第4話 登校

 12月になり、季節はすっかり冬らしくなった。きみちゃんはここ毎晩、まこちゃんへ贈る予定の手袋作りに精を出していた。彼女は手があまり器用ではなかったため、母親から作り方を教えてもらったり本を見たりしながら夜更かしをして地道に作業を進めていた。そのため朝起きると目ぶたが重く、頭もなんだかぼんやりしていた。それでも彼女はいつ通りに家を出た。

 立派な松の木のある家に近づくと、相変わらずキジバトが鳴いている。以前よりも確かに、寒さに深みが増したはずなのだが、そんなことは無縁とばかりにその鳴き声を寒空に響かせ続けている。松の木陰にいるであろう、寒さを忘れて毎日鳴くその鳥はきっと、自らの寿命が尽きて声の出せなくなるまで鳴き尽くすのだろう。鳥のことに思いを巡らしていると、まこちゃんの家の前まで来た。しかし、いつも待っているはずのまこちゃんは家の前にはいなかった。彼女は仕方なく1人で登校した。

 教室へ着くと、まこちゃんは既に席に座っていた。それと同時に、彼女の前の席の椅子に後ろ向きに座るゆかりちゃんの笑顔が見えた。きみちゃんは自分の席にランドセルを下ろすなりすぐに2人に加わった。

「おはよう、まこちゃん、ゆかりちゃん。」

「おはよう、きみちゃん。」

「おはよう、まこ。今日はめっちゃ寒いね。」

「うん、寒くなったよね。ねえねえ何話してたの?」

「いつも通りだよ。それよりさ、昨日のテレビ見た?」

 朝のホームルームが始るまで、3人の会話はいつものように流れていった。いつも通りの3人らしい話題だった。授業の間中ずっと、きみちゃんは先ほどのことを考えていた。いつも一緒に登校していたはずが、今日の朝はそうでなかった。また、教室に入るや否や2人の仲良く会話を交わしてる様子も目にした。この時、彼女の心の中でいいようのない不安がよぎった。いつでも、どこでも共にしていたまこちゃんに、この種の感情は抱いたことなど以前はなかった。彼女は、自分がなぜ落ち着きをなくしているのか分からないことに動揺を感じながら、目の前で坦々と引かれていく白線をただ眺めていた。

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