第7話 毛糸玉
きみちゃんはベットに横になりながら、先ほどのことを考えてみた。あの出来事からしばらく経ったせいか、動揺は多少和らいでいた。ただ、自分がまこちゃんから嫌われているのかもしれない疑念だけは、彼女の心の真中に頑として横たわっていた。
彼女は今まで、まこちゃんのことをよく知っているつもりでいた。どういう人間で、どういう趣向をしていて、どういうことに喜びを見出すのかを彼女なりに理解しているつもりでいた。しかし、ゆかりちゃんのあの言葉によって、どうやらそうでないらしいことに気付いてしまった。彼女は、そのことに気付かせたゆかりちゃんのことはどうでもよかった。不愉快な事実はこれからもなんら変わることはないのだ。
部屋の机の上に、作りかけの手袋が置かれてある。まこちゃんは花柄が好きだと言っていたが、彼女はそれを作る技術を持ち合わせていなかった。ピンク一色の手袋が丸い毛糸玉とともに暗い部屋で怪しく光っていた。彼女は、まこちゃんがこの手袋を貰って喜んでくれると信じていた。ちょうど自分がまこちゃんから何を貰っても喜ぶのと同様に。
これまで一体どれほどまこちゃんのことを考えてきたというのだろう。にも関わらず、何故自分は今こうして悲しみに暮れなければならないのか、それならばいっそのこと嫌いにでもなってしまおうかとも考えた。彼女はまこちゃんに対して、愛に近い感情を抱いていた。ただ好きでいつも一緒にいたかったのだ。しかし、愛の本質を理解するほど彼女の精神が成熟しているとは言い難かった。彼女はしばらく作りかけの手袋をじっと眺めていたが、ふと立ち上がって手袋をずたずたに引き裂いてしまった。糸がもつれてぐしゃぐしゃになった手袋を見下ろす彼女に目には、もう以前の腫れぼったさは見当たらなかった。
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