君の最後が記憶となってまた一つとなりますように



「私達が知っておくべきこと?願いを聞き入れるって...どう言うことですか?」


「そんなに難しいことじゃない、順に追って説明してくから落ち着いて。」


 そう言って宙に浮き背中向きの方向に飛んで行くと、一定の距離を保ちながら私の体も宙を飛び始める。


「先に君たち二人が知っておくべき事を話そうか。」


 不思議な空間から一転、辺りが暗くなりその周りには点々と光り輝くものがたくさんある綺麗な眺めで、まるで彼と二人で眺めていた星空の眺めにそっくりだった。


(...綺麗)


 少し手のひらを広げ小さな光の玉を作り、上にやさしく飛ばすと星の約20年ほど前の世界が映し出される。


「君たちはこの星に生きる最後の生存者、そしてさっき僕が君に見せたあの船の様子、あれは君たちが本来は乗る予定だった最後の切手『ノアの方舟』

 君が見たあの家族は、この世界の未来を担っていた星間線観測者アガレリティックスコープ本名 フラネリカ・ミクロス

 そしてその夫、希望の舵取り《ラストレコード》ネナグナル・ミクロス

 本当の君の親だよ、本名さん?」


「えっ...彼らが...私の本当の...親...?」


「うん事実はそうなんだよ、君はBETHの一族と共に生まれ育ち、衛星が落ちてくると分かると、それを伝えるために地上にその足を、実に1200年ぶりにつけたんだ。」


 歴史では後伝されていないほどに昔に空に生活圏を移し、その存在さえも幻想化されていたあの種族が私の仲間たち?しかもあの家族は私の実の親?

 先程から情報量と驚きが頭の理解能力を超え、必死に違うと頭が否定するが、この存在がそう言うのだからそうなのだろう。頭が悲鳴を上げている。


「しかし久しぶりに地上に降りてみると、そこは大きな人類同士の争いの

 後に起きた大災害で、人間の生存圏が約二十%にまで縮小した荒廃寸前の

 現状に近い世界。今ほどではなかったけど、生きるのにはとても苦しい世界だったんだ。」


 この星を出る理由になったのは、これ以上この星に生けていけないと判断したから...BETHの人達は、衛星落下による世界が割れる事象を感知したからそれを伝えに行っただけ...だけどそれは人類が起こした戦争で伝えるのもままならない状態に...やっぱりこんな世の中になったのは自ら人間の手で、自分の世界を壊したから...


「だから君たち一族は人類を救う為、身分を隠して衛星が落ちることを静かに広めていったんだ、存在自体が忘れられているのにいきなりそんな事を急速に伝えたんじゃ、不安定な世の中じゃ何をされるかわかったもんでは無いからね。」


「そうやって、約13年少しずつ人類を纏めて行ったこの集団は、遂に衛星が落下してくると分かり、もうこの星が持続できないとも分かったんだ。だからこそ遂に星を捨てることを決断したんだ、そしてその時期にそこで君が生まれたんだよ。」


「...でも私の家族はそんなに忙しそうにはしてなかったはずだし、私が七歳のころ、旅に出るきっかけとなったのは、両親が死亡して周りに誰もいなかったからなんですけど、あの家族が本当の家族というのならなんで手を差し伸べてくれなかったの?」


 BETHの長を務めていて忙しかったから他の家庭に育児を任せるというのは納得はするけど、何故その時に手を指し伸ばしてくれなかったのだろうか...

 ただ預けるだけだったのなら、仕事の合間にでも顔を見せてくれればいいのに。


「彼らはね、君のためにもわざと合わないようにしていたんじゃないかな、

 当時はBETHの中でも、君の両親と、さっさとこの星から出ていく派閥で別れていたし、意見の対立に溝が少しずつ深まっていって、その命が狙われることも多々あったんだ、決定的に分裂したのは君が旅に出るほんの少し前なんだよ。」


「そこで君の育て親は命を落とし、ナルファ君がよく知っているとは思うけど、

 穏便派の人たちは地下に施設を作り、そこに住居を移したんだ。」


「ね?知ってるでしょ?」


 いったい誰に話しかけているの?彼はもうここにはいないはずだけど...


「...知ってるも何も冒険の目的が地下施設の探索って言っても、違和感がないくらいしてたけど?」


 ...この優しそうでどこか健気な声の持ち主は..一人だけ...まさか...!


「この声は...ナルファさん...?生きて...いたんですか?」


 そういうと、うっすらと私の反対側に輪郭が映り始め、最終的には、あの地震の陥没に落ちた時に最後に見た、淡い恋心を抱いた人が元気な姿で映っている。


「うん、無事...ではなかったけどね、ちゃんと呼吸してるし君の元気な声もちゃんと聞こえている。君こそあの後ちゃんと立ち直れたんだね、よかった。」


「もう、私あの時に死んでしまったとばっかり...元気で...よかった...。」


 好きな人に再び出会えることができた幸せ、もう二度と出会えることのないと思っていた人との再会で、遂に涙袋の限界を越し、とめどなく涙がとどまることを知らぬ川のようにあふれ出てきた


「僕も...また君と会えるなんて思ってもみなかったよ、ああほら、僕まで泣いちゃうじゃないか...」


 ナルファが片手で左目の涙をふき取るが、またその位置に次々と私と同じように

 涙が出てくる。


 感動の再開をした余韻が幾度も私たちの間を通り過ぎ約四分ほど経つと、ナルファが私の近くに寄り、肩に手を置きしゃくりあげる私を宥めてくれる。


「もう、ほんとに私って泣き虫じゃん...さっきも君が死んだことに対する悲しみで泣いたっていうのに、今度は君がそばにいてくれる幸せで押しつぶされそうだよ。」


「感情を表に出すのは、その分君の感情が豊かっていう証明なんだから、我慢せず、泣きたいときに泣いて、笑いたいときに笑えばいいんだよ、それが人間ってやつなんだからさ。」


「うん、君はいつでも優しいね。」


 私はその深い優しさに惹かれたんだよ。


「優しくしたくなるのは、純粋なかわいい君だけさ。」

「!?」


 突然の惚れた人物のかわいい宣言で、シャーミンの顔が熟れたての果実のように赤くなる


「...おっほん、シリアスな雰囲気が一気に冷めたところで、そろそろ二人の世界から戻ってきてもらっていいかな?」


「「あ...」」


 二人口をそろえて、その存在を頭の片隅から除外していた存在を再認識し、二人のの空間が崩壊する。


「あはは...すみません...」



 ナルファは少しばつの悪そうな顔を、シャーミンは自分の初心な姿を見られたことで、恥ずかしさからその熟れたような顔から煙をだしてしまう


「まあ、君たちがお似合いだっていうのは出会った時から僕はわかっていたからそんなに言わないけれど、もう少ししたらちゃんと二人の時間をあげるから、それまで我慢して?」


「「はい...すみません...」」


「そんなに本気で反省はしなくていいよ、もうすぐこの世界は終わるし、楽しんで終わりたいしね。」


「それに、我が儘だけれど、ひと言謝罪を言うぐらいなら、ありがとうの方がうれしいかな。」


 彼はこの世界の調停者として現世に君臨している。彼の普段の楽しみは、自分の作った箱庭で生まれた生き物を幸せにすること。そのため人に謝るということを彼的にはしてほしくもないし、もし何かを言われるとするならば、謝罪の一言よりも『ありがとう』の方がうれしいのだ。そんな人間臭い一面もある。なぜだろう。


「そうですか、じゃあ、ありがとうと言わせてもらいますね。」

「私からも、ありがとうございました。」         


「そうだよ、君たちはまだ幸せを掴んでないんだから、楽しくいかないと。それに君たちが生きている理由も全然話していなかったしね。」


 動かしている足を止め、腕を一杯広げこう言う


「単刀直入に言うね、君たちには生まれ変わって幸せになってほしいんだ。」


 この言葉を聞かされた二人はその言葉の真意を理解できず、頭に疑問符を浮かべ、すこし険しい顔をする


「幸せに?なんでそんなことを...」


「わからなくて当然だよ、説明が曖昧過ぎるし、なんせ僕がどうこう言う問題じゃないから。ただこれだけは言わせて、君たちはずっと僕たちが見守っている、絶対に不幸にさせることはしないから。」


「そう...ですか、そうですねそれなら安心して生きていけます。」


「僕からも、お礼を言わせてください。ほんとにありがとうございます」


「まあ、残りたった数時間の世界だけどね、幸せに生きるのが一番だよ。」


 僕たちの閉ざされた世界でも、こうして誰かはわからないけれど、幸せを願ってくれて、そして将来を案じてくれる人がいるんだ。


 長い探索生活で完全に色あせたいつもの服の袖をめくり、腕時計で残り時間を確認する


『残01:57:32』


「残りも後二時間か...さみしくなるなぁ。」


 残りも二時間を切り、いよいよ終わりが迫っている、だけどおかしいな、まだまだこれからしたいことだって沢山あるのに、実感もわかなきゃこのままでもいいかもっていう自分がいるんだから...


「そうですね...二日ほど前に初めて会いましたがなんかこう、生まれた時からずっと一緒だったかのような...そんな懐かしい感じがします。」


 少し離れていたところからこちら側に近づいて座るよう促す、そして僕が腰を着け手を後ろにつくとその右手に上から重ねるよう手を置く



「っ?」


「ニコッ♪」


 突然のことだったので少し驚き、何を考えてその行動をしたのか聞こうとしたが、その笑顔を向けられ仕方なく肩を下す


 何を考えているかはわからないが、最後くらい好きにはさしてあげたいしこちらもしたい。だからこそこの現状にどうこうするわけでもなく、こちらも笑みを返し、そんな現状を静観するのだった


 そんな空気が流れ、〈この際もう神様ということにしておこう〉その神様も少しの間は僕たちの空気を読んで少しの間は温かい目で僕たちを見ていたが、ふと何かを思い出したのか、顔を上げ目を閉じ少し微笑を浮かべ、幸せそうな顔を見せる。


 静寂に包まれたこの空気を換えたのは、突然はっと何かを思い出したように目を開けたその人だった。


「...そういえば君たちの未来について話すのを忘れていたね。」


 そういうと幸せそうな顔を奥にしまい、真剣な顔をつくる


「もし、まだ生きれることができるっていうことを君たちにしてあげることができるとしたら、君たちはどんなことをしたいと願う?」


「....」


 僕が回答に困っているとシャーミンがはっきりと自分のしたいことを言う。


「私は、次はちゃんとこんな生活ではなく、家族に囲まれてそのまま年を、愛する人と共に過ごしていたいです。」


 そういいナルファのほうにちらっと顔を向け頬を少し朱に染める


「君はどうしたいんだい?」


 幸せな人生を送る...か、僕は今の人生でも楽しみを見つけるよう必死に生きてきた

 その分、今自分が不幸せとか、恵まれていないというのはあまり考えてこなかった...


 そんな考えが頭を廻り、これもいいかもと思うと、それはそれで同じじゃないかという考えにまた思考を重ねる

 

「...けっこう悩んでいるようだね。」


 それはそうだ、シャーミンほどの一途さを僕は持ち合わしているわけではないし、願うことだって一つ一つちゃんと重みがあるんだ、すぐには決めれるわけがない。


「そこまで考えるということは、願いをただ何にするか迷っているというわけではなさそうだね。僕が言う立場ではなさそうなことだけど、そんなに悩む必要はないんじゃないかな。」


「悩む必要がないというのは?」


「たしかに君の思うように、願い事というのは、その時点で人の欲しいもの、そんなことを前提として考えられるものだよ。

 だけど人っていうのは、只ほしいものを願うだけじゃない、そのもので何かをしたい、成し遂げてみたいとかそんな二次的な願いが含まれているんだと思うんだ。」


「そう...ですね。」


 アドバイスをもとに少し考えを改めてみる


 僕が願っているのはただ、急な変動のないただ幸せに生きる事、本当にただそれだけだ。そこに深い意味もないのだがこの人はあるといった、もう少し考えてみる。


「...そうですね、だったら僕は、新しい世界でまた二人で一緒に歩むって事だけかな...」


「そうか、深い意味は詮索する必要が...なさそうだね。」


 ナルファが生き返った後の世界で何をしたいかを話すと、その内容の意味を理解したのかシャーミンが幸せそうな顔で満面の花を咲かせる


「うれしいです...私の気持ち、気づいてたんですか?」


「まあね、ほんの二日間だけだったけど、楽しい道中だったしさ、これからも遺書の道を歩けたら楽しいだろうなって。」


「そうですか、私もそうだったらいいなって思ってました...ありがとうございます..。」


 目頭にすこし涙を浮かべ心の底から嬉しそうな、それでいてどこかはかなげなそんな顔を浮かべる


「じゃあ僕はいったんこの辺で退席するね、あとは二人で残りの時間を過ごしてね。」


 そう言い残し、姿を消すと同時に現実世界に戻ってくる。


「これって、あの時に見えていたタワーですかね?」


 転移してきた場所は、二人が最後に星を眺めていた場所から目視できていた

 この都市の中で一番高い建物だ。そして今はそのふもとに僕たちはいる。


 中に入ると地面のコンクリートを破って雑草以外にも所々花が咲いている。

 中は退廃が進んでいるというのに、先ほど見ただけでは、他の建設物に比べ

 壊れていない。この街のシンボルとして、新品と遜色ないぐらいだ。


 そして今僕たちはその中央にあるガラス張りのエレベーターに乗り、屋上展望台に向かっているところだ。


「見てください!凄い眺めですよ!」


 ドアと逆の方向は外側に向いており、この建物自身も強化ガラスか何かなので、中からこの街を一望できるようになっている


「確かにこうしてみるとすごい眺めだな... 」


「私たちずっとここまで歩いてきましたもんね、地平線の先まで見えますけど、本当に長い距離旅してきたんだなーって。」


 こう眺めを見ているといろいろと感慨深いものがある、シャーミンが言ったように今まで僕たちが歩いてきた軌跡、その道中で出会った沢山のもの、そんなあれこれが、今この場で起こっているように鮮明に思い出せる。


 そんな思い出に浸ること一分


「ポン、七十八階...七十八階」


「お、着いたよ。」


「展望台ですか...景色なら見えましたしもういい気がします。」


「それなら、もう最後なんだしちょっと悪いことしてみよか。」


「悪いことって?」


「絶対こんなところは従業員用とかの秘密通路とかがここの屋上とかにつながっているはずだよ...ほらあそこ。」


 従業員専用のドアを見つけ、錠前が腐っていないことを確認すると、ドアを開け内部に入っていく


 中は螺旋階段になっており、上方向に向かってひたすらに登っていく。


「はぁ...はぁ、まだ...ですか?」


 約十分登り続け、足の限界が近づくころ


「お、やっと着いたよ百階。」


 屋上にたどり着いた。

 ドアを開き外に出ると、風が強く吹いた。シャーミンはドア近くに寝そべり足の限界を訴え、僕は建物の隅にまで出来るだけ近づき下に広がる世界を眺める。

 幸いフェンスで守られているので、万が一落ちるということもない。




 ----------------------




 時間は過ぎ時刻は夕暮れ時、登っていた時の風は鳴りを静め、静かな時間が流れるころ、蜜柑色の空が露草色の景色に代わり、空間を静寂がやさしく包み込む。

 僕とナルファは、先ほどの位置から中央に移動し腰を落ち着けているところだ。


「なんでしょうかあの鳥。」


 風景を呆然と眺めていた彼女が視線を下から上にあげ、先ほどから飛び始めた鳥を眺める。


「なんだろうね、この近くでは生き物はいなかったような気がするんだけど...」


 そう思うと、その鳥たちは手のひらより少し大きい羽根を舞い落しながら僕たちのはるか上を通り過ぎる。


 綺麗だ....



 そう思ったのは僕だけではなく、彼女自身もそんな風景を眺め言葉を失っているようだ。


「なんか、しんしんと降る雪みたいな綺麗さですね。」


「ああ、見たことはないけど昔からずっと見ていて、なつかしいような感じがする...」


「...こうして最後を二人だけで過ごしていますけど、ナルファさんって、

 この時間一緒に過ごしていたい相手いますか?」


「そう...だね、僕は。」


 確かに、こんな幻想的な最期を僕たちは迎えているけれど、こんな時間は一緒にいてほしい人と過ごしたいにきまっているじゃん、それだと答えは一つだけだ


「僕は、君と最後を過ごしたいかな。」


 君のそのいつまでも絶えない白花のように美しくて、楽しそうな姿をいつまでも見ていたい。


「~っっっ!!。」


「はは、悪かったかな?」


 僕がそう言うと、口を閉じ首を激しく横に振る


「うれしい...です、私も君と最後までいたいって...思っていたから。」


「そっか、両思いだったなんてね、ちょっと照れるな。」


「ナルファさんも私のことが、す、好きだったんですか?」


「この時を一緒に過ごすなら全然悪くない相手だよ、そう...だね、好きなのかな。」


 すこしはにかみながら、照れている横顔をみせる


「わ、私もナルファさんとなら、これからもずっと過ごしていたいです。」


 露草色の景色と相反するように顔を赤く染め、恥ずかしそうに手をもじもじさせる


 彼女はそういうと恥ずかしながらも体をこちら側に寄せ、体重をナルファに預ける

 久しぶりに何処かで隕石が落下する音が鳴り響き、体を反応させる。


「もう、いいところだったのに...」


「別にしたいなら、今からでももたれかかっていいよ、僕もしてくれるとうれしいかなって。」


「それならお言葉に甘えて...」


 再度僕の左肩に体重を預ける


「♪」


『残00:29:01』


 時計の針が半時を切るころ、先ほどの鳥が落とした羽根が足元にいとつ落ちてきた


「さっきのやつの羽か...結局なんでさっき突然、姿を現したのかな?」


「なんででしょうかね、あ、そういえばさっきあの人との会話上で、ミクロスパーツっていう物の説明してたじゃないですか、それのことで何か詳しいことって知らないんです?」


 ミクロスパーツ...さっきあの神様が

「星が終わるときにどこからか飛来してくるもの」

 と言っていた謎の物質。確かにどこかで見たことのあるような気がする。


「詳しいことは知らないけれど、どこかで見たことのあるような見た目してるんだよ。比較的ほんとに最近見たような...。」


「知らないのならいいですよ?そんなことより空見てくださいよ、星がいつもより増えて見えますよ!ほら、流星だって!」


「本当だ!凄い...。」


 空を眺めてみると彼女が興奮する理由がよくわかる、普段の空模様でも星の光が燦燦ときらめいているのだが、今日は一段と空が輝いており、夜だというのに十分周りが見渡せるほど明るかった、そして、普段は流れることのない流星がその空をさらにデコレーションしている。


 そんな眺めに見とれていた僕は、いつの間にか彼女の手を掴んで、こういっていた。


 次の世界でも、一緒に、僕と一緒に生きてくれますか?と。


 そんな僕の言葉を聞いた彼女は感極まったのか僕を抱きしめてきた


「...はい、もちろん喜んで!」


 だんだん最後になればなるほど、言葉の勢いが増えていき最後にはうれしさで泣き出してしまった。


 そんな彼女に僕はあの地下施設から持ってきた一輪の花を手渡す


「これは?」


「これはスミレだよ、君にはピッタリかなって。」


 スミレの花言葉は、小さな幸せ。


「大切にします...私が消えたとしても、ずっと、この花を手放しはしません。」


 体から絶対に手放さないよう胸元に強く押し付ける...


『残00:13:56』



 ナルファがシャーミンに花を渡しプロポーズをした後、彼女がナルファをフェンスの近くまで誘い、隣に来た瞬間に手を組み合わせて繋ぐ。いわゆる恋人つなぎというやつだ。



「ナルファさんは違う世界に生まれ変わるとしたら、どんな世界に行きたいですか?」


「僕は、シャーミンと生きることができたらどこででも生きていけるかな、それこそまたこんな世界でもいい。」


 真面目な顔をしているが、どこか幸せそうな顔を左側にいるシャーミンに向ける


「そうですね、私も君となら楽しく過ごせそうです...あ、でも私はこの世界はごめんですよ?」


「そうかな、僕は探検できるからいいんだけど。」


「それは男の子だけですよ、私この年でもちゃんと女の子なんですから、平和にくらしたいんですっ。」


「そんなもんなのかな?」


「私はそう思っていますよ?」


 そういい、ナルファの顔を見つめ返し微笑む、ナルファもその笑顔に感化され笑顔を返す。


 そうか、さっきから何度も思うけれど、この世界とも残り15分でお別れか...


 そう思い、物思いにふけ今まで自分たちがいた場所に目をむけると、地上の色が薄れ始めモノクロの世界に近いていることが分かる。シャーミン自身も地上観察をしていたため、それに気づいたようだ。


「最後ですね...ってナルファさんの手、なんか光ってませんか?」


「光ってるって...ほんとだ...」


 そう言われ自分の手を見てみると、指から先が少しづつ光始めその先を眺めていると小さい光となって空に昇って行っていた


「この星の終わりっていうのは、隕石もそうですけど、この星という記憶そのもののデータが消去されるかのようで、なんか自分たちのことも消えていくようなそんな気がします...」


「ほんとにね、あの人は僕たちの未来があるっていうのは保証していたけど、それは記憶をそのままにしているわけじゃないし、シャーミンのこともこの世界のこともすべて忘れて、新しい生を受けるということだから...さみしくなるね。」


「...それじゃあナルファさん、絵、書きません?」


「何故いきなり?」


「ほらさっき説明したじゃないですか、私が絵をかくのって『ここに私はいたよ』って残すためだって。」


「そういえばそうだったね、じゃあ僕も書いてみようかな。」


 ナルファの人生初めてで最期となる絵、それはヘンテコで、かろうじてわかるのは人と人が手をつないで笑っている絵、それでどこか懐かしむようなそんな絵だった。


「あははっ!なんですかその絵っ!」


 ナルファの描いた絵を見て腹を抱える、あまりにも予想以上に下手すぎるので驚きのベクトルの方が多いのだが


「仕方ないだろ?ほんとに初めて書いたんだから。」


「そういえばそうでしたね、はーっ、やっと落ち着きました。」


「シャーミンが絵をかたくなに見せない理由わかった、これは確かに他人には見せたくない。」


『残00:02:59』


「もう残りも二分か...さよならだな。」


「私...まだナルファさんとまだ一緒にいたい...です。」


 我慢しようと涙をこらえていたが、彼との別れを想像し涙があふれ出てくる。


「ああ、僕もできればまだ君と過ごしていたいよ。」


「ナルファさん泣いてるの?ひぐっ。」


「ああ...君との別れが惜しくてそりゃ泣いちゃうよ...」


 僕もさすがに耐えきれない、この時計で自分の死期が分かっているっていうのに、なんでこんなに悲しくなるんだ。

 ああ、そうかこれはきっと、未練があるからか...

 いつの間にかシャーミンの背中に腕を回し強く抱きしめていた。


「ナルファ...さん?」


「まだ...君と別れたくない...」


「...私もです。」


「まだ...君と...時間を共有していたい。」


「...私もです。」


 どんどん自分の声に力が入っていき、それと比例するように、彼女を抱きしめる力も強くなっていく。


「君と一緒に人生を歩んでいきたい!」


「...っ私もです!」


 シャーミンの腕にもナルファに負けないくらい強く抱きしめる。


 そうすること約十秒、世界が星の記憶となっていき、見渡せばこのビルの空は

 個の屋上を起点とするようにその記憶達が円を描いてまるでこの場所が世界の中心のような幻想的な風景を作り出していた


『残00:00:42』


「もう...腕も無くなっちゃいましたね。」


「ああ、ほら残り42秒この時計を拾った時は、あんなに時間があるって思っていたのに不思議だよ。心の底から別れたくないって思ってるってことかな。」


「ナルファさん、いまは抱きしめることできないけど...目をつぶって少しかがんでもらっていいですか?」


「なんで?」


「いいから...」


「...分かった。」


 そういい、腰を少し下げ彼女が指示したとおり、目線と会うように少しかがむ


「これが今私があなたにして上げれる精一杯です。」


 そういい、ナルファに小さく、そしておもいのこもったキスをする。


「~っ!?」


 いきなりの行為にナルファは顔を朱色に染める


「てへっ。」


「驚いたな、最後だからってそこまでするかな...。」


「そこまでって言っても私はナルファさんが好きだから、そんなことをするんですよ?」


「...うんそっか、最後だし何でもいいや、今だから言うよ。僕をそんな風に思ってくれてうれしい。ありがとう。」


「...はい...お別れですけどね、私もあなたのような人にあえてうれしかったです。また会えるといいですね。」


『残00:00:07』


地表のモノクロの世界が小さな記億となって、空に駆けていく。


「泣いてるのかい?」


「だって最後のお別れなんですもん、泣かない方が...おかしいですぉ...」


「僕は最後だからこそ、笑っていたいかな。」


『残00:00:05』


二人が立っている場所も光に包まれ、それ以外はもう何も残っていない。


「ナルファさん...」


「ん?どうした?」


「最後にもう一回だけ...」


「わかった。」


 そしてまた二人は唇を重ねる


『残00:00:02』


露草色の空は消え、残るはあと二人だけの空間


「さようなら、ナルファさん、私の最後に愛した優しい人」


『残00:00:01』


「さようなら、シャーミン、最後まで笑顔の絶えない僕の愛した人」


『残00:00:00』


「「君の記憶に残る最後の一輪となりますように。」」



もう言葉は届かないが、心で思いっきり叫ぶ。


「またどこかで出会えるといいね。」


「またどこかで出会えますように。」


「「さようなら私の愛した人。」」


そういって、この世界は小さなそして大きな二つ光の粒と記憶ともに、旅経って行ったのだった。





-----------------------



「終わったよ...ついに終わったんだよ、見ているかい?君の世界だ、君の愛した世界だよ

フルークグランツ、忘れないでいてね。」


その誰かに向けた声も星となり記憶となって巡り巡ってくる。


「じゃあ僕もそっちに向かうことにするよ、でも大切な最後の仕事が残ってるんだ、あの二人を幸せにする仕事がね。ほんの少しだけ待ってくれるかい?」


そういってはるか昔から、幾度も出会いと別れを繰り返した二人は、遂に約束された幸せとともに産声を上げ、またどこかに楽しそうな笑い声を二人で響かせていくのだった。


そしてまた、記憶は巡り巡ってまた自分のもとに帰ってくる。


幸せそうな男の子と幸せそうな女の子が笑って手をつないでいる絵のように...

                                   fin...

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終末の記録に花を添えて 羅船未草 @9273403

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