終末に向けて

二人で写真を撮った後、ドームから出発し大通りを歩いていた。

先程までいた所よりかは、建物の高さが幾分か増え、その数が減った様な体感だ。

その分移動ペースが上がり、寄り道ができる程、時間を持て余す余裕ができる。

そして夕方の時刻となり、夕陽が空を照らす頃、

最近は見ることがあまり無かった、空の橙色と群青色のグラデーションが見ることが出来た。


「なんか落ち着きますね。」

シャーミンが足を止め、空を見上げながら感嘆した様な声で言う。


「まあそうだろうな……。」

僕自身も空を見上げ、一息つくと、未だ就寝の時間ではないというのに、

ここ最近の疲れがどっと押し寄せてくる、普段は決して、

気を張っているとは感じていなかったが、何処かで少しづつ心を摩耗していたのだろう。

「僕自身今こうやって空を見ていると、疲れが襲ってくると言うか、体が重くなった様な感覚に襲われているんだ、君は?」


「私はそんなには感じていませんね、多分ですが気の持ちようか、精神的な耐性だと思います。」

と言い横目でこちらを向く。


「ナルファさんは多分、その時計を入手していた時から、色々と考えていたんだと思います。だって私達……なのかは分かりませんが、嫌な事や、考えたくない事というのは、人間いつの間にか忘れた様に、心の中にしまっていくものだからです。本当はナルファさんも、考えるのをやめた様で未だに何処かで考えてるのかもしれませんね。」


目を瞑りながら何か考え事をした後これからについて問う。

「それで、これからの進路はどうするんです?」


「そうだなぁ、特にいきたい所も無いし、行くとしたらあの展望台かな?」

月が登り始めている方向を指差す。


「展望台ですか、そう言えばこの辺りの景色も身長での高さでしか

見てませんし行ってみましょうか。」


彼女はそう言い、立ち上が…

「…ゴ…ゴ…ゴゴ…ゴゴゴゴゴz、」

「「!?」」

ろうとするが、何処からともなく地面が揺れ、近くの建物達が軋り始め、益々揺れは大きくなっていった。


愈々立ち上がろうとしても、揺れが強すぎるせいで立ち上がれなくなり、

シャーミンに関してはさっき立っていたせいで、前に倒れようとするが、

僕が咄嗟にバックを投げ、何とか顔から落ちることは免れた。


仕方なく立ち上がる事をやめ、這う姿勢になり出来るだけ損傷を避けようと

努力する事約一分、漸く揺れが収まり、辺りを見渡す。


薄暗くだが周りを見渡すと、先程まで周りに比べ、頑丈に建っていたビルさえも倒壊し、辺りは平坦な地形となってしまった。


「ビキビキビキ!」

「!」

「今度は何!」

そうやって物音を立て、ヒビが入り始めたのは、


』だった。


「逃げろ!」


咄嗟に声を出し、その場から離れようとするが、時すでに遅し。

地面はもう前方までヒビが入ってしまっており、辺りはもう直ぐにでも崩れてしまいそうだが、唯一左側だけが比較的安全そうだ。

僕はシャーミンに肩をぶつけそこに倒れさせ、一緒に倒れようとするが、


「ボガァ!」

遂に足元が崩れ、僕はそのまま落ちるしか無かった。シャーミンが手を伸ばしてくれるが、もう遅い。


「……ああ、遂に人生も終わりか、最後に一つの命を助けれてよかった……、でもあの情報デバイスの中身を確認できなかったな……。」

そうやって僕の意識は途切れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ナルファさん!!」


私が地面に倒れると、彼の足元が一気に崩落しそのまま落ちていく。

反射的に直ぐ様腕を伸ばすが、もう届かない位置にまで行ってしまった。

そして幾刻間、崩れた穴を見つめるが、砂埃が晴れたとしても、

穴の底を見通すことが出来なかった、恐らく彼はもう……。


そばにいた人を、二人も失くしてしまった現実を受け切れず、

心身崩壊状態になる。


「もう、嫌だよ……。」

流石に心の許容範囲を超え、涙腺が崩壊したかの様に、泣き始めてしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「………。ここは一体…。」

そう声に出そうとするが聴こえない。


「ああそうか、さっきシャーミンを落ちるのを阻止して、

それで僕は落ちてしまったのか。」

体感でも少し長い時間落下し続けていたので、もうこれでは助からないだろう。


「いや〜、これが助かっちゃうんだな〜。」

聞いたこともない様な声が、頭に響く様な気がする。


「いやそんなはずは無い、高所から落ちてしまったんだ、死なないわけがないだろ。」

そう思っていると意識も朦朧としてきた。


「おっと、それは少しまずいかな、少し手助けするけど後は頑張ってねー。

この後、君がどんな経験をしてここに来るのか、楽しみにしてるからさ!。」


そう言い残し、体が浮いてくる様な感覚に嫌気がさし、意識を手放すと、


目を覚ました。


「…ううっ!」

いきなり体から迫り上がる様な気持ち悪い感覚に襲われた。


「早く、岸へ…!」

何とか体を使って水を漕ぎ、陸部分に着くことが出来た。


「う……ぼはぁ!げほ!ごほ!」

体から大量の水が出てくる。

意識を失っていたときに飲んでしまっていたのだろう。」

幾度か水を吐き出し、何とか状態を元に戻した後、いったいこの場所が何処なのか確認する。


僕が浮かんでいた水槽は水深十メートル程で、二十平方メートル程の広さがある如何考えても、何かの実験施設用プールだった。


幸運なことに自分のバックは、高さ5メートルほどのところに肩掛けの部分は片方が破け、布の真ん中に切れ込みが入っている。ゆっくりと壁を伝い、入手する。

中身は無事だ。他にも、何処かに繋がっていそうな通り口がある。


細心の注意を払いながら僕はその中に足を踏み入れる。


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