ストーカー被害、だと!?
それから数日後。
タカアシガニ事件の被害者もいないようで
まずはやれやれと言ったところだな
ナナシがそんなことを考えていると、
前の席に座るナナミが
振り返り小声で話し掛けて来た。
「あのさぁ、ナナシくん……
ちょっと、相談があるんだけどさぁ……」
「なんかここ数日、学校帰りに
誰かに後をつけられているような
気がするんだけど……
家の前にも不審者が居たって
お母さんが言ってたし……」
「俺じゃないぞ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「もしかして
ストーカーなんじゃないかなと思って、
ちょっとコワクなっちゃって……」
ストーカー、だと!?
「いつからなんだ?
なにか思い当たる節はないのか?」
「そう言えば、この間
駅にタカアシガニがいて
珍しいからスマホで撮って
インスタにUPした直後からかなぁ……」
タカアシガニ事件の被害者、居たーー!
しかもこんな身近に!
結局部長はタカアシガニを
落とし物として交番に届けてしまったので、
確かにナナミはそのことを知らなかった。
タカアシガニが
ストーカーの罠であったかもしれないことを
説明するナナシ。
その話を聞いたナナミは
コワくなり震えている。
「でもインスタにUPしたぐらいで
私の家まで分かったりするかなぁ……?」
「よし、では
俺が証明してやろう」
-
昼休みに部室で
PCを使って検証してみる
ナナシとナナミ。
「では、お前の
インスタを見てみせてもらおう」
タカアシガニの画像は
ナナミがもう削除してしまっていたが、
使っている路線は特定されている
という前提からはじめることにする。
ナナミのインスタのアカウントには
顔出しの画像こそないものの、
やはりいくつか
手掛かりになるようなものがあった。
「これは中学時代に
UPした画像のようだな」
頷くナナミ。
「〇月〇日が体育祭……
×月×日から修学旅行で京都……」
「この路線近辺で
そのスケジュールで体育祭、
修学旅行があった中学校は
かなり絞られて来る……」
「お前が撮った桜などの風景や街並みも
地域を限定するには十分だな……」
ある程度、
地域の絞り込みを済ませたナナシ。
「決め手はこの写真だな」
ナナシがそう言ったのは
室内の様子が分かる画像。
もちろん顔は写っていないが、
窓から外の景色が見えている。
「この画像がUPされた時間と
窓の光の入り具合からして、
この窓が南向きだと仮定、
南向きでこの景色が見えるとなると……」
ナナシはPCで
Google MAPのストリートビューを使いながら、
何やら一人で呟いている。
「お前の家って、ここか?」
数分後、
ナナシがPCに出した画像を見て
ナナミは驚嘆の声を上げる。
「えぇっ! すごいっ!」
「ナナシくんて、
ストーカーやったことあるの?」
クソッ! この女
まさか俺をストーカーの犯人に
仕立て上げようというのか!?
いや、そもそも最初から俺を
ストーカーの犯人だと睨んで
このトラップを
仕掛けて来たのではあるまいな!?
なんということだ!
これで俺には
こいつの家を知っているという
既成事実が出来てしまったではないか
「俺、お前の家とか知らないから
俺は全く関係無いから」と
言えなくなってしまうんだぞ!?
この先俺はストーカーの容疑者の一人として
疑われ続けなくてはいけないということか!
今俺は、こいつの家を
知らないという事実を失った
こいつの家を知らないという俺は
もう既にどこにもいないということか!
仕方がない……
決してやってはいないが、
お前が警察に届けないと約束するのなら
俺がストーカーの犯人として謝罪してやろう、
それでお前が安心出来ると言うのならな!
それではナナミが安心したとしても
根本的な解決にはならないのだが。
-
しかし、マズいことになったな……
成り行きとは言え
こいつの自宅の場所を知ってしまった
これからはこいつの家付近に
不審者が目撃される度に
俺が犯人だと疑われかねんっ!
そしてこいつが
美少女という宿命を背負って
生まれて来てしまった以上、
この先の人生でそうしたことが
何度かあるかもしれん
その度に俺は犯人ではないと
こいつに釈明しなくてはならないのか
個人情報とは、
知ってしまった側にとっても
面倒くさいものであるのだ
バイトの面接や就職面接で
預かった履歴書は
必ず本人に返送するか
厳重に処分しなくてはならないように
-
しかも、驚いたことにだ……
こいつの家、隣町ではないか
俺の家にも結構近いぞ
これでは帰りの路線も
最寄り駅も一緒になってしまう
これからは用心して
鉢合わせしないようにしなくてはならんな
「登校は朝だしまだいいんだけど、
学校の帰りとか、ちょっと不安だなぁ……」
確かに、確かにだ……
俺が学校帰りに家まで送ってやれば
ストーカー対策の護衛にもなって
いいのかもしれん
俺もこんな美少女と毎日
学校から家まで一緒に帰れるなど、
この先の人生でおそらく
もう二度とないようなことであろう
それはまさしく
青春恋愛ものの定番中の定番
まるでリア充のように毎日
ウフフきゃきゃきゃ出来るのかもしれん
しかし、しかしだ……
「だが、断るっ!」
「?」
ついつい力(りき)んで
思ったことを口にしてしまったナナシ、
突然の発狂にきょとんとしているナナミ。
降車駅、最寄り駅を知られてしまうのは、
住んでいるエリアを特定されてしまうからな、
個人情報保護の点からもよろしくない
ましてや家まで送るとなると
自分がそこから
歩いて帰れる範囲内に住んでいると
伝えてしまうようなものではないか……
利用している路線を
知られてしまうのも厄介だな、
リスクが非常に高い
こいつに利用している路線を
知られてしまうということは
他の者達にも知られてしまう可能性が高い
悪意がなくてもそういうことは
何かのついでについポロっと
言ってしまうものだろう
例えば、嫌いという訳ではないが
ある程度の時間
二人切りで一緒に居るのが辛い
苦手な相手
そうした相手とたまたま偶然
帰りが一緒になってしまった
しかも利用路線が同じで
このままでは途中まで
同じ電車に乗って帰るハメになってしまう
途中まででも
そのまま一緒に帰るのが苦痛という場合に
「自分の利用している路線、
そっちじゃないんで」と言って
一旦違う方向に向かって歩いて行き、
後からこっそり戻って来て
同じ路線の電車に乗る作戦が
使えなくなってしまうではないか
「ちょっと俺用があるんで」では
空気を読んでくれない相手に
「俺も一緒について行くよ」という
リアクションを返されてしまうこともあるしな
この辺の些細な部分に
ナナシの闇が垣間見える。
「そうだな、帰りは
家の人に駅まで迎えに来てもらった方が
いいんじゃあないかな」
これでだ……
俺は家が近くて
降車駅が一緒であるにも関わらず、
ストーカーに怯えるこの女と
一緒に帰ってあげなかった
罪深き大罪人ということになるのか?
これでますます
駅でばったり会ってしまうという
シチュエーションは
なんとしてでも避けねばならなくなったな
自らのバラ色の青春を捨ててまで
自宅を隠すことを決意するナナシ。
-
しかしなぜ他人と一緒に電車に乗ると
必ず気まずい空気になるのだろうな
仲が良い相手と乗ったとしても
必ず微妙な空気感になるだろ?
沈黙に耐え切れずに
無理矢理テンションを上げて喋り続け、
余計に微妙な空気になるか
黙ってひたすら沈黙に耐え続けるか
どちらにしても
まぁまぁの耐え難さだな
これはやはり自分が
陰キャだからであろうか?
陽キャはそう感じることはないのか?
あと友達と二人で
泊まりの旅行した時なども
やはり何度か必ず微妙な空気になるな
そんなことを考えているナナシの耳に、
すぐ横で話していたクラスメイト、
男子二人の会話が聞こえて来る。
「今度の週末さ、
俺ん家(ち)泊まりに来いよ、
オールでゲームしようぜ」
友達の家にお泊りする、だと!?
ナナシがそちらを振り向くと
その話をしているのは田中公平と、
最近彼が仲良くしているツレであった。
おい、ちょっと待て……
そんな大それたことをしていいのか?
田中公平よ……
まだ知り合ってから
わずか一週間程度しか
経っていないというのに
もう自宅に招き入れるというのか!?
家を知られることが
どれ程危険なことか分かっていないのか?
今はまだ知り合ったばかりで
毎日ドキドキして気持ちが熱く
相手が魅力的に見えるかもしれないが
しばらくしてみると
『こいつやっぱりそんな気が合わないし
ちょっと違うかなぁ』と思えて来て
疎遠になってしまった場合
どんな報復をされるか
分かったものではないのだぞっ!?
頼んでもいないデリバリーのピザが
大量に家に届いたとか
ネット通販で高額商品が
代引きで送られて来たとか
「なんか最近冷たいよね」などと言って
突然家に押し掛けて来るとか
「家に居るのは分ってんだからね」と言って
家のピンポンを小一時間連打されるとか
そんな報復をされる可能性を
考えたりはしないのか!?
それどこの別れた元カノ(ヤンデレ)だよ。
まだお互いよく知らないのに
相手の家に行って
『こいつの家って
こんなにすごい金持ちだったんだぁ』と
まるで別世界の人間のように
感じてしまったり
『こいつも本当は
すげえ苦労してんだな』
そう感じてそれ以来
無理に遊びに誘えなくなってしまったり
破局の原因になる可能性も
充分有り得るんだぞっ!?
お前は婚活中の女子か。
しかもまだ信頼のおけない
相手の家にお泊りするなど
いつ寝首をかかれるか
分かったものではないではないかっ!
いやそれ、どこの戦国時代だよ。
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