さては、貴様、ゆとり世代だな?

  ふっ、ついに俺にも

  こんな時が来たというのか……


  これ程までの美女と二人、

  仲睦まじく肩を並べて街中を歩く


  まるでリア充のようではないか……


  見てみろ、この抜群のスタイルを

  背が高くて見栄えもするし

  十頭身ぐらいはありそうな、

  まるでモデルのような体型ではないか


  まさか、この俺に

  こんな日が、こんな時が訪れようとは……


  ……ただちょっとだけ、

  そう、ホンのちょっとだけ……


  自分のような者がおこがましいですが

  我儘を、贅沢を、お願いを

  言わせてもらえるならば……


  白頭巾と白装束は

  止めていただきたかったです、


  ビッチキラー先輩っ!!



某人種差別主義者のような

白頭巾、白尽くめの衣装で、

人通りの多い駅周辺を

堂々と歩くビッチキラー先輩。


新入生であるナナシは

彼女のパトロールに同行している。


立っていると長身で

手足が長いビッチキラー先輩、

モデル体型でもあり

その存在感は半端ない。


全身からは

間違った方向に全力で

闇のオーラが放たれており、

否が応でも目立ってしまう。



「ママぁ、あそこに変な人がいるよぉ」


「シーッ、見ちゃいけません」



  ふうっ、

  子供というのは全くもって

  無邪気で素直なものだな


  もうそんな当たり前のことすら

  口に出して言えない

  汚れた大人に俺はなっちまった……



「なにあの人?

ちょっと、びっくりしちゃった」


「きっと、劇団の人とか、なんじゃない?」



  通りすがりのOL二人組か


  さては、貴様、ゆとり世代だな?


  こんなマジモンのガチ頭おかしい

  ヤベエ恰好した人見て


  劇団の人と好意的に解釈するとか、

  優しいにも程があるだろっ!

  

  さすがは戦後教育、

  人を外見で判断しちゃいけませんとか

  人を疑ってはいけませんとか

  優しい人間に育つようにとか

  伊達だてにそういう教育をされた訳ではないな


  まぁ、もし俺だったら

  即効で通報している……


  もっと人を外見で判断しろっ!

  もっと人を疑えっ!

  どう考えても怪しい不審者の一択だろっ!!


  人を見たら泥棒と思えっ!

  いや、人を見たら変態と思えっ!



  「一緒に歩いている連れが

  コスプレの恰好してて

  メッチャ恥ずかしかったわ」

  とか言う奴がいるけどもだ


  どんだけ生ぬるいんだって話しだよ


  こっちとら、恥ずかしいとか

  そんなレベルじゃあねえんだよっ!


  胃が痛い、胸が痛い、

  鼓動が早い、心拍数早い、脈が早い、

  変な緊張で、変な汗出まくり

  喉も口もカラカラ

  そんな明らかなステータス異常


  お巡りさんが通らないように祈る

  コワい人達に絡まれないように祈る

  頭おかしい人に

  仲間だと思われないように祈る


  もう祈ることしか出来ない

  絶望的な状況


  普通のコスプレだったら

  どれ程良かったことか……


  ガチで頭おかしいキ〇ガイと

  いっぺん一緒に歩いてみろ!

  と言ってやりたい



今日のナナシはいつにもなく毒舌、

こうして街を一緒に歩いていることで、

ビッチキラー先輩の凶暴性が

伝染したのではないかとすら思わせる。


まぁ、そもそも、

なんでこんなことになったのかというと。


-


「今日は、奉仕活動の日だな」


個人情報保護部の部室に顔を出した

ナナシとナナミ。


全員が揃ったところで

筋肉部長はそう言った。


「奉仕活動の日、ですか?」


ナナミの質問には

新入生の教育係である二号先輩が答える。


「部活説明でも話したが、

ここでは各個人がテーマを決めて、

個人情報保護に関する

調査、研究を行っている訳だが……


我々の活動はそれだけではない


人々が個人情報漏洩の

被害に合わないように

奉仕活動を行うというのも

部の活動内容の一つなのだよ」


  ほう、そんな

  人の役に立つようなこともやっているのか


  ただのコスプレ変態部ではないのだな


  というか、

  以前の部活説明でなぜその話しをしない?


「例えば、

あそこのPCの前に座っている

忍田パイセンと全身タイツパイセンは

ネットで怪しいURLを

クリックしてしまった際に仕掛けられている

フィッシング詐欺サイトを調べ上げ、

学園に報告していて


学園からは警察のネット犯罪担当者に

報告が行く仕組みになっている


我々はこうした活動を

人々に奉仕する活動、

すなわち奉仕活動と呼んでいるのだ」


二号先輩がそこまで説明すると

部長はドヤ顔で口を挟んだ。


「つまり、我々は

陰ながら人々の個人情報を守る、

さながら正義のヒーローと言ったところだな」



  確かに、

  全員マスクらしきものを被り

  戦隊ヒーローっぽくはあるが……


  いや、戦隊ヒーローというよりは

  変態ヒーローといった感じなのだが


  いずれにしてもだ……

  全身タイツ先輩は

  絶対PCのモニター、見えないと思う



「最近は、

公衆のフリーWIFIを装って

アクセスして来た端末から

個人情報を抜き取るという手口が

増えているらしいからな


今日はいくつかのグループに分かれて

不審なWIFIスポットがないか

調査して回るとしよう」


戦隊ヒーローで言えば

リーダー、レッドにあたる部長は

ドヤ顔でそう指示を出した。


それでナナシは

ビッチキラー先輩とペアになり、

こんな羞恥プレイを、いやリア充のように

スリリングで甘い一時を体験しているという訳だ。



「ちなみに、

他にこの部の活動って何があるんですか?」


以前の部活説明で

説明されなかった活動が

まだ他にもあるのではないかと思い、

尋ねてみるナナシ。


「それはもちろん、大会だな」



  大会、だと!?


  そんなものがあるのか?


  いやいや、ちょっと待って

  そもそも一体何を競うと言うのだ?


  他の部と違って

  勝敗や優劣をつけるポイント皆無だぞ?


  変態度合でも競い合おうというのか?



「一体何をする大会なんでしょうか?」


「それはもちろん、

各校の個人情報保護部による大会だな」


  いやいや、それ答えになってないから


  各校の個人情報保護部が集まる……

  研究発表会のようなものか?


  ……それはそれで、ヤベエな


  日本全国各地から

  こんなハイレベルの変態が

  大挙して集まって来てみろ


  ただの大惨事じゃねえか……

  もうそれ放送禁止だろ



疑問の尽きないナナシであったが、

果たして大会の全貌が

明かされる日は来るのだろうか。






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