第13話 牢屋の孤独

 わたしが剣奴となって、7日ほどが経った。水分は魔法で補給できるものの、食料は生み出すことは出来ず徐々に自分が衰弱していくのがわかる。

 火傷の傷痕をどうにか消したいと思ってソルスに魔法を教えてと頼んだのだが、ソルスは教えてくれなかった。

 その時ソルスがこう言っていた。


「お前の火傷が治ってしまってお前が女だとバレたら後々めんどくさいことになる……」


 ソルスはわたしの身を案じてくれたみたいだ。

 わたしはそんなソルスの言うことに賛同することにした。

 

 それにきっとわたしが魔法を覚えて、使うようになったら大変なことが起きるとソルスも思ったのだろう。

 『ふぁいあ』をわたしが使ってからは魔法の使用はソルスに禁じられて、でもそのおかげでわたしはマシな食事を確保できた。


 とそこでふとわたしに何かの答えが頭の中に降り注いだ。

 

 この火傷はもしかして自分の魔法によってなったんではないか—————


 あの時わたしは最後の最後の力を振り絞って、


 剣凪流 火龍の型 『焔』

 

 を使った。

 元いた世界では名前の如く炎が剣に纏うなんてことはなく、ただの抜刀術の名前であったのだが、もしかしたらこの世界では名前の通り剣から炎が出るのではないかと。


 そして、その時に魔力枯渇を起こし、森で火事が起き、その家事にわたしが巻き込まれた。

 という推論が頭の中に立った。


 真偽はわからないが筋が立っており、納得することができた。


 ソルスに魔法を纏わせる剣はあるのか聞いてみたところ、ソルスはわたしの方を見て怪訝そうにしながらも、ある。とだけ答えてくれた。


 それに思い出したくもないのだが、ロイドを斬った時の感覚も生々しさがあったものの、思ったのとは全然違くてどこか軽かった。


 わたしがその時使ったのは確か、『風刃』だった気がする。

 

 もし風の刃が名前の通り出現していたとするならば、あの巨躯のロイドがわたしの剣で吹っ飛ばされたのも納得できる。


 

 牢屋に閉じ込められて、剣奴とされる絶望の状況の中で、わたしは少しでも自分が生き残ろうと必死だった。



 ソルスの知恵をかり、細々と生きながらえた。


 けれどあの地獄は貴族たちが飽きるまで続いてしまうわけで……


 この地獄から出るには二つの方法があるとソルスは言っていた。

 

 まずは、とにかく試合に勝ち続けて100勝をすること。

 次に、奴隷として誰かに買われること、だった。


 今までかつて剣奴が奴隷として買われたことはないらしい。 

 だからここを出るにはどうにかして生きながら、100人殺さなければならない。


 どう考えても不可能なことだった。

 


 そして、今日はこの世界の休日であって、試合に出ることがあれば、自分が生き残るためにも、わたしはまた人を殺さなければいけないのかと顔面を蒼白にしながら、牢屋の中で心臓をバクバクさせながら壁にもたれ座っていた。


 そして、予想通り、私の牢屋の前で衛兵が姿を現した。


 とうとう来てしまった……

 本当に嫌だった……

 できれば人なんか殺したくない……


 

 蘇る返り血の生暖かさ。

 飛び出る内蔵の生々しさ。

 こぼれ落ちた自分の耳。



 その全てがわたしの精神を擦り減らして、それでもわたしはわがままなようで自分は生きたい……そう思ってしまった。


 臆病なわたしはここから力尽くで抜け出す勇気も力もないので、卑怯と冷酷だと言われようとも、目の前の相手1人を斬って、命を繋ごうと決めた……

 それしか生きる道がないように思われたのだから……


 そして卑怯にもわたしは相手は自分の本心から殺したくなるような残虐非道な人物であってほしいと思った。

 

 そして、わたしに思っきり殺意を向けてほしいと。

 そうであればわたしは後で言い訳ができそうだなと思ったから……


 そして、わたしは一種の覚悟を持って、衛兵から発せられる言葉を聞いた。


「おい! 出てこい! そこのガキ!」


 わたしは自分が呼ばれたと思って、立とうとしたところ、


「お前じゃない! そっちのガキだ!」


 わたしは立って外に行こうとしたところ衛兵に蹴り飛ばされた。


 ゴホゴホとむせて、わたしは口から吐血する。


 衛兵が呼んだのはわたしではなく、一緒の牢屋にいたソルスの方だった。


 ソルスは大人しく立ち上がり、どこかいつもとは違う雰囲気で、獅子の如きオーラを漂わせていて、腰にはどこから出したのかオンボロの剣とは違ったしっかりと研がれた剣を携えて、牢屋から出て行ってしまった。


 その瞬間、わたしが感じたのはどんな気持ちだったんだろう……


 自分が人を殺さなくてもいい安堵!?

 それとも牢屋の中で少ない時間だけど一緒に過ごしたソルスがもしかしたら死んじゃうかもしれないという心配!?


 どれだったのだろう……

 わたしにはわからない……

 


 けれど何故だかわたしは発狂していた。

 胸が苦しくて、辛くて、悲しくて、熱い何かが舞い上がってきて、わたしはここに連れて来られた時みたいに涙をボロボロと流していた。


 ここはどこにいたって地獄だった……



 ソルスがここから出て行った後、わたしのところまで聞こえて来る貴族たちの下卑た笑いと歓声がわたしの心をさらに蝕もうとする。



 

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