第7話「新たなるスタート①」

「では、次に担任の先生の紹介をしたいと思います」


 司会の教頭の言葉に緊張感が漂っていた会場がにわかにざわめき出す。

 入学式、学校生活の始まりを告げる大事な式典。ここで無様な姿は見せられない。俺は改めて、ネクタイを締め直す。

 ライトによって煌々と照らされた壇上に他の担任教師と共に並ぶ。同じ学年団には、歩美も居る。俺がE組の担任で彼女がF組の担任だ。よって、俺と彼女は隣同士で生徒達に向かい合うことになった。

 グレーのパンツスーツに身を包んだ彼女の表情は明らかに固い。緊張しているのだろう。一瞬、何か助け船を出してやろうかと思う。それこそ、クラスメイトだったときのように。

 学生時代の彼女は勉強も運動もできる真面目な優等生だったが、少しあがり症な一面があり、副委員長として人前に立つときにはいつもガチガチになっていたものだ。

 しかし、彼女はすぐに落ち着いた自然な表情を見せる。そんな彼女の様子を見て、考えを改める。彼女だって、今日まで教師として勤めてきたのだ。今更、俺がお節介を焼く必要なんてない。

 彼女は成長したことは喜ばしいことだったが、同時にどこか少し寂しくも感じた。

 そんなことを考えているうちに自分の自己紹介の順番が回ってきた。俺はマイクを受け取り、一礼してからしゃべり出す。


「E組を受け持つことになりました建屋奏多です。これから君たちが望んだ学校生活を送れるように全力でサポートしていきます。よろしくお願いします」


 俺が頭を下げると大きな拍手が会場を包んだ。

 俺が頭を上げると、生徒の中でひときわ大きい拍手をしている者が一人。

 静井ひよだ。

 俺の幼なじみで、生徒で、そして、妻でもある彼女。

 彼女はまるでヒーローショーを見ている子どものように目を輝かせて俺を見ていた。次の教師である歩美の挨拶が始まった後も、ずっと俺の方を見て、にこにこしている。


(あの子は本当に大丈夫なのだろうか……)


 歩美よりも、ひよちゃんの方がずっと心配だった。

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