SNS、だと!?

SNS、だと!?

「ねぇ、ねぇ?」

「……あのさぁ」


入学から四日目、

なんだかんだナナミは

毎日ナナシに話しかけて来る。


前の席に座っているのだから

なんら不思議なことではないのだが、

ナナシからすれば不思議らしい。


「お前、これで四回目だぞ?」


「えっ? 何が?」


「お前が俺に話しかけて来た回数だ」


「えっ…… ナナシくん、

女子と話した回数とか数えてんの?」


「……キモッ」


ナナミもついつい本音を漏らしてしまう。



  クッソ! この女!


  お前は美少女だから

  そういうのは全く気にしないだろうがな

  陰キャの身になって考えてみろっ!


  人生の中であと何回美少女と会話が出来るか、

  分からないんだぞっ!?


  もしかしたらこれが美少女との

  人生最後の会話になるのかもしれんのだっ!


  今日を最後に、この先死ぬまで何十年も

  美少女と話す機会は二度となかった……

  そんな可能性は充分過ぎる程にある

  その貴重な最後の瞬間を

  鮮明に脳裏に刻み込んでおかなくてはならないだろうがっ!


  ……まさしくこれが一期一会というやつだ

  まぁ、美少女限定ではあるがな



部活も個人情報保護部で一緒になった訳だし

この先いくらでも話す機会はあるのだが、

そんな明日以降の幸せなんて

陰キャにはとても想像が出来ない。


-


「ま、まぁ、いいだろう……

して、肝心の要件はなんだ?」


「SNSとか、やったことある?」


  SNS、だと!?


「……」


「ソーシャル・ネットワーキング・サービス、

直訳すると

『社会的な繋がりを提供するサービス』って、

知らないわけじゃないよね?」


  社会的な繋がりを提供してくれる、だと!?


  なんだそのいかにも陽キャが上から目線で

  陰キャを憐れんで見下してそうな呼び名は


  「まぁまぁ、お前等もさ

  リアルで友達いないだろうからさ

  せめてネットぐらいだけでもさ

  社会と繋がっておけよ、なっ」


  そう言わんばかりではないかっ!


「もちろん知っている、知っているが……

もっとも自分が必要としていそうで

もっとも自分が必要がないものだな……


社会的繋がりが

著しく欠如している自分には

かなり必要だという気がしなくもないが


個人情報保護の観点からすれば、

まぁ、まずありえんな」


-


「ツイッターとかさぁ」


  ツイッター、だと!?


「あの、

自由に思ったことを発言出来ると

意気揚々ではじめてはみるが


当初はフォロワーが付かなくて

がっかりして寂しい思いをし


付いたら付いたで

フォロワーが減るのが

気になって気になって仕方なくなり、

フォロワー数の増減で一喜一憂し


DMで挨拶されても

ただの挨拶なのか

発言を求められているのかわからず、

こちらから積極的に行っても

こいつうぜぇと思われるかもしれないし、

儀礼的な挨拶だけで済ませるべきなのか、

返信をどうするべきか延々と悩むことになる


そして、フォロワーに配慮する余り

自分の意見を言うどころではなくなり


やがてROM専化し、

タイムラインの流れを見るだけになってしまい


結局、やっぱり陰キャは

ネットでも陰キャであることを痛感させられ

鬱になって死にたくなって来る

メンタル破壊ツール、アレのことか?」


「もしくは、

数万のRTやいいねに

承認欲求が刺激されて、


ツイートする内容、動画や画像、発言などが

ついつい過激なものになって、

しまいには後に引けなくなり


エスカレートし過ぎて

一線を越えて大炎上、

実生活にも多大な被害を及ぼすという


世間ではそうした者達をバカッターなどと呼び、

〇〇発見機などと呼ばれている、アレのことか?」


「もしくは、

世論の動向を見据えながら、

炎上しないギリギリのラインを探り

おそるおそるイキッた発言をし合う


ラインの見極めを間違えて

言い過ぎてしまうと人々から叩かれ

大炎上してしまうという、

数十万人単位のレベルで

チキンレースが行われている、アレのことか?」


あくまで、です。


例によって、

他人(ひと)に途中で遮(さえぎ)られることなく

最後まで喋り切りたいという

ユニークな悪癖を遺憾なく発揮し

気持ち悪い甲高い声の早口で喋り続けたナナシ。


「それ、全部同じツールだからっ!」

「絶対、登録したことあるよね?」


「いや、断じてそんなことはない!!」


-


「じゃぁ、フェイスブックとかさぁ」


  フェイスブック、だと!?


「匿名性の高い

ネット世界であるにも関わらず、


つながりやコネクション、

ルートを開拓するために

本名のみならず住所や連絡先まで

曝け出してしまうという

捨て身のビジネスツール、アレのことか?


会社経営者や起業家など

インフルエンサーになりたいような

自称意識高い系の利用者が多く


世の中に自分を積極的に

どんどんアピールすべしと

自己啓発セミナーに感化されたような人々が

社会的な成功者を目指すために利用しがちという


別名ハイソブックと呼んでも

過言ではないようなツール、アレのことか?」


大事なことなので二度言いますが、

あくまで、です。


「絶対、登録したことあるよね?」


「いや、断じてそんなことはない!!」


-


「だって、ナナシくんさぁ、


電話はもちろんだけど、

LINEも交換してくれないし、

スマホから連絡出来ないじゃん


部活の予定連絡とかもあるのに……」


「そうだ、じゃぁ

スマホのメールアドレス教えてよ」


  メールアドレス、だと!?


「そんなものを教えたが最後、

訳の分からないメールが無数に来るではないか


『六億円当選しました』とか

『あなたに十億円お譲りします』とか、

神々の遊び、もしくは

お金持ちのお戯れのようなメールが届き


全く知らない人なのに

『今度いつ会える?』とか

『なんで返事くれないの?』とか

リアルに居たとしても

ウザいかまってちゃんか

地雷女としか思えないような人物からメールが来る


そんな身に覚えがないメールが

毎日山のように送られて来るんだぞ?



俺の親父などはな、

もう他界してこの世にいない筈の

母親からメールが届いたんだぞ!?


いつから世の中は

霊界通信が可能になったのだ?


昔はテレビから幽霊出て来たことだし、

今の時代はスマホから幽霊ぐらい出て来ても

おかしくないんじゃね? 的なノリの何かか?



また、通信会社やネット通販会社を装った

法人成りすましメールも横行しているではないか


メールアドレスなど他人に教えられるものではない」


「やっぱり、ダメかぁ……」


「……とまぁ、

本来であればそう言いたいところだが


確かに部活の連絡もあるからな……


Gmailでお前と連絡取る用の

メールアドレスをつくってやろう


Gmailであれば、手軽に簡単に

メールアドレスがつくれるからな


俺からすれば、

こうした事態に陥った際の

最後の砦のようなものだ」



まぁこうやってその場で

新しいGmailのメールアドレスをつくり

ナナミに教えたナナシであったが、

手軽で簡単過ぎるが故に

いくつもメールアドレスをつくってしまい、

つくったメールアドレスの

アドレス自体とパスワードが

どれがどれだか分からなくなる

という事態に後で陥るのだった。




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