達と語らえるのは嬉しい限りだ。


「まさか、何回も世界を修正してたなんて凄い伏線だよね! 鳥肌立ったよ!」


「しかも主人公が修正に影響を受けない存在だなんて、更に燃える展開だよな」


 学園までその話題をしながら並んで歩く。


 内容やシナリオ、作画についても語り合える友達は幼馴染である星七位だろう。


 数分ほど足を進ませるとやがて、俺と星七の通う高校――星雲学園が見えてくる。

 中央に大きなドームがあり、そこから校舎が複数に枝分かれした特殊な建築構造。校舎が学年や、実験教室、部活棟様々に分かれており、校庭や中庭などを会わした全体の面積は東京ドーム六個分もあるそうだ。


 生徒数は約二千人、日本有数のマンモス校で数多くの部活が存在し、活躍する運動部も多く、また学業でも毎年多くの学生が有名国立校に入学している。


 一学年にクラスは二十クラスあり、毎年この単位でクラス替えを行うため、次の年の自分の周りは大抵知らない人しかいないのが、この学園唯一の残念な点かもしれない。


 ……って、またまた朝から誰に説明してるんだろうな俺。


 もしかして昨日どこかで頭を打ったのかもしれない。


 続々と校舎に入る学生に続き、階段で俺のクラスであるH組の教室がある三階へ向かう。


「じゃあ、またね」


 軽く手を振って星七と別れる。同じ学年と言ってもクラス数が多いので、星七のE組は二階に置かれているのだ。


 三階に着き、クラスに足を向ける。その間も、知らない学生たちが次々と早い番号のクラスに吸い込まれていく。


 H組の教室に着き、誰に挨拶するわけでもなく真っすぐと自分の机に向かった。

 一番後ろの窓側から二列目の着席し、スマホをいじる。昨日のグリードマンのレビューや、フィギュアやソフビの値段を下がっていないか確認するのが、この時間の日課だ。


 クラスに話す人間はいるが、別に星七ほど親しい人間がいる訳じゃない。

 なので、この時間帯は誰にも話しかけられないパーソナルタイムなのだが……。


「おはよ、ハヤタ」


「おはようございます、隼大さん」


「…………」


 教室に入室したそいつ……金髪ロリデビルは当然の様に俺の左隣の席へ。


 また同時に入室した触覚巨乳ピンクは俺の右隣に平然と着席した。


 この異常な程色彩が豊かな髪色や、尻尾や、触覚が見える光景は……明らかに俺の知っている朝の光景じゃない。


 その証拠にクラスメイトはこちらに怪訝な視線を向け、悪意を込めた小言を話していた。


「……お前ら、一体どういうつもりだ」


「あら、地球人はまともに挨拶が出来ないの?」


 悔しいが金髪ロリデビルの主張はごもっともだ、仕方ないのでそれに答えてるしかなさそうだ。


「おはよう、金髪ロリデビルと触覚巨乳ピンク」


「あ、アンタ誰に向かって金髪ロリデビルって言ってんのよ!」


「しょ、触覚巨乳ピンクってワタシの事ですか!?」


「お前ら以外に誰がいるんだ。それで、何の用だ」


「ふん、それに答えてほしければアタシの事をランと呼ぶことね」


「わ、ワタシはそう言えば自己紹介がまだでしたね、えっと――」


「あ、こいつの事は無視していいから」


「酷いですよ、ラン!」


 なんか勝手にコントが始まったぞ……。


 時間が経つ度、こちらに向けられる視線が増大していくのでとりあえず、廊下に引っ張っていく。


「ちょ、何なのよ。いきなり廊下に連れ出して」


「とりあえず、なんでお前らが俺の教室を知っていて、何故俺の隣の席に座ったのかを答えてくれ」


「だから、アタシの事はランって――」


「あ、それは生徒会長さんにお願いして東間隼大さんの名簿を教えてもらったんですよ」


 名簿を教えて貰っただって? というか、何のために?


「いや、名簿教えて貰ったって、お願いして貰えるわけないだろ。それに個人情報だぞ」


 確かに、星雲学園の生徒会は二千人の生徒や星の数ほどある部活をまとめているから、ある程度の統治権や権力を保持する事が許されていたりするらしいが……。


「だからー、生徒会長に今のクラスに馴染めないので東間隼大君のクラスに入れてくださいって頼んだのよ。ついでに隣の席ってオプションもつけてね」


「生徒会長に手を回していただいて、それが今朝、学園の理事会で承認されたんですよ。今日からよろしくお願いしますね」


「いや……え?」


 意味が分からん。


 つまりこの二人は……俺のクラスメイトになったって事?


「グレイが隕石食らったような顔してんのよ、今日から隼大とクラスメイトで隣の席になった、それだけじゃない」


 その例えがちょっと意味が分からなすぎるが、考えている事は合っていたという訳で……って、マジかよおい。


「これは……悪い夢なのか?」


「悪い夢じゃないわよ、とってもいい現実じゃない。というか、美少女二人に囲まれて授業受けられるなんて早々ないわよ」


 確かに見た目だけは美少女かもしれないけど……あの星人だぞ。しかも、拉致星人というオプションまでついている。


「どうして俺なんだ。たまたま昨日捕まったからか? 嫌がらせか?」


「アンタと個人的に仲良くなりたいのよ。それと、部活に入って欲しい」


 恐らく後者が本命だろう。こうして俺にプレッシャーを与えることで、無理やり入部させようとしているのだ。


「残念だが、俺は地球防衛部とかいう部活に入る予定はない」


「アタシ達にはハヤタが必要なのよ。だから、お願い」


「そう言われても無理なものは無理だ」


「お願いします。隼大さん、ランがここまで言うなんて珍しいことなんですよ」


 いや、そうやって女子の柔らかい手を握られたら……ダ、ダメだ、色仕掛けに負けてはいけない!


「と、ともかくこんなのふざけてるだろ」


「ふざけてないわよ。さぁ、アタシ達と一緒に地球を防衛しましょう!」


「しない」


 もう話すことはないと背中を向けて突き放す、が……。


「するわよ、防衛」


「しましょう、防衛」


 そう、こいつらは否応にも両隣の席に存在してるんだよなぁ……。


 無視出来ればいいんだが、それが簡単に出来る距離感じゃない。


「はぁ……」


 いつもと変わらない青空と、クラスメイト達のこちらに向けた話声。


 そして隣の星人二人。


 特撮モノなら突然怪獣が現れ、日常を壊し物語が始まるものだが、俺にとって例えるとこんな日ではないだろうか。


 東間隼大の日常生活が侵略されている――そんな今朝だった。(グリッド〇ンかよ)




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