ナナシのネガティブな昼休み(2)
「……屋上の鍵が開いていて、助かったな」
人がいない場所を求めて
学園内をさまよっていたナナシ。
屋上に出ると、
空は青く澄み渡っていて、
太陽の日差しが
ナナシと同様に
教室に居場所もなく、
行く宛てもないのか、
独りぼっちでご飯を食べている生徒が
何人か見受けられる。
……孤独なぼっち飯は
自分だけではないということか
眩しそうな目で空を見上げる。
太陽が
よく分からないが雰囲気に酔っているナナシ。
改めて言うまでもないが
ナナシは面倒臭い。
この状況に、
悲しいとか寂しいとか涙するよりも
孤独な社会不適合者の俺カッコイイ
と思っている節すらある。
先程はさすがに傷つきもしたが、
その反面、生きるとは孤独なことなどと
はぐれ者や一匹狼を気取って
自分に酔っていたりもするのだ。
厨二病の一種と言ってしまえばそれまでだが、
生きて行くことが辛いと思いながらも
死にたいとか、
死んでしまいたいとか思わないのは
その辺の思考であろう。
なのでこれからは厨二病の人を見たら
壊れそうになる
心の防衛策を取っているのだと思って
生暖かく見守って行くべきかもしれない。
自分のことを激しく嫌いつつも、
厨二病であったりナルシストな側面もある。
外では社会に適合出来ない、
まともなコミュニケーションすら取れないと
自分のことをネガティブに卑下しつつも、
学園内、つまりコミュニティ内では
上から目線で他者を語り、
自尊心やプライドを垣間見せる時もある。
個人情報保護の観点から
他者に自分の素性を知られたくないとしつつも、
自分の行動を誤解しないで分かって欲しいと思う。
そうした相反する感情が複雑に混在していて
相手や状況によって変化し、
さらにそこに一貫した法則性はない。
芯がブレていると言えばそれまでだが、
人間らしいと言えば、人間らしい。
そんな面倒臭い奴なのだ。
-
屋上の柵、その根本は段差になっており
腰を掛けて座るにはちょうどいい。
太陽が眩しいので
日陰の位置に腰を下ろして
改めて弁当を食べはじめる。
……これでようやく
味を噛み締められるというものだ
お弁当を味わっていると、
そこへ女子の二人組みが現れた。
ぼっち以外にも
屋上でご飯を食べる者がいるというのか
確かに屋上と言えば
アニメやドラマなどに必ず出て来る
青春の象徴とも言える場所
思いつめて、柵を乗り越えて
校庭にダイブする者などがいなければ
本来は鍵など掛けずに
開放されてしかるべき場所なのだが
これだけ
ぼっち飯の需要もあるというのに
いやむしろ
ぼっち飯とダイブ希望者の相関性が高いから
鍵を掛けているということか
今朝からロクでもない事が続いている為か、
いつにも増してシニカルで毒舌なナナシ。
あくまで心の中限定ではあるが。
女子の二人組は柵の段差に腰掛け、
膝の上でお弁当を広げはじめる。
その光景を見たナナシは
また大袈裟に驚愕する。
自分の向かい側に座っただと!?
いやちょっと待て
何故あえてそこに座る?
他にも場所はいっぱいあるだろう?
まさかこの女達
何か企んでいるのではあるまいな?
これだけどうでもいい事を考えている割に、
そこが日陰だからだという考えには
思い至らないらしい。
ここは全く気づかない
視界に入っていないフリをするしかない
そう思って雑念を振り払い、
弁当を食べるナナシだったが、
視界にはどうしても女子の姿が入ってしまう。
この屋上の構造的に
日陰になっているエリアはそれ程広くなく、
向かいと言っても
数メートルぐらいしか離れていない。
体面の女子二人は何やら
キャッキャッウフフしながら
楽しそうにお弁当を食べている。
これは、まさか
独りでお弁当を食べているぼっちに対して
楽しそうな様を見せつける
陽キャのメンタル攻撃、
もしくはリア充のテロなのか?
どれだけ陽キャとリア充に
偏見を持っているというのか。
そして何よりも気になって仕方ないのが、
目線的にどうしても、
女子二人組のスカートから
すらっと伸びた白い足が
視界に入って来てしまうことでもあった。
ナナシも年頃の高校生男子なのだから
そういうのが気になってしまう
そんなこともあるであろう。
い、いかん……
このままでは女子の足を
チラ見して喜んでいる変態
ということになってしまう
場所を変えるべきか?
いや待て
そもそもここに
最初に座っていたのは自分なのだ
それなのにわざわざ
自分達から向かいに座って来たのだぞ?
ここで自分が去るのは
おかしいのではないか?
それにだ、もし自分が不自然に
急にこの場を立ち去ったら、
目の前に人が来てうるさくて不快なので
場所を変えましたと
宣告しているようなものではないか
そういう誤解を
相手に与えてしまう可能性は
充分にあるだろう
それはちょっと相手からすると
感じが悪いのではないか?
ここでもやはり面倒臭い思考のナナシ、
もうこれは治るものでもないのだろう。
以前の自分であれば、
ここで挫けていたことだろう……
だがしかし、今の自分は
以前の自分とは違うのだ、
過去はもう克服したのだ
そう、高校生になって
スマホを手に入れてからはな
制服のポケットからスマホを取り出し、
画面を見ているフリをするナナシ。
さもLINEでもしているかのように装うが、
お昼休みにLINEをするような
友達などはもちろんいない。
そう、ぼっちにとって心強い味方、
それがスマホだ
周囲にぼっちだと悟られたくない時には
スマホをいじって
『今ここに友達は来ていませんが、
今ちょっと連絡を取り合っていて
この後合流するんです』
という体裁をつくろうことも出来る
今回のように
目の前に居る相手に対して
自分は全く興味がないと表明する、
『あれ、そんなところに居たんだ?
全然気づかなかった』
そうアピールするのにも役立つ
ぼっち界隈に対する
スマホの貢献は計り知れないものがある
ぼっち界隈というのが
どの辺りなのかは分からないが、
そんなアリバイ工作みたいなことに使う前に
もっとスマホらしい使い方をしろと
言いたいところではある。
今スマホを見ているので
他は何も目に入っていませんと
なに食わぬ顔でアピールするナナシ。
だがそこでとんでもないことに気づく。
!!
い、いや、ちょっと待て
こ、これは
このスマホの内蔵カメラの、
この位置と角度では
まるで目の前の女子達を
盗撮しているようではないかっ!?
クソッ、なんたる失態だっ!
電車に乗った際に、席に座って
向かい側にいる女性の
丈が短いスカートだった時、
盗撮を疑われないように
大変な苦労をしたというのに、
また同じ失敗を繰り返すというのか!?
そんなことで苦労していたのか。
い、いかん、
このままでは学園内の盗撮犯として、
先生にチクられて停学、最悪の場合は
退学になってしまうではないかっ!
慌てふためくナナシ、
だがこういう時に限って
間違ってスマホのカメラアプリに触れてしまう。
なんだとっ!?
クソッ、このままでは
本当に盗撮犯になってしまう!!
さらに慌てふためいたナナシは
スマホが手につかなくなり、
そのままスマホは宙を舞う。
ピロローン
間の抜けたシャッター音と共に
地面に落ちたスマホ。
なんとか女生徒達を
誤って盗撮してしまうことだけは免れた。
「……サイテー」
「キモツ」
ナナシには女子二人組が
そんな捨て台詞を吐いて
去って行ったように思えたが、
これもまた定かではない。
自意識過剰故の勘違いかもしれないし、
本当に暴言だったのかもしれない。
またしてもモヤモヤ、モゾモゾが止まらず、
弁解を、釈明をしたい衝動に駆られるナナシ。
違う、そうではないっ!
違う、違う、違う……
「違うのだぁっーーー!!」
屋上ということもあり
気が緩んでいたのか、
朝からここまで
余程ストレスが溜まっていたのか、
珍しくナナシは大声で叫び声を上げてしまう。
ナナシが思わず発した叫び声。
屋上でぼっち飯を食べていた
独りぼっちの生徒達は顔を上げ、
一斉にナナシの方に目を向けたが、
発作的にダイブをするような
素振りもなかったため、
また下を向いて
それぞれ自分の内面世界へと帰って行った。
その後は特に
ナナシを気にするようなこともない。
それは当然と言えば当然で、
いきなり突然奇声をあげるような人間とは
誰だって関わりたくはないだろう。
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