第5話 鏡
次の休み時間、3人は再びまこちゃんの席に集まった。
「授業退屈だったね。つまんない。」
「ゆかりちゃんは頭がいいからじゃない?でも退屈でもちゃんと授業は聞かなきゃ。」
「まこは真面目だよね、ほんとう。ねえ、きみ」
「ああ、うん、そうだよ。私なんか黒板の文字がミミズみたいに見えたよ。」
「それ言い過ぎ。ていうかきみ、具合悪い?まぶた腫れてるよ?」
「え?ほんとう?最近夜更かししてるからかな。」
「鏡貸すから見てみなよ。小さいけど。」
ゆかりちゃんはきみちゃんに鏡を手渡した。鏡というよりは、なにかの破片と言った方が適切なものではあったが、なんとか反射させて鏡のように使うことができた。破片を色々な角度に動かして片方のまぶたを見てみると、ろくに反射しないせいで微かにしか分からなかったが、言われた通り確かに腫れている。朝目が重かったのはそのせいであったかと、彼女は腫れたまぶたを優しく撫でてその具合を確かめた。
「なんかトイレ行きたくなってきた。きみは鏡と睨めっこしてるから、今のうちにトイレ行こうよ、まこ。」
「うん、行こう。あんまり触ったら駄目だよ、きみちゃん。」
2人は揃ってトイレへ行った。きみちゃんは小さな破片と格闘していたが、拉致があかないのでトイレの鏡で見てみることにした。
教室を出てトイレに入ろうとする間際、ゆかりちゃんの声が聞こえてきた。
「そういえば、朝なんで待たなかったの?」
ゆかりちゃんのこの言葉を聞いた瞬間、彼女の足が止まった。自身の不安の原因に無意識にも身体が反応したかのようだった。
「え、なんでだろう。分かんない。」
「分かんないって何よ。嫌いなの?」
「嫌いとかそういうことじゃないけど。私もよく分かんない。」
「まあ別にいいけどさ。そういえばクリスマスプレゼントどうする?手袋とかどうかな?」
「手袋かぁ。お母さんに新しいのいくつか買ってもらったし、別にいらないかな。」
「そっか。また考えとくね。」
彼女はすぐに教室へ引き返した。そして先ほどのように、小さな破片を手に持ち、2人が戻るのを待った。破片を持った手は、心なしか震えていた。先ほどの2人の会話を頭の中でなんとか整理しようとするものの、どう受け止めたらいいのか分からなかった。自らが朝に感じた動揺が、まさにこのような形になって襲ってくるとは夢にも思わなかった。惨めな自分はさぞひどい顔をしているだろう。それに加えて腫れぼったいまぶたで散々だ。2人が戻ってきたら一体どういう顔をすればいいのだろうか、と彼女は思った。
しばらくして2人は戻ってきた。彼女は何も言わずすぐに、ゆかりちゃんに破片を返すと、さっさと自分の席へ戻ってしまった。
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