上裸、だと!?
「なるほどな……
ナナミくんが、ストーカー被害に
あっているかもしれないのか……」
二号先輩が険しい顔をして言う。
部室にやって来たナナミとナナシ、
二人は個人情報保護部の先輩たちに
相談してみることにしたのだ。
「クケケケケッ……」
他の先輩達が同情的な中、
ビッチキラー先輩だけが
薄気味悪い笑い声を上げている。
先日、自分と二人きりで居た時とは
また人格が違うのではないか?
もしかしてそこに居るメンバーによって
性格が変わる多重人格みたいなものか?
闇が深すぎるな、この人も
ナナシも人のことを言えたものではないのだが。
仮にも個人情報保護部を名乗っているのだから
それなりに役に立つ助言をしてもらえるだろう、
ナナミはそう思っていたし、
ナナシにもある考えがあった。
「可愛い後輩が困っているのだ、
ここは個人情報保護部の名にかけて
助けてやらなくてはいかんなっ!」
筋肉部長はここが自分の出番だとばかりに
やけに張り切ってポージングをしている。
「学校の帰りに俺と二号が
ナナミくんの護衛をしつつ、
ストーカーらしき不審者がいないか
調べてみることにしよう」
言っとくけど、
あんた達を越える不審者って
そうそういないからなっ!
普通にあんた達の方が
よっぽど不審者だからっ!
そんなツッコミを心の中で入れたナナシは
気を取り直して手を上げた。
「部長、それに関しては
自分から提案があるのですが……」
反射で光る眼鏡を指で押すナナシ。
「これから学校がある日は毎日
個人情報保護部のみなで集まり
スマホで写メを撮って、
ナナミのインスタアカウントに
UPするというのはどうでしょうか?」
筋肉部長は腕組みをしながら深く頷いた。
「なるほど……
彼女の周囲には
強力なボディーガードがいると
インスタを通じて
ストーカーにメッセージを送る訳だな?」
「この俺の屈強な肉体を見せれば、
この筋肉にストーカーもビビって
ストーキング行為を止めるだろうと……
つまり、俺の筋肉で
ストーカーを牽制しようと言うのか」
「……えぇ、まぁ」
顔を背け、伏し目がちに同意するナナシ。
「それは素晴らしい!
部長の筋肉を見れば
ストーカーもきっと逃げ出しますよっ」
普段は真面目で理知的な二号先輩も
敬愛する筋肉部長のことになると
途端にダメな人達の仲間入りをしてしまう。
なにせ部長を尊敬するあまり、
部長と同じマスクを被り
二号と呼ばれる道を
自ら選んだというぐらいだ。
二号先輩はもうすでに
自らのスマホを取り出し、
マスクを被った部長の姿を
何枚も画像に収めはじめている。
「いいですね!
いいですよ、部長!」
「ポージングとか決めてもらえますか?」
なんだこのモデルの撮影みたいな感じは
二号先輩のスマホから
シャッター音が鳴り止まない。
「部長……
嬉々として目を輝かせている
二号先輩が勢いに乗って、
またロクでもないことを言い出した。
「なにっ!
その意味が分かっていて
俺に聞いているんだろうなあ? もちろん」
「決まってるじゃあないですか! 部長!」
「そ、そうか……
ついに俺にも、可愛い新入生、後輩のために
一肌脱かねばならない時が来たようだな……」
上半身裸、だと!?
まさか、リアルに一肌脱ぐというのか
「ついに俺のこの筋肉が、
人助けをしてしまう日が来たのか……」
筋肉を使った人助けの方法が
全力で間違った方向な気がするが
「いいだろうっ!
この俺の筋肉を思う存分
ナナミのインスタにUPするがいいっ!」
もうそれ、
ここの人達、
個人情報保護には厳しいが
ハラスメントには
寛容過ぎるにも程がある
ビッチキラー先輩が
後輩を辞めさせたというのも
普通ならパワハラみたいなものだろ
そんなことにはお構いなく、
上着を脱いで
上半身裸となった筋肉部長は、
二号が構えるスマホのカメラを前に、
ボディビルダーのような
渾身のポージングを決める、
もちろん覆面はしたままで。
もうこれ、ただの覆面レスラーだな
「フロント・ダブル・バイセップス!」
「サイド・チェスト!」
「部長! キレてます! キレてますよぉ!」
もうこれ、なんの撮影会なんだよ
ナナシは個人情報保護部みんなの
集合写真ぐらいに考えていたのだが、
提案は渾身の力づくで曲解され
どんどん変な方向に全力疾走して行き、
個人情報保護部では大撮影大会がはじまった。
-
「では、ビッチキラー先輩は
自分が撮りましょう」
ナナシがそう言って
いつものように白頭巾に白マントの
ビッチキラー先輩を振り返ると
『FUCK YOU!』
そう手書きで記されたフリップボードを
左手で前面に押し出すように持ち、
右手で中指を突き立てて、
ドヤ顔(?)でポーズを決めている
彼女の姿があった。
ビッチキラー先輩の準備は万全だった。
いかんな、
インスタの利用規約を今一度
よく読まなくてはいけないようだ
確か、公序良俗に反するものは
UP禁止だったな
問題なのはこの人が
公序良俗に反している扱いでも
ちっともおかしくないところだ
「じゃあ、せっかくなので
動画も撮ってみましょうか?」
ナナシがスマホを
動画撮影モードに切り替えると、
ビッチキラー先輩はいつものように
親指で首を掻っ切るポーズをしてみせ
その親指を下に向ける。
「クケケケケッ……」
薄気味悪い笑い声を
上げ続けるビッチキラー先輩。
地上波だったら放送禁止だろ、この人
絶対モザイク掛けられてるって
もし何か言われたら
ドラゴンボールに出て来る
マイティマスクのコスプレをしていると
言い張るしかないな
全身タイツ先輩は
左右にくねくね体を揺らす
妙な動きを延々と続ける動画を。
忍田(しのびだ)先輩は
誰もない学校内の風景から
忍者がひょっこり現れるという企画系の動画を
学校の許可を得て撮影した。
占い師先輩には、
見た目の特徴を活かして
占い師キャラを演じてもらう。
タロットカードをそれらしく
かき混ぜたり並べたりしながら、
最後に五枚のカードをめくる。
「占いの結果が出ました……
いいことも悪いこともあなたの捉え方次第、
要は気持ちの問題です……」
一見占っているようではあるが、
実はただ名言、金言を述べているだけ。
「明日は明日の風が吹くでしょう……」
「朝早く起きるといいことがあるかもしれません
(早起きは三文の得)」
雰囲気のある暗い部屋で
それっぽい格好をした占い師先輩が言うと
それらしく聞こえて来るものだ
占いとは案外そんなものなのかもしれんな
そんな感じでみんながみんな
思い思いに撮影を楽しんでいた。
もうこいつら全員
ユーチューバーでいいだろ?
こんな頭のおかしい画像や動画が
まるで迷惑メールの嫌がらせのように
スマホに集中的に送られて来る
ナナミには気の毒なことだが
これもこいつのためだ
多少我慢してもらうぐらいは
仕方あるまい
「えっ!? ちょっと待って、
これすごくないっ!?」
「超面白いんですけどっ!」
そこは変人大好きナナミ、
まるで有名ユーチューバーの変な動画を
食い気味に見ている小学生のごとく
目を見開いて興奮していた。
ナナミのインスタアカウントに
毎日投稿される個人情報保護部員達の
頭のおかしい動画の数々。
ふっ、そうこれは
ストーカーとの勝負なのだ……
目には目を、歯には歯を、
変態には変態を
by ハンムラビ法典
つまり、毒を以って毒を制す
ストーカーなどと特別な名称を冠し
特別なポジション、
立ち位置を確立しているように思われるが
本を正せば、単なる変態犯罪者
下着泥棒と変わらぬ同じ穴の
変態指数で言えば、
ここ個人情報保護部も決して引けはとらん!
……一応、犯罪者ではないが
そうこれは、
ストーカーとのチキンレースなのだ
例えば、
ストーキングをしていた対象が
ものすごく怪しい、狂気的な
新興宗教団体などに入信したとして
このままでは自分も巻き込まれる
もしくは自分の身に、
命にまでも危険が及びそうである
そうなった際に
果たしてストーカーは
どこまで命をはれるのか?
もっと簡単に例えるならば、
ストーカーが追っかけているのが
ガチ極道の愛人だと分かったら
さすがにストーキングやめるよね?
ということなのだ
しかも今回の犯人は
相手は誰でもよかった
お手軽タイプの、さらに模倣犯
タカアシガニだけは本気過ぎて
謎の不確定要素ではあるが……
さぁ、ストーカーよ!
いくら美少女とは言え
こんな頭おかしい集団に属する女を
お前はストーキングし続けられるのか!?
まぁ、無駄にストーカーを煽っているだけ
という気がしなくもない。
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