第6話 早退

 授業中、きみちゃんはまこちゃんに疑念を抱いた。以前からそうであったことは以降も必ずそうでなければならない、という幼い理屈を彼女はまこちゃんに当てはめてしまっていた。人の心は移ろいやすい、という真理を理解するにはまだ未熟過ぎた。その理屈も、彼女がただ信じてすがりたい、不安から逃れたい一心で打ち立てた、人生経験の浅さに由来する虚栄と大差なかった。彼女のこの虚栄は、まこちゃんが彼女のことをあまり好ましいと思っていないということを暗示するようであった。彼女は直感的に、この暗示をまこちゃんに対する疑念として強く意識してしまったのだった。そう思えば思うほど、今までのまこちゃんとの過去全てが黒く塗り潰されてしまいそうな気がして寒気を覚えた。彼女は軽い目眩を先生に訴え、授業中ではあったが保健室へ行き、結局その日は早退してしまった。学校からの電話で仕事から抜け出してきた母親に連れ添われて家へと帰った。

 母は彼女の体調を案じる言葉を色々かけてはいたが、なんらの言葉も彼女の心には届かなかった。顔色の悪い彼女に、母はもうそれ以上言葉をかけず、ただ一言安心させるような言葉をかけて再び仕事へ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る