第2話 つかの間の怪獣と幼馴染
「はぁ……」
ガラスケースの向こうの紅白の文様のある宇宙人のフィギュアを見て、前に普段はあまりする事の無いため息をつく。
「随分疲れてるね。ここに来るのも遅かったみたいだし、何かあったの?」
大きな星の髪飾りを付けた、エプロン姿のボブカットの童顔女子が隣に並び、こちらを覗き込む。
「
「いきなりどうしたの。隼大君、宇宙人好きでしょ?」
「それはそうなんだけどさ……。はぁ……」
科学特撮シリーズの宇宙人や怪獣は大好きだ。
だが、今日のあれは違う。
「まぁまぁ、これでも見て元気だして」
「こ、これ初代のブラック大王のフィギュアじゃないか!」
「凄いでしょ。入荷するの大変だったんだー」
大変どころではない、実際プレミアがつくほどの超レアソフビ。買うとなれば三十万は下らないだろう。
流石レトロ玩具やプレミアフィギュアなどを専門的に取り扱うホビーショップ「
この店は、俺の幼馴染である
「ぐへへ……」
ブラック大王を嘗め回すように吟味していると、棚を掃除していた星七が思いついたように振り返る。
「そう言えばうちの学校にもいるよね。宇宙人……じゃなくて星人」
その言葉に思わず先ほどの光景が思い浮かぶ――あの意味の分からない電波金髪ロリデビル女の顔が……。
「まさか星雲学園に来るとは思わなかったよ。わたし、今まで空想だと思ってた存在が近くに現れてびっくりしちゃった」
「そ、そうだな……」
俺と星七の通っている高校――
――星人留学生制度。
この制度は、星人を一般の高校に留学させ地球の文化に馴染んでもらい、良好な友好関係を築く事を目的としたもので、星雲学園はこの制度のモデルケースとして日本に最初に導入されたのが星雲学園高校だった。
今日俺を拉致った奴らがまさにそうで、まさか三人迎えられたうちの三人に今日遭遇する事になるとは思わなかったが……。
「でもまさか、星人がワタシ達と同じヒト型なんて思わなかったよ。クラスは違うけど一度でいいから話してみたいなー」
いや、ろくなもんじゃないぞと突っ込みたかったが、俺と同じ特撮好きの星七の期待を裏切るのはあまりにも酷なのでやめた。
「でも、やっぱりまだ学園の人達は偏見があるみたいだね」
「そりゃある日突然宇宙人が転校してきて一緒に授業を受けるなんて、一般人からしたら気持ち悪いだろ」
星人がこの地球という星に来てまだ数年。
いくらテレビや、マスコミが友好関係を順調に築いていると言っても現実社会はそうではない。
突然日常に現れた彼らは何をするわけでもなく、奇異な存在というだけで日常を壊してしまう。
彼らは何をするわけでもなく、ただそこにいるだけで侵略者になってしまうのだ。
学校という狭いコミュニティは正に社会の縮図を表しており、現に噂で聞いた話だが留学生の三人は孤立しているらしい。
彼女たちに罪はない……と言いたいところだが、今日の様な感じで人々を拉致っているのでは変な噂が立っても仕方ないだろう。
「うーん。わたしは別にそんな事思わないけどなぁ」
「星七みたいな人間は珍しいよ。ま、単純に好奇心だけで思ってるだけかもしれないけど」
「お父さんにもそう言われたけど、わたしは本当に仲良くしてみたいよ。でも、クラスも違うし話す機会が無いんだよね」
「だったら――……いや」
彼女一人で地球防衛部という得体の知れない部活に行かせるのは、あまりにも危険だ。
なんせ奴らはいきなり人を拉致るような連中なのだから……。
「俺は……あまり関わらない方がいいと思うぞ。星七の為だ」
もしかしたら星七まで学園で奇異な目で見られてしまうかもしれない、これは賢明なアドバイスだ。
「ま、星七が関わりたいって言うんだったら自由にすればいい」
その時は俺も同行しよう。やっぱり心配だからな。
「うん、ありがと。もしそれでわたしが学園でいじめられたりしたら、隼大君は助けてくれるでしょ?」
いつぞやと変わらない期待を込めた瞳を向ける星七。だから、彼女望んでいる様な答えを言うのが俺の、幼馴染としての務め。
「あぁ、当たり前だ」
「流石わたしのヒーロー。頼りにしてるね!」
そう嬉しそうに笑う顔は、何度年経っても変わらない星七のチャームポイントだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます