あの人との約束


「...ここは一体……。」


 目が覚めると、船と言うと語弊があるが、それにほど近い乗り物で雲の上を走っている物の甲板上に立っていた。


 不思議だ...感覚は感じるのに物には触れられない。


 足元や付近の家具らしき物に触れようとするが、体が透き通ってしまう。

 そう思う自分も自分でない感じがするし...、夢にしてはあまりにも現実的すぎる。



「おとうさーん!おかあさーん!」


 駆け足で、船上デッキの手摺りにもたれかかり談笑している父親と母親と思われる人物の胸元にジャンプで飛び込む子供がいる。見た目は6,7歳...ぐらいだろうか。


 あれは....だれだ、私が見てきた中でこんな人物は見たことがない。それにしてもなぜ私はこんなものを見ているのか...。

 兎に角、会話を聞いてヒントになりそうなモノを探そう。


「おおミーシャ!起きたか、今日も元気いっぱいだな!」

「うん!最近はずっと家族で一緒にいられるもん!」

「そうかそうか!うちの娘は変わらず可愛いな。」


 そういい、これ以上なく幸せな顔をしながら、その武骨な手でミーシャと呼ばれていた子の髪の毛をクシャクシャとする。


「おはようミーシャ、今日は怖い夢見なかった?」

「うん!最近は、おかあさんやおとうさんが家にいてくれるから、こわい夢は見なくなってね!そのかわり今日はね、家族みんなでお花畑のまんなかで、一杯笑ってた夢を見てたんだ!」

「そうだったのねよかった、あなたは普段は元気だけれど、もともと少し怖がりな部分があるから…、その一言で私も安心したわ。」


 心配そうな顔でその子の顔をなぞる母親普段は夫婦共々総司令部で監督をしている、そのせいで、あまり普段は二人の面倒を他の親に世話をしてもらうしかないのだ。


 別にその世話を焼いてもらっている人が問題を抱えているとか、子供関係に亀裂が入っているとかは全くないのだが。とは言えこれでも二児の親なのだ、

 自分が仕事で子供に手が付けられない時には、年齢が年齢なので、時々二人の子供が気になって、仕事も少し疎かになるのを仕方ない事だろう。


 私は立っていた場所から離れ、一先ず見渡せる範囲のところを探索しようと

 移動を始めたが、特別な障壁でも貼っているのだろうか屋外で移動しているというのに風を切る音が全く聞こえず、その風自体もそよ風が吹く程度になっている。

 そして、なぜかあの家族から距離をとったとしても目の前で会話しているかのように、音が減衰して聞こえなくなるというのがない。



「ピピッピピっ」


「.......ちょっと三人で楽しんでいてくれ、また進路先についての相談だ。」

「分かったわ、でも長くしないでね?折角の楽しみが半減しちゃうから。」

「ええー、おとうさんまた行っちゃうの?」

「ごめんな、船の進路上にレーダーで判別できない物体があるんだ、すぐに戻ってくるから。」

「うん、分かった、すぐ戻ってきてね。」

「分かってるよ。」


 そう言い、お父さんの腰から手を離すと、駆け足で上の階に登っていってしまう、お母さんも髪を後ろに流しながら、その後ろ姿を同情の目で眺めている。


 可哀そうに、折角の楽しみにしていたのにね...


「本当だよね、ちゃんと仕事を終わらしてからやればいいのに。」

「!?」



 少しぼわっとしていた意識が覚め、声が聞こえた左を向くと、そこには宙にうつ伏せながらあの親子を観察している、14歳ぐらいの見た目をした、右目は蒼、左目は翠のオッドアイの少年がいた。


「おっと、ごめんね驚かせちゃったかな?」

「...誰ですか。」

「おっとそんなに身構えなくても、危害を加えるつもりはないから。」

「...だから誰なんです?」

「おっと次は距離まで取っちゃったか、そんなにボクって不審者っぽく見える?」

「...」


 いきなり話しかけてきて、そして明らかに人ではないナニカなのだ、少しは警戒心を抱くのが普通だろう。


「うんうん、当たり前みたいな顔をしてるね。」

「...なぜ行けるって思ったんです?」

「ほら、君たち、こんな世界で生きているじゃん?だから、突然不思議な現象が起こったとしても多少は耐性があるかと思って。」

「こんな夢心地な世界につれてきて、よくそんなこと言えましたね。」


 ナニカからいったん目をそらし、自分の周りに目を配る。


 さっきは気づかなかったが、よく見ると雪らしきものが降っている。


「お、それに気が付いたか。」

「これは?」


 そういうと、落ちてきたそれをつまみ空の明かりに照らす。


「これはね、正式名称はミクロスパーツ《星の記憶》という名前で、星の最後が近づいているときに何処からか飛来してくるものなんだ、ここの人たちは[スターダスト]って呼んでたね、でもおかしいな、本当は今頃に落ちてくるはずだったんだけど。」


そういいそのまま思案するような表情を見せる。


「ミクロスパーツ...。」

「もうすぐこの世界も終わるっていうのは、君もわかっていると思うけどね、そういえばあの男性はどこに行ったんだい?」


 あの男性?あぁナルファさんのことか...折角心の奥にしまったというのに、思い出してしまった...


「あれ、泣いてるのかい?」

「うっ...」

「そうか、やっぱり忘れられないんだね。」


 といいうずくまっている私の背中をさすってくれる。


 そんな感じで、五分ほどすると私の気持ちも落ち着き、安静を取り戻したが涙腺が少し赤くはれてしまった。

 深呼吸をし、しゃくりあがるのが収まり少し気を紛らわせるためあの家族の動向を追っていると、横で浮いている人型のコレが何なのか聞いていたのを思い出した。


「そういえば、あなたのことを聞いていませんでしたね、名前とかってあるんです?」

「うーん、何ていえばいいのかな、ここでは「スプリル《sprl》」と名乗っておこうかな。」


 空中に光の線でそうなぞり、名乗ってきた。


「 スプリル《sprl》ですか、やっぱり人ではないんですね。」

「まあね、いつもだったらこんなことはしないんだけど、今回は珍しく文明がちゃんと一定のところまで発展したし、しかも君たちみたいに不思議に生き残っている人類がいるっていうのは想定外だったからさ。」


 名前からして多分コレはこの星の管理者の類なのだろう、そう許容すると先ほどまでの発言すべてがすんなり収まる。それにしても抜けているところが多い気がするけど。


 あの家族が、移動し終わりついてみると、そこはこの箱舟の公園の役目を果たしているだろう広場だった。そこにはあの家族以外にも、お年寄りの方や、同年代の子供たち、そしてその保護者達が楽しそうに過ごしていた。


「じゃあ、いつもの子たちと遊んでくるねー。」

「うん行ってらっしゃい、ケガしないように、時間は守ってね。」

「うん!」


 そう満面の笑みで理解を示すと、駆け足で遊具の周りに群がっている似たような容姿の子供たちのもとに駆けて行く。


「あの子たち、毎日こんな生活を続けているんですか?」

「まあね、ここ何世代かはずっとさまよい続けてるからね。」

「...何故こんなことに。」


 私はずっと生まれてきてから必死に生きていただけ、だけどこの人たちみたいに目的はわからず、本当に変わらない生活を続けるだけというのも...。

 私は...いったい何を目的に生きていた?


「生きる意味か、考えたこともなかったな。」


 sprl はそういうと、地面に降り立ち尻を着け、変わりゆく空模様を眺めながらこう言った。


「...僕が思うことは、生きる意味、目的なんてなくても、楽しいと思える出来事、記憶が一つさえあれば、希望がなくてもあれば最後まで生きとし生けるものすべてが、幸せだと思うんだ。」

「そうですか...。」


 私の生きる意味って何だろう、一番私が欲しいもの...それは...


「おっと長話しすぎたね、そろそろ本題に移るとしよう。」


 彼がそう言い手を合わせると、先ほどまでの景色が一気に無くなり、辺り真っ白な空間に移動したと思えば、瞬きするほどに少し薄い色の部屋になった。


「またいきなり移動させて、何か一言入れてもらわないと、さすがに心の準備が整いませんよ。」

「そうだね、次からは気を付けるよ。」


 合わしている手を戻し、すこしばつの悪そうな顔をして反省している顔色をする。


「ここは何ていう場所なんですか?」

「ここは特になんていう場所ではないんだけど、一応説明するにはここが一番環境的にはいいからね。」


 そういうと指を鳴らす、すると辺り一面に映像が流れる、少し眺めていると星の記録を再生しているようだ。


「僕がきみに会いに来たのは、この星が終わる前に星について知っておくべきこと、そしてきみたちふたりが、これからどうしたいかの願いを聞き届けるためだ。」





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ナルファ視点





中に入ると、そこには中央に昇降装置、そして左手には強化ガラスに守られた、機械たちや、フラネリカの大切にしていたであろう仲間たちとの写真集が飾られており、残りは大型の再生機器、謎の物質が入った保存瓶、そしてまた書棚、その近くに菫の花が群生していた。


中に入っているカードはここにも対応していたようだ、入り口の右手にある挿入口にはめ込むと、ガラスが収納され手に取れるようになった。


「仲間のことを誰よりも大切に思っていたんだな...。」


写真集を手に取り、一つ一つ幸せそうに仲間と撮った写真全てで一緒に笑いあっているものが沢山ある。


本を閉じ元の場所に静かに置く。折角の大切な記憶なんだ、絶対に僕たちが犯してはいけないんだよ。


「さてと、やっとこれの確認ができる..。」


バックからずっと中身が確認したかった情報端末を取り出す。そして再生機器の下部にセットする。するとロードが始まったのか不可思議な音を立て始め、画面がザーッと流れ始める。

少しほど待つと、画面が再生をはじめる。


「.....えーー、これより最終フェーズ、11に入る、この計画の最終目的はこの惑星の生存時間を観測、そしてもし、それが観測できた場合、それに対応する時計の製作、そしてスターダストの飛来理由の模索が目的である。」


六角形の机が映し出され、正面に映し出された男がそう宣言すると、奥に控えていた側付きが七色に光る幾何学模様の形をした、雪の詰まった瓶をその前に置く。


恐らくこれがスターダストとやらなのだろう、今まで僕が見たことのない物質なのは確かだ、裏手から持ってきたと言うことはあそこで厳重に保管していたんだろう。


「初めて見ましたね...昔、この星に降り落ちたときはいつ頃だったか残っているでしょうか。」

「いつ頃だったかというのは定かではないが、その頃に書かれたであろう書記なら残っている、後で確認しておいてくれ。」

「承知しました。」


そういうと、向かいに座る人物と、その話しかけた人物が席を立ち部屋を出ていく。


「残りで質問等がある人はいるか?」


そういうと二つ左の白衣を着た人物が手を上げ、話始める。


「コロナルさんはどうするおつもりなんですか..._」

「どうする、とは?」

「もし、スターダストの研究結果が我々人類たちの安寧を脅かす存在と分かったら、の話です。」


そう白衣の男が問いかけると、手も組み少し思案し唇を動かす。


「表向きだけの話をする場合、先ほどな発言の通りただそれに対処し、皆の未来を守るため行動するのみだが...正直に言わせてもらえば、ただ一人の人間として何も知らずただ家族と幸せに生きていたい。」

「...そうですか。」


今までに幾度もこの会合を開き、その都度仕事人として「皆の命を守る行動をとる。」などの発言をしていた彼が、初めて仲間たちに見せる本音にここにいる誰もが口を閉じ、その誰もが自分を心配してくれる人物を思い出し静寂が訪れる。


これを見ていたナルファも同様に、普段はあまり思い出さない少年期の周りにいた家族友人を思い出し、心が熱くなるのを感じる。


そうか慣れていたつもりでいたけれど、僕自身もどこかでは、また昔のようにただ幸せに生きるのを望んでいたのか...


「...縺翫い、聞こえるかい?」

「え?」


映像が切り替わり、内容がスターダストの研究の様子を映し出すようになったころ、右側から声が聞こえ振り向くと、14歳ぐらいの見た目をした、左目は蒼、右目目は翠の、オッドアイの少年がいた。


「おっと、こっちはそんな驚かないんだね。」

「まあ不思議がりはしますがね、そんなことよりさっさと要件を言ってください、今このタイミングで出てきたってことは何か理由があるんですよね?」

「そうだね、話が早くて助かるよ。」


そういうと周り一帯が暗くなり、何かの情報を示した触れられないパネルが周りを囲むように表示された。


「今君がいるところは中央都市総司令部、通称ミクロスだね。」


表示されたパネルの赤く表示されている場所を示しながら、ここの説明を始める。この人によれば、ここはこの世界の崩壊の原因となった天変地異の原因究明、そして、人類が生き延びるためのすべを研究するところの集合地点であり、ここら辺りがまだ生存圏として機能していたころ、最後の砦として大切に、かつ、この星の心臓として、大切にされていたらしい。


「...さてここまで話してすることも時間も無くなってきたね、君はこれから残りの時間をどう過ごしたいんだい?」


「僕は...この星に生まれた意味を最後まで探して、来世に続くよう消えてなくなる運命から必死に抗ってみようと思います。」


「そうか、じゃあ僕は最後の時まで君たちから目を離さないようにしておくよ。最後のひと踏ん張りだ、残った約8時間で、人間の幸せってやつ掴んで見せてよ。」


そういい、どこからともなく吹いた風と共に姿を消す。


「ああ、絶対に最後まで希望の灯を灯し続けてやる!。」


うん、その調子だ、君には幸せになってもらわないとを果たせないからね、最後に生き残った君たちへのプレゼントはもう用意したよ、あとは掴んでみせるだけだ、応援しているよ。

いつまでも。


「残03:17:26」

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