残64:10:28
朝、目が覚めると右肩に少し重さを感じた、目だけを動かして確認してみると、
肩にもたれかかった彼女が、気持ちよさそうな顔で寝息を立てていた。
一々、荷物を除けてまで、隣に来るくらいなのだから、多少の気は聞かせよう。
そう思い再び、いつ振りかの二度寝というものをした。
普段は食料や装備品の整備などをするが、偶にはゆっくり過ごすのもいいかもしれない。
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「........うーんこんなに寝たのいつ振りだろ。」
ナルファが再び夢の世界に旅立ってから、約30分後にシャーミンは目を覚ました。
彼女が旅という旅を始めたのは約十年ほど前の話だ、
その時までは2個下の弟がいたのだが、ある日、一夜を明かした場所の柱が崩れ、
出立の準備をしていた彼女は、咄嗟にその場から逃げることに成功したが、
屋根の真下にいた彼は、左足を失くしてしまった。
そこから何とか、彼をサポートする彼女だったが、ある日目覚めると、彼の体は
冷たくなっていた。もしかしたら何かしらの感染症にでもあてられたのだろう。
その日はさんざん泣き喚いてしまったが、彼の手荷物には遺書的なものが残っており、
「拝啓お姉ちゃん。
多分この手紙を見つけたってことは、何か、僕に不慮な事態が発生してしまったんだと思う。実際「手荷物の確認する」って言っても頑なに拒んで、
一度も見せたことなかったしね、
まあ実際は、一応この手紙を持ってるって知られたら、いつも前向きなお姉ちゃん、絶対何か言うでしょ?これだけは知られたくなかったんだ、今は言えないけど、
ごめんね。
さて、もう一度言うけど、この手紙を見てるってことは、多分僕はこの世の中から旅立ってしまったんだと思う。
悲しむと思うんだけど、決して生きるのをあきらめないで?
そんな姉ちゃん想像つかないけど、下を向いてしまうのは何かもったいない気がするんだ、そんなことをしたら、その笑顔も、その元気さと一緒に、剥がれ落ちちゃう気がして.....だから笑顔で生きていてください。明日も早いんだ、だからまた気を引き締めていこ?
日は上がって落ちて、夜はまた来るし、代り映えしない、いつもだったけど、元気なお姉ちゃんをそばで見れて、そして最後まで一緒にいれて楽しかったです。
お元気で。
弟より。」
と書いていた。
この手紙で、めんどくさがりだった自分を変えることができ、いつも以上に笑うことを心掛けてきた、でもそれは、いくら頑張ったとしても、本当に笑えたわけではない。
だからこそ、昨日心から笑わせてくれた彼に感謝を感じ、そしてこんな状況だからか、少しばかり好意を抱いてしまうのも、仕方のないことだろう。
起き上がり、彼の腕時計で残り時間を確認する。
『残69:26:54』
大体二日と数時間という残り時間だった。
昨日は「隕石が落ちるようになってから諦めた。」とは言っていたが、
いざ余命宣告を受けたとなると、これが人間の定なのだろう、今度は、
「もっと生きたい」という念が湧いてくる。
だがしかし、そんな願いを思ったところで、時間の減りが止まるわけでもなく、
早くなっているような気もしてきた。
折角の生なのだ、気を引き締めて出発準備をはじめ、未だぐっすり寝ている彼を肩を軽く叩いて起こす。
「あの、もうそろそろ、出発しませんか?」
「うーん今何時?」
「大体10時くらいですよ、行かないんですか?」
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「!、ごめん!急いで用意するから待ってて。」
と言って、急いで出立の準備をする。
しまった、久しぶりに寝過ごしてしまった、二度寝自体久しぶりとは言ったが、
まさか寝過ごしてしまうとは不覚…。一人で睡眠では無かったから、安心し切ってしまったのだろう。
それから約5分ほどで、焚き火の着火材を仕舞い込み準備を済ませ、
辺りの景色を捜索していたシャーミンに、出発が可能な事を伝える。
「で、何かそれっぽいところ見えた?」
「うーん、ここら辺には、昨日行ってた様な場所はなさそうですね、もう少し建物が、あまり密集してないところにあるんじゃないですか?」
「でもなー、逆にこんな所にこそ、研究所が隠れていそうな気がするんだよ。」
といい、現在の場所から遠くに見える広場(?)に指を挿す。
「まあそうですね、行くあてなんて一切無いですし、無駄になるくらいなら、望んだ方に行った方が、色々と後悔しなさそうで良さそうですもんね。」
そう言って二人立ち上がり、昨日進んでいた方向に向かって歩き出す。
道中、先日の雨でやられたのか、ガラス張りだったろう高層ビルが、跡形もなく崩れ去っており、そこら辺に、ガラス編とコンクリート片が散らばっており、道路も途轍もなく凹んでいた。
もう一度この場所に大きめの衝撃を与えたら、陥没しここら一帯が消え去ってしまう事だろう。
少し歩くと、半壊したドームが見える様になった。
入り口付近に残っていた、案内版を見て西入り口から中に入り、中央の観客席に
入るため、右側に設置されている階段から上階に上り通路を奥に突き進んでいく。
そして、肝心の中に入ろうとするが、ドアがねじ曲がっており、これ以上先に立ち入れない様になっている。
シャーミンが、手持ちの細い鉄棒で、ドアを無理矢理抉じ開けようとするが、びくともしない。
そして、ナルファが代わりに、その差したままの棒を蹴って、反動で開けようとするが、今度はその棒が折れてしまった。
しかし、少し隙間が広がり今度は、扉の先が見えるようになった。
「……壊れませんね。」
壊れないと分かったシャーミンが、隙間が広がっているのを見つけ、その隙間をのぞき込むと、現在地の反対側が崩壊しており,そこから直接中に入れることが分かった。
「何か見えます?」
「……向こう側が上手い具合にみえます……。
うーんそうですね、取り敢えず迂回してみましょう、こっち側は全ての道が塞がってましたし、この隙間から見る限り、向こう側からはいれそうですよ。」
「そうですか、先に迂回してもらってていいですか?私はここで辺り探索して、他の入り口かがあるかどうか、探しときますので。」
「わかった。」
そう言い残し、さっき入ってきた入り口からでて、左回りに迂回する。
大体30分ぐらいだろうか、ドームを右側に捉えながら周回していると、
反対側が視界に入り、シャーミンが言っていたように崩壊しており、その場所には他の建物などが倒れており、まるで別の建設物のように積み重なっていた。
「取り敢えず、上まで登って入ってみるか。」
そう思い入り組んでいる建物群を飛び越え、目的地に近づいていく。
現在ナルファがいる場所は、ドームの横に倒れている三十層のビルの十八層目の側面に立っている。その二七層目の付近に、ガラス張りの通用道があり、その先がドームの中層部に接続されていた。
中に入り辺りを見てみると、其処は、ガラス張りの観客席の様な場所で、
ドームを一周するかの様に回っていた。
しかし今はほとんどのガラスが剥がれ落ちており、吹き抜けの様な様子で、通路も全ては繋がっておらず、所々間が無くなっている。
「と、こっから先はロープなしじゃ行けなさそうだな。」
「よし、出番だぞ。」
通路を右回りに移動していると、支柱がなくなっているせいか、
先がなくなっており、下に5メートルほど降りなければ先に行けそうになさず、
この拾い物をして使ったことは一切無かったが、昔から一緒だった相棒を扱うかの様にバックから、カーボン製の縄を取り出し、金具の引っ掛けを、
金属の柱の剥き出しの部分に結び、固定され動かない様子を確認した後、ゆっくりと伝って、降りていく。
「うっわ広い。」
下方におり、辺りを確認してみると、何かの観客席だったのだろう、観客用席の固定部分が破壊されて、辺りに散らばっているしている様子だった。
それが数えられないほどあり、向こう側までは1キロ程ありそうな幅なのだから、その数に口を開けてしまうのも無理はないだろう。
取り敢えず、シャーミンが待っている場所に急ごう。
この場所に来るまで時間を食ってしまった、あちら側からこの場所に入ってこれる事ができたのならば、もうとっくに視界に入るはずなのだが、姿は確認することはできない。つまり、この間ずっと待たせてしまっていた可能性があるということだ、急がないと。
今度は、三十分の道を約半分の短さで、たどり着くことができ、さっき僕達がいた場所は、さっき、僕が入ってきた場所より低い場所にあるということは、この観客席の階の下から五段目の入り口の近くということだ。
そう思いつつドアを確認して回ると、さっき僕が棒を隙間にねじ込んだドアが
見つかった。
「シャーミンいるか?」
向こう側に聞こえる様声を張り上げた。
「………。」
しかし反応がない、おそらく、先ほど辺りの探索をすると言っていたので、
それが今なだけだろう、
ドアの元を離れ、観客席の立ち見席だった所であろう手摺りを支えに、風景を眺める。
ずっと黄昏ながら変わらない風景を眺めていると、
自分も自然の一部として動いている様な錯覚が、体を覆う。
風が吹き、何かの布切れかわからないものが宙を漂い、また自分も息を吐く
そうして時間を過ごしていると、ドアの方から物音が聞こえてきた。
帰ってきたんだろう。
「帰ってきたかー。」
「はい、すみません待たせました?」
何かガサゴソしながら訪ねてくる。
「いや、ぼーっとしてたから大丈夫だ。」
「………待たせたんですね、すみません。」
「いやなんで謝るの、大丈夫だって。」
何故だ、大丈夫だって言ったはずなんだけど。
「すみません、なんか嫌味かなと…。」
「あ…、そうか自分が浅はかだった、その考えが先ず浮かばなかった。
此方こそ、ごめん。」
「そうでしたか、じゃあこのドア開ける方法見つけてきたんで、それ試していいですか?」
「ああ、いいよ。」
そう言って自分は、少しだけ距離を取る。
すると、思いっきり何かを叩きつけたのか、『ガン!』と鳴り、目に見てわかるほど凹んでしまう。
「………うーん開きませんね。あ、そうだ!、ナルファさん、今からちょっと過激なことするんで、距離取ってもらっていいですか?」
「…うん?、いいよ?」
過激なこと?とは一体、今から一体何するつもりなんだ。
「距離を取れ」と言われ、離れて通路部分から離れる。
すると5秒後位に《シュー…》、という音が鳴り、
少し経つと、突然ドアが爆発し、破片が横を飛んでいく。
いきなりのことだったので、耳鳴りが鳴ってしまったが、
正常に戻ったところで覗き込んでみると、
見事に周辺が焦げ、元から何も障害物がなかったかの様に、
綺麗に開いていた。
「何やってるのさ。」
そう言うと、申し訳なさそうで、そしてどこか悪戯が成功したかの様な、ちょっぴり楽しそうな顔で、向こう側から顔を出す。
「上手く行きましたね。」
「いや、上手く行きましたじゃなくて、何で爆弾持ってるの?」
目を細め問いただす様な顔をしてバックを見つめる。
「さっき、探索中に倉庫みたいなのがあって、其処に食料やら、
ダイナマイトやら、いろんな物質があったんですよ。」
「……そうか、なら良かった?」
満面の笑みをしてそんな事を言われれば、全部此方が悪い様な気がしてくる。
「さて、これでやっと行けますね。」
「そうだな、といっても反対側から回ってくる時には、別段変わった様なこともなかったぞ?」
「そうですか、なら記念撮影でもしましょう、折角手間をかけて入ってきたんですから、そして丁度、日も上に登ってきて綺麗じゃないですか。」
「そうだな、じゃあ今回は2人で撮るか、置きながらでもセットすれば何とかいけるだろ。」
今の場所から自分達が立つところと、カメラの置き場を探すこと約十分。
先ほどの場所から段数が上がり、その分見える所も少なくなっているが、兎に角綺麗だった。
「タイマーは10秒でいいか。」
煉瓦の積み上がっているところに置き、タイマーをセットする。
立ち位置は、シャーミンがカメラ側から右、僕が左だ。
「いえーい。」
と言い、彼女が右腕でピースを作る。
「ピ…ピ…ピ…、カシャ……ウィーン。」
「さーて、どんなのになってるかなー。」
シャーミンがカメラの元に駆け寄り、写真を確認をする。
「あー、ナルファさん笑ってないじゃないですかー。」
写真を見て、自分が笑っていなかった事を、指摘してくる。
「いや別に笑うところなくない?」
「いいえ、こんな時こそ自分の笑顔を残して、将来.....があるかは、わからないですが、自分を残していくんですよ。」
「そっか。」
恐らく、昨日言っていた、「自分を塵程度でもいいから残しておきたい」と言っていたものだろう。
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『残63:42:38』 16:27:56 p.m
今は午後四時二十七分五十六秒
大体、『世界の終わり』が来るのが計算上
二日と十五時間後といったところ。ここともお別れか......長かったな.....。
やっと仕事も一区切りしたし、最後のひと踏ん張りだ、君たちもその目に焼き付けて忘れないようにしてくれよ。
君たちもいろいろと回ってきたんだから疲れたろ?休憩しようぜ。
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