ようこそ地球防衛部へ!

神喜

第1章 トラブルインベーダー

第1話 地球人を捕れ!

 これは、今より少し遠くて近い未来。


 ある日突然、他の惑星の生命体が地球人の目の前に現れた。


 彼らは我々にこう言った。


 「この星を開きなさい」、と。


 かつての黒船襲来のようにはならず、あっさりと地球は他の惑星の生命体と、友好条約を結んだ。


 そこにはメリットの方が大きく、断る理由も特にない。


 先進国たちは次々と他の惑星の生命体と積極的に交流を行った。


 そして、この日本も……。


 これから日本がどう宇宙人と接触を図っていくかなんて俺には知ったこっちゃない。


 そう、知ったこっちゃないはずだったのだが……。


「おい、俺をこんな所に連れてきて……何が望みなんだ」


 目の前にいる気配を頼りに、訴えかける。


 今現在俺は何故か今目隠しをされていて、椅子にも布のようなもので拘束されており、全く身動きが出来ないのだ。


 どうしてこうなったかという経緯を説明したいところだが、ただ普通に廊下を歩いていたらいきなり身体の自由と視界を奪われ、気が付けばこんな状況。


「――地球は、侵略されている」


 聞こえたのは女子の声。かなり高く、聞き取りやすい声……というか萌え声。


「多くの国が星人を受け入れる中でこの日本は、いえ、この星雲学園には危機が迫っているのよ」


「そうか……別に俺は危機とか興味ないからさっさと返してくれ」


「アンタの目の前にも危機は迫っているの。このままいけばやがてこの学園、そして日本、やがては地球が侵略されてしまうのよ」


 いや、今が目の前の危機なんだけど……。それに侵略って、いきなり話が飛躍しすぎてるぞ。

 だけど仕方ない……状況が進まないので、とりあえずここは話に乗るしかなさそうだ。


「侵略って、地球と星人との交流が始まったのは五年前だろ。それにいくら星人たちが優れた技術力や武力を持っていたって、それを一方的に行使してはいけない。宇宙法的にはそうなってるんだろ」


 宇宙法というのは、星人達で決めた法律。


 地球で言えば国際法みたいな存在で、地球人は他の生命体が接触して来るまで知らなかった法律だ。


 というか、なんで今こんな状況で俺は説明してるんだろうか……。


「甘いわね。侵略というのは、武力ではなく水面下で行うものよ。それも理解できないなんて、地球人というのはパワーゲームが下手なのね」


 下手でもなんでもいいよ。早く返してくれ。


「そんなアンタに朗報があるわ。アンタには特別な力がある。その力をこの地球の平和の為に使う気はないかしら」


「ない」


「な、なんで!? こう言えば、大抵男の子は引っかかるはずなのに!」


「あ、当たり前です。流石にいきなりこんな所に連れてきて、訳の分からない事言われても困りますよ」


 ここで新しい女子の声。声質は少し柔らかい感じか。どうやらこの電波女の仲間らしい。


「逆にここまで話に乗ってくれたのが奇跡というか……。今までは、「侵略されている」のところで逃げ出されてるじゃないですか」


「何? アコ。アタシのやり方に文句でもあるの? 現にコイツはアタシの話を逃げ出さずに聞いてるし、実は興味あるのよ」


「今回はさくらが逃げられない縛り方を学習し、実行した。その成果」


 またまた初めて聞く女子の声……。今度は声に抑揚が無く、ある意味特徴的な声だ。


「ほ、ほら! もう流石に返しましょう。この方が可哀想です」


「あ? このままじゃ地球が侵略されるっていうのよ。アンタはそれでもいいって言うの?」


「というか、そもそも侵略する立場はワタシ達の方で……」


「イエス。だが、侵略する気も戦う気ない」


「な、アンタ達裏切ったわね!」


「ひゃ! 何するんですか!」


 なんか勝手に喧嘩が始まったぞ……。勝手に置いてけぼりにしないで欲しいし、さっきから聞こえるこの嬌声がやたら気になる。


「や、やめてください……」


 誰かの泣き声が聞こえ場が落ち着いた? ようなのでようやく口を挟む。


「よく分からないが、もう返してくれ。この状態かなりきついんだよ」


「どうするラン、ウチはもうどうでもいい」


「さっさと解いてやればいいじゃない。別にそんな腰抜け今更いらないわよ」


 お前らが勝手に俺を校門前で拉致って来たんだろ……。と言いたいところだが、この状況で余計な事を言うのはやめよう。反感を買っては元も子もない。


 すると縛られていた手足が解放され、最後に目隠しがゆっくりと取られる。


 何十分ぶりに見た外界の光景。


 どうやら連れて来られたのは、どこかの空き教室らしい、が……。


 俺の正面に並んだその三人は嫌な意味でこの空間を彩っていた。


 まず真正面から。

 輝くほどの金髪で長い髪をまとめたツインテールに、悪魔の様な尻尾を付けた体格の一回り小さいアイドルフェイス女子。以下、金髪ロリデビル。


 そしてその右側。

 不自然な程のピンク色の巻き髪で、頭に二本の銀色の触角を付けた胸が大きい何故か涙目の発育が著しいハーフ系女子。以下、触覚巨乳ピンク。

 

 それの一つ挟んで左側。

 紫色の髪色で背中に大きなゼンマイの様なものを付け、端正な顔立ちなのに眠そうな目をしたポニーテール女子。以下、紫ゼンマイポニテ。


 明らかに地球人のビジュアルではない三人が、こちらを見下ろしていた。


「戦隊ヒーローみたいな色彩だな……」


「センタイ? なにそれ?」


「いや、なんでもない」


 別の星の生命体がそもそも戦隊ヒーローを知ってる訳ないか。改めて仕切り直す。


「お前らもしかして留学生か?」


「そうよ。アタシ達は、この学園に星人留学生制度でこの学園に入ってきたのよ」


 金髪ロリデビルの女子が尻尾のようなモノをひらひらとさせながら答える。


 という事は、つまりそういう事で……。


か」


「そ、その通りです。すみません、すみませんでした!」


 いや、触覚巨乳ピンクが何度も何度も頭を下げる。というか悪いと思っているなら、そもそも拉致るなよ。


「ほ、ほらランと桜も謝ってください!」


「えー、なんで謝んなきゃいけないのよ」


「ノー。ウチはランに指示されただけ」


「もー! そんなんだから宇宙人は……とか言われちゃうんですよ!」


「宇宙人って、アタシ達から見たらそんなの地球人にも当てはまるじゃない」


 金髪ロリデビルと紫ゼンマイポニテは頭を下げず、そんな二人の代わりに頭を下げ続けてるし……。


「あー、アンタ地球救う気ないんでしょ。帰った帰った」


 金髪ロリデビルは手と尻尾を同時に動かしシッシとジェスチャー。恐らくこいつが主犯なのだろうが、随分な態度だ。


 席から立ち上がり、ドアへと向かう。これ以上付き合ってられるか。


「…………」


 だが、どうしても前の会話で一つ気になっていたことがあり、振り返った。


「なぁ、何で星人のお前らが地球の平和を守ろうとしてるんだ?」


 その問いかけに触覚巨乳ピンクと、紫ゼンマイポニテは金髪ロリデビルを見る。


 どうやらその答えは彼女しか持ち合わせていないらしく、仕方ないとばかりにため息を吐いた。


「この日本では定石でしょ。宇宙人と地球人が力を合わせて、悪の怪獣と宇宙人と戦うのって」


「…………」


 そんな特撮ドラマみたいな理由で俺をさらったなんて……というか、そもそも誰でも良かったのか。


「お前らとは違う形で出会っていたら、仲良くなっていたのかもな」


 まぁ、そんなのは希望的観測かもしれないけど。


 とにかくもう、人をさらうような連中と関わるのは人間でも宇宙人でもお断りだ。


「じゃあな――って、まだ何かあるのか」


 ドアに手を掛けると同時に掴まれた左腕の方へ振り返る。


 そこには、金髪ロリデビルがこちらを見上げており。


「アンタ、名前は?」


「人の名前を尋ねるときはまず自分からだろ」


「あ、アタシの名前はザグリア・ラン・フリースよ。高等部二年で、分かってると思うけど、星人留学生制度でこの学園に今年から来たの」


 なんだこいつ、さっきは随分な態度だったのに、あっさり自己紹介するのな。


 まぁ、ここは人として……日本人の礼儀としてしっかりと答えなくては――。


「――東間とうま隼大はやた。ついでに言うと俺も高等部二年だ」


「ハヤタ……」


 すると何故か、金髪ロリデビルは目を一瞬丸くするも途端に輝かせる。


「ねぇ、ハヤタ。アンタやっぱりうちの部活入らない?」


「……は?」


 いきなりファーストネームしかも、脈絡もなく部活ときた。


 ずっとここに来た時から思っていたのだが、星人のコミュニケーションには主語はないのか?


「そもそも、何の部活なんだ? まさか、地球を防衛するとかそんなふざけた部活じゃないよな」


「そのまさかよ、アタシ達地球防衛部は地球を防衛する為に日々活動しているの」


 うん……何言ってるんだろこの人……じゃなくて、この星人。


 この学園からどう地球を防衛し、何と戦うんだよ。


「悪いがそんな部活に入る気はない。じゃあな」


 ドアを開け、振り返ることなく廊下を出た。


 これ以上まともに付き合っていたら、こっちまで電波になってしまいそうだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。アタシの事ランって呼んでもいいから!」


 背後から聞こえる声を無視して廊下を進む。

 

 当然足を止める気も、振り返る気もさらさらない。


「アタシの事をファーストネームで呼べるなんて名誉な事なのよ! だから、えっとその……」


 どうやら前に進む度に声が小さくなっているという事は、追って来てはいないか。


 だが――。


「地球防衛部! 部活棟の三階の一番右端の部室で活動してるから、興味あったらいつでも来て!」


 放課後の誰もいない廊下での彼女の声はよく反響し、耳によく残ったのだった。



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