第11話 兄貴とビーチでバカンス

 どうも、たけしっす。今回は、ナレーションの人が、夏休みっす。だから、変わりに語るっす。


 なんか、不思議そうな顔してるっすね!

 まぁ、慣れて欲しいっす。次回は、ナレーションの人が戻って来るので。

 そんで、今回の企画は寝起きドッキリっす。兄貴に、仕掛けるっす。

 

 あっ、そうだ! 肝心な事を言い忘れてたっす。今は、いつものビルじゃないっす。

 まぁ、タイトルでわかってると思うっすけど、リゾートホテルに来てるっす。スイートルームって言うんすか? なんか、異様に豪華で、落ち着かないっす。

 ただ、問題が有ったっす。


 ちょっと待て! 問題はあんただよ、たけし! なに乗っとってんのさ!

 油断したら、すぐこれだもん! 悪知恵ばっかり、ついちゃてさ!


 誤解っす。良かれと思って。


 何が誤解なのさ! 罰として、あんたの馬鹿さを、暴露するからね!


 なに言ってんすか? やめて欲しいっす!


 駄目! はい、ここからは問答無用で、私が進めます。

 えっと前回は、二人の温かいお話しでした。海のバカンスが決まり、たけしはウキウキと、水着を購入します。


 そして、やって来ました海!

 初めて来た海に、たけしのワクワクは止まりません。直ぐ水着に着替えると、海に向かって走り出します。子供ですね。

 対して忠勝は、付き添いのお父さんって感じです。枯れてますね。


「おい、たけし! あんまり、はしゃぐんじゃねぇ!」

「兄貴、海っす! しょっぱいっす! 波っす!」

「わかったから、カタギの方々に迷惑をかけんな!」

「兄貴、あっちでサーフィンやってるっす〜!」

「あんまり、遠くに行くなよ!」

「だいじょぶっす〜」


 ほんと、忠勝ってば、良いお父さんですね。それにカタギって、自分もカタギの癖に。

 対してたけしは、お子様モード全開です。忠勝の忠告は、耳に入って無いようです。沖に向かって、一直線です。

 そして、少し溜息をついた忠勝が、持って来たビールの缶を開けようとした時の事です。

 

 沖に向かって歩いていると、急に水深が深くなります。体が一瞬にして水面下に沈み、たけしはパニックに陥りました。

 たけしは大量の海水を飲み、かなり苦しそうな表情に変わります。そして、手足をバタバタさせて、懸命に水面へ顔を出そうと試みます。

 死の恐怖とは、こういう事でしょう。


 異変に気付いた忠勝はビール缶を放り、直ぐに海へ向かって駆け出そうとします。しかし、途中で立ち止まると、たけしに声をかけました。


「落ち着け、たけし!」

「あじぎ、だずげで」

「だから、落ち着いて周りを見ろ!」


 必死だったので、周りが見えて無かったのでしょう。また、初めての海だった事も有るのでしょう。

 よく見れば、周囲に居るカップルは、上半身が海面から出ています。水着祭りです。


「足がつくはずだ! だから、落ち着け!」


 そう言われても、初めての海です。たけしは、手足をバタつかせてます。そんなたけしを、見かねたのでしょう。カップルの片割れが手を差し伸べて、たけしを立たせてくれました。


 手が掛かりますね。それ以前に、浮かれ過ぎです。

 良い子の皆さんは、たけしみたいに、浮かれ過ぎ無い様にしましょう。事故に繋がります。


 ナレーションの人、それは言わないで欲しかったっす。


 駄目! それに、あんたは少し注意力を養いなさい! せっかく忠勝が、教えてくれてるのに!


 兄貴には、感謝してるっす。


 そんな忠勝に、ドッキリを仕掛けるの? 馬鹿なの?


 違うっす。兄貴にも、楽しんで欲しいっす。


 はぁ。まぁ良いけどさ、オチが見えるんだよね。


 取り敢えず、話を進めましょう。たけしが、初めて持ち込んだ企画ですしね。

 

 結局たけしは、苦しそうにしながら、忠勝の下に戻って来ます。しかし、たけしの興奮はとどまる事を知りません。

 

「スイカ割りがしたいっす!」

「買ってねぇ!」

「え〜! なら、砂の城を作りたいっす!」

「ガキか! 勝手にやれ!」


 そんなこんなで、溺れかけたのも忘れ、たけしは充実した一日を過ごします。

 一方、忠勝はビーチパラソルの下で、のんびりとしてました。おっさんですね。


 さて、序盤にたけしが言った問題は、忠勝に有ります。多分、忠勝は人間じゃ無いです。人の形をした、野生動物的な何かです。


 正に、野性の勘とでも言うのでしょう。

 些細な物音で目を覚まし、臨戦態勢を取ります。何か気配めいた物を感じ取り、尾行を察する事が出来ます。

 どんな修羅場を潜って来たのでしょうね。きっと、忠勝が熟睡出来るのは、今の自宅だけでしょう。


 そんな忠勝に、寝起きドッキリを仕掛けるなんて、無謀も良い所です。たけしはオバカさんですね。

 

 しかし、最近やたらと調子に乗ってる、たけし君。彼は、小癪な作戦を思い付きました。

 それが、兄貴を酔い潰そう大作戦です。


 もう、オチがわかったから、充分だって? いやいや、こういうのは、過程が大事なんですよ。

 なのでもう少しだけ、たけしの頑張りを見守って下さい。


 とは言えですよ奥さん!

 相手は忠勝です。奴は酒豪らしいです。ある筋では、神と呼ばれているとか。

 日本酒を一合、いわゆる百升を飲み続けても、酔わなかったらしいです。まぁ流石に、誇張し過ぎな気がしますが。

 

 そんな事を知らないたけしは、頑張って忠勝にお酒を勧めます。休暇を楽しんでいるのでしょう、忠勝も勧められるがままに、飲み干していきます。


 しかし、忠勝は幾ら飲んでも潰れません。やがて、たけしは寝落ちします。そして忠勝はたけしを担いで、ベッドにポイッと投げ捨てます。

 まぁ、こんなもんですよ、たけしの作戦なんて。翌朝、たけしが目覚めた時、失敗した事を悔やむんでしょうね。


「なんすか? どうなってるんすか?」


 どうやら忠勝は、一枚も二枚も上手だったようです。


「兄貴。これどうなってるんすか? 動けないっす? なんで?」

「たけし、起きたか。まぁ、落ち着け、それで自分の周りを、よ〜く見ろ!」


 目を覚ますと、まるで漫画の様に、たけしは布団でぐるぐる巻かれ、紐で縛られていました。身動きが取れないたけしは、頭を動かして、周囲を見渡します。

 よく見ると頭の近くに、黒い何かが蠢いています。しかも、一つや二つでは有りません。集団でワサワサと動き、徐々にたけしへ近付いて来ます。


 そして突如! 一斉に羽ばたき、たけしの顔に張り付いた!


「ギィヤ〜! なに、なに、なに? 取って、取って、取って!」

「は〜っはっはっは、はははは、うははははは」

「兄貴、笑ってないで取って! キモイ、キモイ!」

「ウヒャひゃひゃひゃひゃ。い〜ひっひっひっひ」


 たけしは、けたたましい声を上げ、懸命に頭を動かします。そして忠勝は、腹を抱えて笑い転げてます。

 

「あ〜腹痛ぇ。たけし、よく見てみろ。それは、お前の用意したオモチャだ」

「違う、違う! あれは、動かない!」

「そりゃあ、俺が紐で動かしてるからな」

「へっ……?」

 

 冷静になれば、わかることなんでしょう。たけしの顔に張り付いたのは、イタズラグッズです。

 ドッキリ用にたけしが用意した、台所とかに発生する、黒いあいつのオモチャです。本の下とかに置き、退かしたらぎゃ〜ってなるやつです。


 きっと忠勝が仕掛けると、イタズラのグレードが上がるんですね。

 先ず忠勝は、たけしをベッドに放り投げた後、簀巻きにしました。その後、たけしの鞄からオモチャを取り出して、糸を括り付けて枕元に置きます。


 後は、お酒を飲みながら、たけしが起きるのを待ち、糸を引っ張るだけです。

 寝起きで判断力が鈍っていたので、効果てきめんだったんですね。


 ナレーションの人。説明はいいっすか? 満足したっすか?


 うん、一本満足! 


 そういうのは、いいっすから。


 はい、はい。

 

 ったく、やってらんないっすよ。


 そう? 忠勝は、楽しそうだよ。予定とは少し違ったけど、目的は果たせたんじゃないの?


 う〜ん、でも納得はいかないっす。


「これに懲りたら、俺にイタズラなんて、仕掛けんなよ」

「いつかリベンジするっす!」

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