青海。※
いつも通りの困ったような優しい少年の声が耳朶を打った。
「セアラ?どうして泣いているんだ」
顔と顔を触れ合うほど近づけ、形の綺麗な唇を奪いました。何度も何度も。とろけるような快楽でした。舌と舌が絡み合い、銀の糸をひきました。
口内を蹂躙していると、自然とアルエリヤさまの股の間に手が伸びていました。
悪戯するわたしの手。
いとけない主人は息もできずに苦しんでいました。美しい青い虹彩が潤み、頬が蒸気して薄紅に染まっていきました。
苦しいのですね。このわたしに翻弄されているのでしょうか?
「……セアラ」
なにか言いたげな声音にうっとりと微笑み返しました。
アルエリヤさまは眉をひそめられました。それを無視して衣服を剥がしていきます、眩い純白の衣を一枚、また一枚と。
瑞々しい芝生の上に豪奢な白い布が何枚も散らばり、まるで穢れない新雪のようです。
今からわたしはこの降り積もったばかりの新雪を、この足で容赦なく踏みにじるのです。
セアラは生体人形で『勇者』ですから、少女の滑らかな肌の下に硬い筋肉が隠れています。特に鍛えている訳でもない少年の肢体はセアラよりかは、柔らかなものでした。淡雪のように融けそうで頼りなげでさえありました。白い滑らかな肌に指を這わし、口づけ、舌で嘗め回しました。
どうして、身体を好きにさせるのですか。もの言わず、もの言いたげな視線を向けるのか。
白い肢体に抱き着いた。安堵に包まれる。わたしは今、アルエリヤさまとこんなにも一つに近いのです。
美しい幻想的な蒼闇の髪のわだかまる様子のなんて清らかなのか。
ふらふらと灯に惹かれる蛾のように視線が吸い寄せられる。顔を埋めると、アルエリヤさまに満たされてゆくようです。
心が疼いて、身体が熱くてなりません。ご主人さま、なにをお考えなのですか?
セアラの瞳をまっすぐに見据えて。深い青い井戸の底が底知れぬ神秘を含んでいた。
「嗚呼……アルエリヤさま。……小さなアルエリヤさまを、わたしに下さい」
懇願するような悲痛な響きを含んだ、ねっとりとした声でした。この声は本当にわたしの喉から出たのでしょうか?
彼のものを、そっと手に取りました。まだ柔いそれに優しく触れて吸い付きました。そのまま、舌でぺちゃぺやちゃ舐めてゆきました。ほんの少し、しょっぱくて苦くて甘かったです。いっぱいになった心が涙となって流れ出ました。ああ、熱い。これは頬を濡らす熱い雫なのか、濡れそぼった
主人達の愛玩人形には二つの生まれ方があります。もし、わたしがあなたの創造物であれば、どれほど良かったでしょうか。世界に疑惑を抱くこともなかったでしょう。今のわたしはアゼス様に賛同します。やはり、この世の不条理は正されねばなりません。
並行世界では、何もかも忘れた白い少女があなたに創造されて誕生するのです。真っさらな彼女は閉ざされた箱庭で永遠に愛を捧げるでしょう。
「……ッ!セアラ、なんだこれは」
アルエリヤさま、情欲を捉えたのですか?たのしいですか?セアラはとっても幸福です。
大きく股を広げて、わたしは上から貫かれました。
「……あるえりやさまぁ」
甘ったれた声が零れました。およそわたしの声とも思われぬものでした。下のお口と同じで、まるで壊れた機械のように制御できません。
「あるえりやさまが、わたしぃのなかに、ああ!!」
後ろ暗い快楽……心をひき裂かれるような一方通行の行為は、それでも夢見心地でした。
ずっと、永遠に終わりが来なければいい。
一人きりで腰をふりつづけました。甘くて苦くて心が壊れそうな……そんな一時でした。アルエリヤさまは、わたしと繋がったまま果ててしまいました。わたしは一体どれほど子胤をゆすったのでしょうか。
気を失った美しい少年に一度口づけて、あえて繋がったまま、まじまじと眺めてみました。
途方もなく清らかな一幅の絵画になりそうでした。眩い純白の生地や星々のように燦めく装身具が散乱する中に倒れ臥す、一糸まとわぬ美貌の少年。
力なく芝生に倒れた主人の側にそっと近寄ります。わたしは自然と三角座りになって蹲ってしまいました。
ゆらゆらと西の空に燃える炎が見えます。もうすぐ、ここにも火の手が回るでしょう。栄華を誇った水上の都も無惨な焦土と化すのです。
ふと、白絹の室内履きが目に入りました。わたしは、それを両手で持ち抱えました。透けるような空を背景に光沢のある生地が輝いていました。わたしは空に掲げた一足を、望洋と眺めてつま先に吸い寄せられるように口吻を捧げました。
おやすみなさい、アルエリヤさま。おやすみさない、わたし。いずれまた。
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