第2話 松

 気の滅入るようなピリピリとした寒さがとうとう訪れた11月のある日、きみちゃんはいつも通りに家を出た。家の中も寒かったが、ドアを開けると独特の澄んだ冷たい空気が瞬く間に顔中にまとわりつき、より一層寒く感じる。それでも、空はどんよりとした灰色の雲に覆われていたため、この寒さであってもまだましな方のようだ。朝の道には、会社員やら中高生らが白い息を吐きながら足早に歩いている。ふと何処かで、

「ホホウホウ ホホウホウ」

 と鳴く声が聞こえてきた。右の塀の向こうに立派な松の木があるが、その木陰でキジバトが寒さなど全く意に介さないかのように鳴き続けている。飽きることなく泣き続けているこの鳥も、あまりの寒さに鳴かぬ日もあるのだろうかなどと考えながら歩いていたら、まこちゃんの家の前に着いた。既に彼女は家を出て、両手を口に当てて寒さを紛らしていた。ふと、今度のクリスマスプレゼントに手袋はどうだろうか、という考えをよぎらせながら声をかけた。

「まこちゃんおはよう。」

「きみちゃんおはよう。」

「今日も寒いね、早く行こう。」

「そうだね。行こう行こう。」

「まこちゃん手袋しないの?」

「まだ準備できてなかったよ。お母さん用意してくれてるかな。」

「ねえねえ、クリスマスプレゼントに手袋あげよっか。」

「え?いいの?ありがとう。新しいの欲しかったんだ。」

「まこちゃんの好きなピンク色の花柄のにしようかな。」

「やっぱりきみちゃん分かってるね。私はお返しにマフラーあげようかな。」

「ありがとう。楽しみだね。」

 クリスマスプレゼントの話をしながら、2人はいつも通り登校した。雑多な話をしながら校門まで来た時、2人の会話が一瞬途切れた。なんとなく西の空を見上げたきみちゃんの目に、その端をさっと横切る一羽の鳥が映った気がした。



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