終末の記録に花を添えて

羅船未草

残88:34:21


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………この世界が崩壊してしまったのはどんな理由だったろう。


戦争?異星人の侵略?温暖化?食糧難?まあそんなことは本の世界でしか知らない。

まあ知ったところでこの現状が何か変化するわけでもないし、そんなことが起こったところで何かできるわけでもない。


ふと、「自分がこの世界の生きていた時代にいたら」という妄想が頭を過るが、

そんな意味を見出せないような事は直ぐに消滅してしまう。


僕に残っているのは、残り時間が示されている金の線が入った腕時計。

小型ソーラー付きのランプ。

小さな肩掛けの中にある、少ない非常食と、

いつか見ることができるかも知れない情報保存デバイス。

産みの親と家族との写真。

廃れた建物たちの作り出す風景と、僕の相棒の『カメラ』、それだけだ。


今日は空が何時もより明るく見える、

最近はよく、小さい隕石を観測するようになり、轟音が鳴り響く。


いつかは、「この地点の近くに落ちるかも知れない」という恐怖心に苛まれ

なかなか寝付くことができない。

この時計によると《世界の終わり》は近いらしいが、その前兆ということだろうか。


《世界の終わり》というのは、どんなものなのかは想像できない、

いままで見てきた文献、情報の海に潜ったとしても、前例は見つからなかった。まあ、僕を含めて『世界が消える』とか『存在を失う』とか、そんな感じなのだろうとは思っている。


今、僕がいる場所は、今まで都市であったろう、オフィス街で、二方向をビルが塞ぎ。そこに、もたれ掛かるように崩れている建設物下にある、

少しばかりのスペースがある場所で、僕の最近の居住区(仮)である。


今日は久しぶりの晴れだ、雨上がりの冷えた風が身体を通り過ぎていく。

最近は、恐怖を感じるほどの雨が降り注いでいた、


この拠点が無ければ雨風が凌げず、今頃は、何かの建物の下敷きになっていたかもしれない。快適とは程遠い状態なのだが、まあ、それでもこの現状を鑑みるとまだ幾分か、マシだろう。


「このどうしようもない世界で、僕は、何の為に生かされているのだろう....」


…と、ここ最近同じことばかり考える、

母さんが僕を生かしてくれたお陰で、今は生きていられるが、

何もないこの終末で、何故僕が生まれなければならなかったのだろうか。


『神』、という概念の存在が居るとするならば、その胸ぐらを掴んで、

問いてみたい「」を。


最近よく眠れていなかったせいで、体を起こすのが憂鬱だ、

下半身がもう動きたくないと言っているが、仕方なく目を擦り、

気を奮い立たせ起き上がる。


もう、最後が近いというのに、相変わらずお腹がへるし、喉は渇く、昨日の雨で外に置いていた瓶の中には雨水は貯まっているだろうし、頑張って持ちこたえるとしよう。


「ここともお別れか...。」


数日間お世話になった仮拠点に心の中で別れを告げ、また旅路を始める。


一時間ほど歩き回って、倒壊しているビル群の中から抜け出すと、広場のような場所に出た。

その場所には、そこら中にガラスの破片や金属片が小さい丘のように積み上がっており、

元の人工物が判別できないほどの腐食している何かの部品が混じっている。


「使えるやつ探そ……。」


瓦礫の山に探りを入れ、残り少ない旅路の中で使える物を探す。


「銅のケーブルか……、少しボロいけど、何か縛る時ぐらいは耐えれるかな…。」


ーーーーーーーーーーーーーーー


小一時間程探索をし、そろそろ立ち去ろうと、荷物を整理していた。

ちなみに、戦利品は先ほどの銅線とカーボン繊維でできた縄だ、

小さい滑車が付いているが、腐敗して動かない、重りか固定用にするしかなさそうだ。


「最後の探索になるだろうし、何かの記念撮影風景でも撮るか。」


崩れた建物をよじ登り、天辺近くに立つと、ここら一帯が見渡せる程、見通しが良かった。

さっきはよく見る事が出来なかった周辺も確認する事ができ、

この場所は何方かというと、広場というよりかは、塵廃棄場と言ったほうがいいほど、遠方まで色々積み上がっていた。


少しばかり眺めていると、少し曇り空から日光が差してくる、それはまるで、

この場所の汚れを浄化するかのように暖かな光で神秘的だった。


「パシャ……ウィーン……。」


こうやって思い出は増えていく、そして消えていく思い出も、数えきれないほど流れていく、そんな感じで僕たちは星の歴史となって積もっていき、また新しい芽が出て成熟し、散々何かに扱き使われ、その一生を散らしていく。

まぁ一人ひとり歴史は作っていくものだとは、僕は思うんだけどね。


「ドガっガラガラ!」


「っ!?」


感傷に浸っていると、向こう側で鉄骨の倒壊が起こったらしい、自分が立っている丘が倒れると危ないところだったが、まだ幸運な方だろう。取りあえず状況の確認を。


少しジャンプしながら駆け下り、さっきの崩落が起こった地点に近づいていく。

確認してみると崩落地点と思われる場所が先ほどは、

鉄骨などが入り組んで上手いことバランスをとっていたらしいが、何かの拍子で崩れたしまったらしく、ただでさえ古び、苔生した鉄骨が、瓦礫の山に埋もれ、また原形を無くしてしまっていた。


「これ以上は、変化し得なさそうだな。」


周りの危険がさり、一息ついたところで、次の地点に向かおうとしたところ、何かのが動いたのが見えた。


「っ……ふぅ。」


兎に角、落ち着こう、唯の幻覚だったかも知れない、

自分に害がないか確認するか?いやそれも危険だ、こんな所で死ぬのはごめん被りたい、そして一々危険を犯すメリットもない。


……いやだがしかし、もし、可能性として、同じ生存者だった時何か助け合えるかも知れない。

兎も角、まずは自分の防護だ、何かあったときのための鈍器は、普段は持っていないが、

ここは塵廃棄場、鉄パイプか何かくらいはあるだろう。


辺りを見渡すと、数メートル先に丁度いい細さの棒を見つけ、忍び足で近寄り、手に取る。


「さて、あの影は一体何処にいるか……。」


瓦礫の壁に背を預け、身を小さくしながら相手が何処にいるか確認する。


「何かあそこで揺れてるな……」


コンクリートの壁があるので直接確認する事はできないが、

建物の壁に長く伸びた影が写っており、よく視認してみるが、それだけでは相手がどんな姿かを確認する事はできない。

息を潜め、そろりと近づいていき、壁の反対側についた、すると何かしらの、小さい物音が聞こえてくる。


「ガリガリガリ……。」


「?」


流石に、これだけ無用心に何かしている、という事は、小動物かその他だな。

一安心し胸を下ろした後、確認してみると、全身に擦り傷や瘡蓋があり、顔には白いマフラーをつけた、170センチくらいの少女だった。

少し観察するだけで、僕よりも過酷な環境を生き残っていたとわかる。


「…っ!?」


いきなりの事態で、頭の整理が追いつかない。内心は地獄の業火のように燃え盛り、

一瞬目の前が暗くなるほど驚き、その場に伏せてしまった。

自分が倒れる音に驚いたのか、その少女が全く同じような動作を見せる。


「???」


そうして、五分ほどが経ち、脳が再起動を果たした頃、その少女が話そうとしてくるが、

うまく声が出ず、苦しそうな音を出す。


「落ち着いて、まずは深呼吸だ。」


「コクコク。」


胸を押さえ、強く鳴り続ける心臓を抑えようと4度、胸を上下させた。


「話せる?」


「……はい、何とか。」


「よし、なら自己紹介だ、僕は『ナルファ』、君は?」


「私は『シャーミン』と言います、年齢は十八歳です。」


というと、完全に落ち着く事が出来たのか、近くにある楕円形の石に腰をかける。


「ああ、色々とすまなかったね、驚かせてしまって。」


「いえこちらこそ、警戒させてしまってすみません。」


といい頭を下げてくる。

安全が確保された今、物騒なものは持っていても仕方ない、

ひとまずこいつを置いて、座ろう。


「じゃあ、ひとまず情報交換でもしましょう、自分の生まれとか何でもいいんで教えてくれます?」


「ええと、はい、北の方角から旅してきてたんですけど、

ここより幾分か、高層建設物は少なくて、俗に『田舎』と呼ばれてるところです、

特に目的は無くて、なんとか『中央』と呼ばれるばしょで、何故か、此処よりは標高は高めなんですけど、空気は多少澄んでる所でしたね。」


彼女が来た場所というのは、変わっていく時代の中で、何かから逃れる様に、

先代が大移動を行った、『サフェネス』で、

500年程前には、飛行船で生活圏を空に移したと、西の廃研究施設で見つけた数少ない情報の一つだ。


「多分その北方の地は、最終船移動選別種族B E T Hの一員だったんじゃないかな、でもなんで地上に降り立ったのだろう。」


「それは解りませんね、私の一番古い記憶の中じゃ、その時にはもうそんなのを一切感じさせないくらい、荒廃してましたし、ましてや、飛行場とか等も、全然見当たらなかったですしね……。」


「そうなんだ………。」


となると考えられるのは、幾ら強度と持久力を持っていたとしても、

その飛行船自体が、長年による劣化か、

環境の急変で、如何しても降りる必要があったのか。

それまた、人為的な原因なのか…。


「次は、ナルファさんの番ですね。」

大体2、3分思案した時、暇を持て余したのか、次は自分の番だと急かした


「ごめん、ちょっと考えてて。」


「そうだね、僕が来たところは此処最近だと、西の方から研究施設みたいなのを虱潰しに、回っていっている感じで、いつか、これの中身が確認できることを願って探索してる感じだね。」


「それと、今はこのデバイスの中身を確認したいっていうのが一番の願いかな。」


といい、ポケットから情報デバイスを取り出し、手渡す。


「これは?」


「さっき、西の方から来たって言ったろ?、その道中に、地面に隆起していた、侵食が進んだ地下研究施設を見つけてね、そこを探索してたんだけど、

その中に司令室的な場所を見つけて、其処から何とか何でも良いから情報を手に入れようと探っていたら、大きなモニターみたいな場所に隣接でつけてあった、保存場所からこのチップがはみ出していてね、相当古い型だし、再生しようにも、再生機械から、色々と配線が剥き出しになってていてね、直そうともしたんだけど、手のつけようが無くて…。」



「成る程です、そう云えば、先程から見えてるその腕時計とても綺麗ですね、何処で手に入れたんです?」


話しているといつの間にか裾が捲れ上がったのか、腕時計が「こんにちは」している。


「嗚呼これね、いつからだったけな、あまり覚えていないな、いやでもある日起きると

いつの間にか自分のそばに置いてあったとは覚えてる。」


「…なにそれ、怖いですね。」


「だろ?それにな、カウントダウンし続けていて、何故かこれがこの世界の寿命だとも感じるんだ。」


と言うと、目を大きく開き、呆けた顔をし、「心此処にあらず」の様に動きを止めてしまった。


「やっぱりそんな反応になるよね、さすがに衝撃が強過ぎたかな。」


そして、シャーミンが動作復帰するまで十秒程かかった。


「……驚きました、いやでも、ここ最近少し変だなとも、思っていたんです、空かよくわからないですけど、明かりを強くしたかの様に少し明るくなっていますし、

何処か遠くで轟音が鳴り響いていますし、「小さな隕石?」ともたまに思ってましたし。」


「……ドカーン。」


「……………」


「…ずっと座っているのも何ですし、そろそろ出発する準備でもしましょうか。」


「もう良いんですか?」


さっき座ってから、まだ十五分も経っていない。


「ええ、なんか、この休憩時間もさっきの会話を聞いてから、なんか、まだ行った事がない場所があると思うと、この時間も惜しくなってきて。」


「まあ確かにそう思うね、僕なんか慣れてきて、最近じゃ『もうどうにでもなれ』って思う様になってきたよ。」


「普通は、自暴自棄になるもんだと思いますよ?だって、余命宣告されてるのと同義ですから。」


「そう言う君はならないんだね。」


「隕石が落ち始めた時にもう諦めましたよ。」


「はは、確かに。」


その後も少し他愛のない会話をした後、シャーミンは何かを思い出したかの様に、塵山に登って行き、なにかゴソゴソしている、多分だが、使える物を探しているのだろう。


数分、それぞれの行動や荷物整理をし、遂に出立した。あの場所から大体数刻経ち、景観が少し変わり、空も橙色になりつつある時、ふと出会った時に『ガリガリ』と音を出して何かをしていたのを思い出した。


「そういえば、シャーミンって僕と出会った時に何か書いてたよね?あれなんだったの?」


「っ!?」


「え?」


建物の垂れているところを乗り越えて、後に続こうとしていた時に聞いてみると、

上から凄い形相で自分の方向にバッと振り返ってプルプル震えながら、

「見た?」、と聞いてきた。


「いや見てはいないんだけどね、あれ結局なんだったのかなって思っただけで。」


「それならよかった、あれはですね、一応絵で、私の日記みたいな物なんです。自分、途轍もなく下手なので、見られたく無かったんです。」


手を差し伸ばし、上に登るのを助けてくれる。


「じゃあ、次に描いたときにみるよ。」


「落としますよ?」


睨めつけながら自分の方に迫ってくる。


「…すみませんでした。」


ペコリと頭を下げ、御機嫌をとる。


「ならいいです。」


狭い通路を通り過ぎ、少し広い駐車場の様な場所に出て、崩れている側面から光が流れ込んでいた。

そう云えば日記か……、それなら何か保存できる何かに書いて、手持ちに残しておくべきなんだと思うけど……。


「そうだ、さっきの話なんだけど、なんで地面に残すのさ、書ける媒体に書いて、持っとくべきなんだと思うけど。」


「私自身の変なこだわりでですね、《私はここに来たよ!》っていう、存在証明みたいな物で、いつか、というより後4日で私たちは死にます。なので私のエゴですが塵程度でも良いから、自分を遺していたいんですよ。上手く言い表せないですが……」


そっか、そう云えば本当に、もう直ぐこの世界は終わるけど、特に何もしてこなかったな……、この時計が手に入ってからは、もう特にそんなことは感じなくなったし、諦めに入ったし。……あ、そういえば。


「これ、僕の思い出みたいな物でですね、纏めてあるんですよ。」

リュックサックから取り出したのは、今まで撮ってきた風景写真だ。一応、日付毎に並べてある。


「沢山あるんですね。」


といい、一番古い物からパラパラめくっていく。


「これは?」


と言って指差してきたのは、一番古い僕がまだ若かった頃の写真である。


「これはね、ぼくがまだ十代前半だった頃で、ある民家から使えるカメラを拝借したときに撮った初めての写真だよ、この時は生き延びるのに必死で色々と駆け回っていたから全身怪我しまくっていたんだ。」


「今の私と同じ様な物ですね。」


そう言って、少し足の裾をめくり上げ、切り傷、擦り傷の沢山付いた脚を見せてくる。


「処置はしないのかい。」


「しても布の無駄遣いですから、2年前に止めました。」


なかなかワイルドな考えをするもんだな、まあ処置して動けなくなるより探索して食糧を見つける方が、よっぽどいいか。



写真の、その時にあった思い出を気になった所に、一つ一つ聞かせていると陽は沈み、辺りは真っ暗になりつつあった、取り敢えずランプを着け、暖を取る為、可燃性の物を集め火を付ける。


自分はあぐらをかきながら、火の燃えた先を見て黄昏れて、彼女は体操座りしながら顔を伏せ、悩んでいそうな雰囲気だ。


「そろそろ、夕飯にしますか。」

バックの中から保存食のクッキーを取り出す。残りは少ないが、今日は違う仲間に出会えためでたい日だ、2個食べることにしよう。


「そうですね、小腹が空きましたね。」


シャーミンはバックからレーションを取り出し袋を開ける、自分も前は食べていたが、栄養価は高いのだろうが、美味かった試しがない。

こんな日にはもう少し豪勢でいいだろうに……、

仕方なくもう一個、クッキーを取り出し手渡す。


「……ありがとう御座います、でもなんで?」


「折角今日二人で会う事ができたんだ、少しは贅沢しないと。」


「ありがたく頂きます、ずっと同じ物で飽き飽きしてたんです。」


「まあ、どっちかっていうと不味い物を食べるより少し幸せになった方がいいじゃん?


「確かにそうですね。ありがとうございます。」


食事で、上げたクッキーに手を掛け、口で頬張ると、満面の笑みを浮かべこっちを向いた。


先ほどまで着けていたマフラーはしまっている、なのでその笑顔を全部見る事ができ、傷は付いているものの、その笑顔は花の様に可憐で、此方も笑顔になる。

「ナルファさん、此れからどうやって過ごす予定なんですか?」


食事を済ました後、先ほどの態勢に戻り二人とも、また、荷物を挟んだ隣り合わせで話し掛けてくる。


「特に何かしたいというのはないね、しいて言うなら《幸せになりたい…》かな。」


「なれますよきっと、私は今日はここ最近で最高の日だと思ってます。君に会えましたし、感情の起伏のない日に終止符を打ってくれて、『幸せ』というのを久しぶりに感じました。出来れば最後まで一緒に居させてください。」


「まあ、他にすることもないし、僕自身も君と一緒にいれることで何か、変わる気がするんだ、此方こそよろしく頼みます。」


と言うと、彼女はその手を差し伸ばしてくる、一旦自分の服で擦り垢を落とした後その手を取る。


「そんなことしても服が汚れてるから一緒ですよ。」

と言ってクスクス笑っている、確かに言われてみればそうだ。

手持ち無沙汰になっている様子を見てまた笑顔になった。

そんなやり取りをし、興奮が収まったのか寝息が聞こえてきた。


今日はいつもと違う日常な日だった、こんな日がただ続くのが又、心の奥底で、願っていたのかも知れない。


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